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第114話 最凶スキルの発現(小田原智視点)

 この野郎……っ


 さっきまでは自分のほうが弱かった。だからなにもできなかったが、今は違う。


「郁夫だったか? てめえ、さっきのことは許してやるから俺の前にきて土下座しろよ」

「なんだと?」


 にやけ面だった郁夫の表情が変わり、ギロリと智を睨み上げる。


「魔人になって人間の言葉を忘れたのか? 俺の前で地面へ額を擦りつけて許しを請えって言ってるんだよ」

「……」


 智の言葉を聞いてなにを思ったか、郁夫はイスから立ち上がってメルモダーガのほうへ視線を向けた。


「親父、こいつ殺すぜ。止めても無駄だ。キレちまったからよ。ここで止めてもあとで殺すぜ。だったらここで殺してもいいよな?」

「……」


 メルモダーガはなにも答えない。

 ただ冷たい視線を郁夫へ返していた。


「親父からの許可は出た。はっ、おとなしく俺の靴を舐めていればもう少し長生きできただろうによぉ。馬鹿な奴だぜ」

「俺はてめえみたいに下賤な下級野郎じゃねーからやさしいぜ。今すぐに土下座をすれば許してやっても構わねーよ」

「ふざけんな。魔人の強さを決めるのは心の邪悪さだ。人間だった頃の心が邪悪なほど身体は強靭となって、強力な魔人スキルも得られる。てめえのちっぽけな邪悪さでこの俺に生意気な口を利いてんじゃねーぞ」

「俺は善良そのものだ。邪悪さの欠片も無い」

「だったらてめえは俺に殺されるためにイキりやがった馬鹿だ。俺が人間だった頃になにをしてたか聞けばてめえはビビッて逃げ出すぜ」

「なんだ? ママの財布から小銭でも盗んだか? くくっ」

「女をレイプして殺しまくってやったぜ。100人くらいな。てめえも同じようなことしてたみたいだけどよぉ。どうせ10人くらいだろ?」

「……」

「お話は終わりだ。あの世で後悔しな」


 魔人スキル『マリオネット』で智の身体は自由が利かなくなる。


「さあて、それじゃあこの場で腹を掻っ捌いて死んでもらおうか? それともまずは俺に土下座でもさせるか。げははっ」

「……死ね」


 智は郁夫へ向かって一言、そう呟く。


「は? 死ねだって? 死ぬのはてめーだよ。今からてめーは俺の魔人スキルで自害を……が、はっ!?」


 突如、郁夫は口から血を吐き出してその場に膝をつく。


「なに……が……?」


 そしてうつ伏せに倒れ、身体は煙のように消えていった。


「へえ、魔人って死ぬと死体が消えるんだな」


 くっくっくと笑いながら、智は郁夫の消えた地面を見下ろす。


「女を100人ヤッて殺しただと? それのなにが邪悪だ? そんなの俺にとっちゃ何年も続けた日課だったよ。けど邪悪じゃねーぜ。俺みたいな上級のイケメンにヤられて殺されるんだったら、女も本望だろうからよ。てめえみたいな下級の不細工がやったら邪悪かもしれねーがな。ひゃははっ。もう聞こえてねーか。ひゃははっ!」


 楽しそうに笑う智へその場にいる全員の視線が集まる。


「な、なにをした?」


 その中で最初に言葉を発したのはドルアンだった。


「ああ? 見て通りだよ。殺したんだ」

「違う。貴様がどのような魔人スキルを使用したか聞いているんだ」

「ふん」


 智は鼻を鳴らし、嘲りを込めてドルアンを見上げる。


「俺の魔人スキルは……『デス』。意味はわかるな?」


 魔人になったとき、頭に浮かんだ。

 シンプルで、実にわかりやすいスキルであった。


「ま、まさか、死を与えるスキルだと言うのか?」

「そうだ。俺が死ねと思えばそいつを即死させることができる。試してみるか? くくっ……ドルアンさんよ」

「むう……」


 智を見下ろすドルアンの目が変わる。

 先ほどまではあった侮りが視線から消えていた。


「てめえを殺せば俺が長男だ。俺に殺されるか、それとも長男の座を譲るか選べ」

「貴様……っ」


 ドルアンの目に殺気が宿り、それを見上げる智はニヤリと笑う。


 このドルアンという男がどんな魔人スキルを持っているかは知らない。だが自分の即死スキルに敵うはずはない。


 間違い無く勝てる。


 智は自分の魔人スキルに絶対の自信を持っていた。


「待ちなさい」


 殺しの言葉を呟こうとした智を、メルモダーガの言葉が止める。


「智君、君の魔人スキルは素晴らしい。しかしドルアンには勝てない。戦えば殺されるのは君のほうだ」

「なに?」


 智の魔人スキルは殺したい奴を言葉の一言で即死させるものだ。

 それに勝るものがあるのかと疑問に思う。


「今の君ではドルアンに勝てない。ドルアンを魔人にした私が言っているのだ。間違いは無いことだよ」


 確かに、即死スキルを知っていながらドルアンに怯む様子が無い。

 こいつは即死スキルに対抗するなにかを持っている。そんな気がした。


「しかし人間を殺して角を増やして新たな魔人スキルを覚えればどうなるかわからない。君は強くなるよ。ここで死ぬのはもったいない」

「……ちっ、わかったよ」


 ドルアンの魔人スキルがどんなものかはわからない。

 しかしなにかやばい気がした智は、メルモダーガの言葉に従うことにした。


「それでいい。君には目的があるんだ。ここでドルアンに殺されてはそれを遂げられないからね」

「……」


 智が目指す一番の目的は仮面野郎を殺すことだ。その目的にくらべればここでナンバー2になることなどどうでもいいことだった。


 この即死スキルがあれば奴を殺すなど容易だろう。

 しかし簡単に殺してはつまらない。できる限り苦しめて殺してやる。


「君の目的は承知している。しかし我々の目的にも付き合ってもらうよ」

「ああ。まあいいぜ」


 すでに目的は遂げているも同然だ。

 あとはどう奴を苦しめてやるか? それを考えるあいだ、魔人としての進化でも目指しつつ、遊びがてら教団の目的に付き合ってもいいだろうと智は思った。


「うむ。君を魔人の長男にしてあげることはまだできないが、郁夫が死んだことで7男の席が空いた。とりあえずはそこへ座るといい」

「ふん。7か」


 残った12人の中には女もいる。

 そいつらも含めると、7男はこの中で下のほうかもしれない。


 気に入らないが、実力は上なのだ。気にせずふんぞり返っていればいいかと、智は郁夫が座っていたイスへ腰を下ろして足を組んだ。


「智君の下に夢音をつける。好きに使いたまえ」

「ああ」


 背後へ移動して来た夢音へ、智はチラとだけ目をやった。


「さて新たな家族が増えたところで、我々の目的を再確認しようか」

「世界征服だろ?」


 智がそう言うと、メルモダーガはフッと笑う。


「そうだよ。しかしただ力で征服するのは愚かだ。本当の征服者とは表に出ない。裏から表を操って支配をするものだからね」

「裏から……?」


 それがどういう意味なのか?

 このあとメルモダーガの口から知らされた世界征服の計画を聞き、智は興味を示すのだった。

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