第11話 レイカーズ壊滅か?
「が……あ……は」
壁からずりおちた皇はうつ伏せに倒れる。
鎧は砕け散り、死にかけの虫みたいな姿でピクピク蠢いていた。
「お前の悪さを助けるおもちゃは壊させてもらった」
あの鎧が無くなれば今まで通りの悪さはできないだろう。
「や、やったっ! やっつけたっ!」
「うん」
皇を殴った手を振る。
あとは国家ハンターに通報して任せればいいだろう。
「みんなー☆白面さんが皇を倒したよー☆」
「えっ?」
配信のカメラは皇に奪われて壊されたはず。
それなのにアカネはまるで配信を続けているように声を上げていた。
「これ」
俺の不思議そうな顔を見て察したのか、アカネはサングラスの端を指差す。
「このサングラス、ここに予備のカメラがついてんの」
「そうなんだ。あ、じゃあ……」
「カメラが壊されてからも全部配信してたよ。あいつが勝手にしゃべってたレイカーズのやってることも全部ね」
「でも外部音声を取り込むマイクも壊されたからそれは無理だったんじゃ」
口元のマイクだけではやや離れていた皇の声を拾えていないと思う。
「予備のマイクを使ったから大丈夫」
「予備マイクって……どこ?」
アカネのどこにも予備のマイクなど見当たらないが。
「ここ」
「どこ? うおおっ!?」
指差す場所へ自然と目を移すと、なんと胸の谷間からマイクの頭が顔を出していた。
「な、なんでそこに予備のマイクがっ!?」
「収納スペースとして有能かと思ったんだけど、やっぱり痛いし重いからダメだね。ま、今回は思いつきが功を奏したけど」
マイクに生まれてきたい人生だった。
生まれ変わったらアカネちゃんのマイクになることを俺は強く願った。
それはともかく。
皇はレイカーズが女性を騙したり捕まえて犯しているなどと言っていた。あの発言が配信されれば、レイカーズは大変なことになるだろう。
「えっと、じゃあ今日の配信はこれで終わりにしようかな☆また明日ねー☆みんなー☆ばいばーい☆」
そこで配信は終わったようで、アカネは一呼吸ついた。
それから国家ハンターに通報して皇を引き渡す。
皇の言っていたレイカーズの件も話したが、なぜか渋い顔をされたことには違和感があった。
国家ハンターが去ると、アカネはサングラスとマスクをとる。
「これでレイカーズは壊滅すると思う?」
「たぶんね」
配信された皇の発言から捜査が始まれば、証拠や被害者の証言が出てきてレイカーズは壊滅するだろう。
「ならよかった。あ、そろそろボス復活するよね?」
「あーうん、たぶん」
ボスの落とした素材を回収しながら俺は答える。
ボスに限らず、倒した魔物はしばらくすれば復活する。
どういう原理なのかはわからない。
「じゃあ急いでリターン板に登録しないとね」
リターン板とはボス部屋の壁に設置されているものだ。
ダンジョン研究家が開発したもので、ボスを倒して次の階層へ進める者はリターン板に生体情報を記録する。そうすればダンジョンの出入り口にあるリターン板を操作して、ボス部屋の隣にある次の階層へ進める部屋へ瞬時に移動できるようになる。
移動は生体情報を記録した者しかできないので、ボス部屋でリターン板に記録していないものが出入り口のリターン板を操作しても意味は無い。
俺は壁際へ行ってアカネと共にリターン板に記録をする。
「じゃあ今日は戻ろっか?」
「うん」
リターン板を起動して俺とアカネは出入り口へと戻る。
それからダンジョンの外へ出て、人がいないのを確認して俺は仮面をはずす。
「遅くなっちゃったね。送っていくから」
「ありがとう。けど大丈夫。タクシーで帰るから」
「あ、そう」
タクシーで帰宅とは、なかなかブルジョワな女子高生である。
「じゃあ今日の報酬ね。はい」
と、アカネは俺へ封筒を差し出す。
そういえば1回の配信で5万円をもらえることになっていたのだが。
「い、いや、やっぱいいよ。16歳の女の子からお金なんてもらえないし」
一度はもらうことにしたが、やっぱり大人が16歳の子からお金をもらうのはひどくみっともないような気がした。
「そんなこと気にしないでよ。コタローはちゃんと護衛の仕事をやってくれたんだしさ。これじゃ足りないくらいだと思うけど?」
「本当にいいから。魔物の素材もだいぶ拾えたしさ。これで十分だよ」
「それじゃダメ。仕事をしたんだから依頼主からの報酬は受け取りなさい」
「けど……」
「お金がいらないんだったら……」
「えっ? うおっ!?」
不意にグイっと腕を引かれ、肘に柔らかい感触が当たる。
「ちょ、ちょっとアカネちゃ……うほぉっ!」
やわらかぁーっ!。
アカネは俺の腕を胸の谷間に抱いてぎゅーと挟んでくる。
「どう? これで報酬になる?」
「じゅ、十分すぎるほどにぃ……」
俺の頭はもうおっぱいのことしか考えられない。
おっぱいがあればいい。おっぱいさえあれば俺は元気に生きていける。
俺はおっぱいを信仰している。
「ふふ、だらしない顔。コタローって、本当におっぱいが好きだね」
「はい……私はおっぱいの奴隷です」
「じゃあわたしの言うことなんでも聞いてくれる?」
「なんでも聞きますぅ」
「それじゃあ明日もよろしくね」
「あい……」
こんなことされたらなにも拒めない。
2、3度で断ろうと思っていた。
しかしこうされたら俺はきっと断れない。それに俺が断ってもアカネはダンジョンへ行き続けて危険な目に遭う。
俺は葛藤していた。
自分の安寧な生活を優先するか、それともアカネを守るためにこのままVTuber活動を手伝い続けるか。
答えはたぶん決まっていた。