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第117話 最愛の天敵

 な、何事だ?


 なにか大変な事態が起こっているのではと身構える俺。

 開かれた扉を注視していると、そこから入ってきたのはひとりの女性だった。


 歳は俺と同じか少し上くらいな容貌の綺麗な女性だ。

 あと胸がでかい。アカネちゃんと同じくらいで、気の強そうな目も似ていた。


「あれ? 小太郎君……だよね? ひさしぶりー」

「えっ? あの……」


 どこかで会ったことあっただろうか?


 俺は思い出そうと、女性の姿を見つめた。


「あ、そっか。顔を見て話すのは初めてだよね。アカネのママでーす」

「あ、ああっ!」


 なんか声を聞いたことがあるような気はしてた。

 アカネちゃんのママだ。あのときは諸事情で顔を見て話せず、声しか聞くことができなかったのだった。


「お、おひさしぶりです。先日はなんというか……失礼してしまって」

「失礼って? なにかあったっけ?」

「いやあのその……顔を見てごあいさつできなかったので……」

「ああ。うふふ、あのときはアカネとお楽しみだったものね」


 楓さんがそう言うと、本棚のほうから威圧が放たれたような気がした。


「お、お楽しみ……いやまあお楽しみでしたけど」


 至福の感触を思い出して、少し顔がにやける。


「でもあのあとなにもしなかったんでしょ? どうして? 好きなんでしょアカネのこと? 結婚するんでしょ?」

「け、結婚っ? いや、アカネさんのことは好きですけど、彼女まだ高校生ですし、結婚とかはまだ考えられないというか……」

「アカネは結婚するつもりでいるみたいだけど?」

「そ、そうなんですか」


 アカネちゃんと結婚。

 それはとても素敵なことで、アカネちゃんが望んでくれているのはすごく嬉しいことなのだが……。


「親のわたしが言うのもなんだけど、アカネは良い子だよ。わたしに似て美人でおっぱいも大きいしね。結婚を躊躇う理由なんて微塵も無いんだし、アカネが小太郎君と結婚したいって言うならもう決まったようなもんでしょ?」

「そ、それはまあその……」

「結婚はまだ先だとしても、エッチはするよね? 大丈夫大丈夫。子供が出来てもわたしが面倒見てあげるから安心なさい。わたしも高校生のときにアカネができてねー。卒業間近だったけど、お腹が大きくなってきてたから少し大変だったなぁ。産まれたあとは両親にアカネを見てもらいながら大学に通って、そのころはもうあの人を強引に誘ってエッチしまくりで……」


 なんか語り始めてしまった。

 しかしこの性に奔放と言うか、豪快な感じはアカネちゃんのママだなぁと思った。


「はあはあ。あーエッチなこと思い出したらもう我慢の限界がきちゃった。あの人はどこに行ったの? いるはずだけど?」

「えっ? あー……っとその……」


 社長の指示通りいないと言うべきか?

 しかしいないと知ったら俺に襲い掛かってくるんじゃないかという雰囲気を感じ、なんと言うべきか迷ってしまう。


「あ、大丈夫。どこにいるかわかったから」

「えっ?」


 答えに窮していた俺の前で、楓さんはクンクンと鼻を鳴らし始める。


「こっちからあの人の匂いがする」


 犬かな?


 クンクンと鼻を鳴らしながら本棚へ近づく楓さんを、俺は珍しいものでも見るような視線で眺めていた。


「この本棚からあの人の匂いがする」


 ついに居場所を嗅ぎ当ててしまったが、社長がいるのは本棚の裏側だ。無数にある本の中から、本棚を動かすスイッチになる本を探すのは時間が……。


「とりゃーっ!」

「ええっ!?」


 楓さんは本棚を持ち上げ、本をバラバラと地面に落としながらそれをを頭上に掲げた。


「見ーつけた」

「はわわ……」


 本棚の裏では肉食動物に睨まれた小動物のように、強面の社長が震えている。


「どうして隠れるの?」

「きょ、今日は大事な仕事があってだな」

「仕事とわたし、どっちが大事なの?」

「今日のところは仕事で……」

「ダメ。オールデイあなたはわたしが大事なの。わかってるでしょ?」

「いや、そうだけど、でも仕事が……」

「ダーメ。逃がさない」

「うう……」


 社長はもう泣きそうだ。


 これからここでなにが始まるのか聞かずとも理解した俺は、部屋を出て行こうと言葉無く立ち上がる。


「こ、小太郎君っ! 私とこれから大切な話があるんだよなっ! なっ!」


 振り返ると、そこには縋るような視線の社長が……。


「あーえっと……その」

「無いよね?」


 そう楓さんに笑顔で問われた俺は、


「無いです」

「小太郎くぅーんっ!」


 社長の悲痛な呼び掛けを背に俺は社長室を出て扉を閉める。


「待って待ってっ! か、楓っ! 楓ちゃんっ! ちょ、いやああああっ!」


 そのあとに聞こえてきた社長の叫び声。

 これからここではすごいことが起こるんだろうなぁと想像する。


「アカネちゃんと結婚したら俺も……」


 アカネちゃんと結婚して、そういうことができたらすごく嬉しい。しかし社長の様子からして、あんまり求められ過ぎるのも辛いのかなぁと思いながら、俺は社長室の扉に一礼をしてからこの場を去った。

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