第102話 暴露動画配信
……俺はアカネちゃんに協力してもらい、アカツキのチャンネルで暴露動画を配信した。内容はスキルサークレットで人が異形種になってしまうというものだ。
魔粒子を身体へ多く取り込むと人は異形種化してしまう。
先日、雪華が魔物化した光景は多くの人間が目撃している。それゆえか、アカツキの暴露動画はネットで大きな話題となった。
魔粒子を大量に身体へ取り込むと異形種化してしまうのは真実ではないか?
ならばスキルサークレットは危険物だ。
事実ならスキルサークレットの販売をしているジョー松には大きな責任がある。
人が魔物になった光景には多くの目撃者がいるため、動画の内容を肯定する意見が多く、根拠も無くデマと喚く者たちの意見はほぼ無視をされていた。
このようにネットでは話題だ。
広告費をもらっているテレビや新聞などのメディアは、企業の評判を落とす悪質なデマとアカツキの動画内容を批判。スキルサークレットの販売元であるジョー松を擁護していた。
多くの者たちが目撃した人間の魔物化に関しては一切触れず、そんなことはなかったかのようにマスコミでの報道は無かった。
人間の異形種化に関して、政治家もそんな事実は無いと否定。
テレビ出演する専門家なども否定をしており、事実を必死で隠そうとしているようだと、ネットではメディアや政治家に対して批判の声が溢れていた。
公開されたアカツキの動画に対してジョー松は好戦的だ。
「公開された動画はわが社の信用を傷つける重大な名誉棄損行為です。動画を公開した者は司法によって社会的制裁を受けるべきでしょう」
末松上一郎はトトッターへそのような呟きを投稿。
メディアもこの呟きを報道し、アカツキへの批判を強めた。
ネットでは、
「アカツキ終わった」
「大人気VTuberでもやはり巨大権力には勝てないか」
と、アカツキが潰される雰囲気が漂っていた。……が、
「ここまでは予想通りの動きだ」
俺に焦りは無い。
マスコミや政治家、お偉い専門家とやらが味方についてるのだ。これくらいじゃまだ強気でいられるだろう。
しかしそいつらがいつまでお仲間でいてくれるか?
次の一手での動きに注目することにしよう?
そして暴露動画の2本目としてアカツキの動画が公開された。
……
夜、会社を出た末松忠次は、ある人物と会うため都内にある料亭へと来ていた。
「しかし末松さんも大変ですな」
テーブルを挟んだ向かいで、機嫌良く酒を飲んでいる60代ほどの男。
彼は発行部数日本一を誇る大手新聞社、毎陽新聞の会長、佐野清州だ。
なにやら重要な話があるらしくここで会っているわけだが、佐野は酒を飲んで料理を食べ、雑談をするばかりで今だ本題には至っていない。
「アカツキでしたか? ネットでは有名なブイチューバーとやらだそうですが、あんな動画を出されては迷惑でしょう?」
「ええまあ」
実際、少しは迷惑であるが、些細なことと忠次はさほど気にしていなかった。
人間が魔物にという真実は世界中の国々やメディアが必死に隠してきたことで、スキルサークレットで人間がどれだけ異形種化しようと、それらがその真実を否定して隠すのは当然だ。
政府やメディアにジョー松は献金、広告料という形で大金を払っているため、擁護も全力でしてくれた。
今回は多くの人間が異形種化を目撃してしまい、火消しは困難だそうだが、まあなんとかなるだろう。国やメディアは今までずっと、なにがあろうと人間の異形種化という現象を隠して否定してきたのだ。ネットの有名人ごときが少し騒いだくらいで、権力が築いてきた『真実』を覆すことなどできるはずがない。
しかし小太郎と雪華はどこへ消えたのか?
目撃者に依れば街を離れてどこかへ消えたそうだが……。
恐らく小太郎は魔物化した雪華に殺されたか。
雪華を失ったのはもったいなかったが、生物兵器などまた作ればいい。
今度はあの女の記憶など無い完璧なやつを。
「ですが、我々には政治家の先生方や佐野さんを始めとしたメディアの方々が味方に付いていますからね。恐れることなどなにもありませんよ」
「はははっ、そうでしょうな」
「ええ」
佐野の酌で酒を飲んだ忠次は口端で笑う。
「いやあ、我々もあのアカツキには迷惑をしているんですよ。レイカーズの件ではアカツキのせいでマスコミがだいぶ叩かれましてね。一般人のアカツキが大事件を報じれるなら、マスコミなどいらないと」
「レイカーズにはマスコミ関係者も多く所属していたと聞きましたが?」
「ええ。亡くなった寺平先生のお誘いでマスコミ各社の課長クラスや、中には重役も所属していましたね。所属はしていませんでしたが、寺平先生に薦められて私も御相伴に預かることもありまして……ふふふ」
なにを思い出しているのか、佐野は卑しい表情を見せる。
つまりレイカーズの件では寺平とマスコミが共謀していたということだ。
知らずに報道しなかったのではない。知っていて報道をしなかっただけのこと。
こいつらマスコミは庶民の味方を標榜するくせに、金銭などの欲に弱い。
だから良い。欲に弱い連中は御しやすくて簡単だ。
小太郎も欲深ければあのときに金を受け取ってかしこく生きられただろうに、馬鹿な奴だ。
忠次は弟の死をなんとも思っていない。
……だがどこかに妙な不快感があるような気がして、それが気持ち悪かった。
「しかしグレートチームでレイカーズは完全に壊滅。寺平先生も亡くなって楽しみがひとつ減ってしまいました」
「噂ではレイカーズと寺平先生を葬ったのはあの白面とかいう探索者だとか?」
「実際はわかりませんがね。私はそうだと思っていますよ」
佐野の表情に怒りが浮かぶ。
寺平にはだいぶ甘い汁を吸わせてもらっていたのだろう。
なにやら佐野が所属している『慈善団体』とやらにもかなりの公金を使ってもらっていたとか……。
「本当にあの連中は鬱陶しくて堪らない。我々マスコミの敵ですよ」
「それよりも佐野さん、そろそろ本題のほうをお伺いしたのですが」
「おお、そうでしたな」
怒りの表情を一転して佐野は笑顔を見せる。
「私がある『慈善団体』に所属していることは以前にもお話したことがあるかもしれませんが……」
「ええ。確かデュカス……でしたか? 募金活動をしてる団体と聞きましたが」
「最近は被災地支援もやっていましてね」
「被災地支援?」
「ご存じですか? 魔人ですよ」
「ああ」
人の姿に似た魔物のような生き物。ゆえに魔人。
昨今、それが世界各地に現れて建物などの破壊活動をし、そこに住む大勢を殺していると聞く。
正体は今だ不明。
人の言葉を話すため、魔物とは違うなにかではと言われているそうだが。
「デュカスは魔人が破壊活動を行った世界各地で支援活動をしていましてね。その活動費として政府から多額の助成金をいただいているのですよ」
「しかし真っ当な組織では無いのでしょう?」
佐野が所属しているのだ。
清く正しい慈善団体であるはずがない。
「そんなことはありませんよ。集めた募金の1%くらいは慈善に利用してしていますよ。たぶん」
「その慈善団体の件でどういうお話が私にあるのですか?」
「はい。この慈善団体デュカスなんですが、宗教法人も兼ねてまして」
「宗教法人? ああ……」
宗教と言えば忌避する人間もいるので、表向きは慈善団体ということしていることかと、忠次は察した。
「デュカスという神を信仰している宗教なんですよ」
「まさか私にその宗教を信仰してほしいとでも? 生憎ですが神なんてものは信じていませんよ私は。それにデュカスなんて神、聞いたことも無い」
「私も詳しくは知らないんですよ。まあ新興宗教にありがちな信徒を増やすのに都合が良い適当な神様ってやつでしょう。私も信じちゃいませんよ。けれどね末松さん、この組織はいずれ世界を征服しますよ」
「ご冗談を。新興宗教が世界を征服なんて、古い宗教が許しませんよ」
現代に至っても大昔からある古い宗教が絶大な力を有していることは、神を信じない忠次でも知っている。ある意味で、連中は世界を支配しているとも言えるだろう。新興宗教でも、それら古い宗教にあやかっているものがほとんだ。
デュカスなんて聞いたこともない神を信仰している宗教が、その古い宗教から立場を奪って世界を支配などできるとは思えなかった。
「冗談ではありません」
しかし佐野は真面目な表情で話を続ける。
「デュカスは絶大な力を持っています。信仰をしてほしいのではありません。末松さんやジョー松にも、デュカスの支援に協力していただきたいのです」
「そう言われましてもね。ジョー松が関わるならばビジネスになりますので、支援に金銭的なメリットが無ければ協力はできませんよ」
「もちろんです。まずデュカスは慈善団体ですので、支援していただければ企業イメージのアップになります。それと……」
気持ち忠次のほうへ前屈みになった佐野の声が、小さく潜まる。
「魔人を使ってジョー松製品の需要を増やすことができます」
「魔人を使って……? それは……まさか」
「魔人はデュカスの支配下にあります」
それを聞いた忠次はさすがに驚く。
事実ならば、被災地支援はマッチポンプということだ。
「デュカスは対魔人の装備にジョー松のものを推薦しましょう。ジョー松の装備を使うハンター相手のときは魔人に敗北を演出させますよ」
「しかし本当ですか? 魔人がデュカスの支配下にあるなんて話?」
「デュカスの教祖に会っていただければ、真実だとわかっていただけるかと」
「……」
この話が真実であれば、魔人を使ってジョー松の装備が多く売れるかもしれない。
だが本当か?
とりあえず佐野からもっと詳しく話を聞いて、それから親父に相談を……。
「うん?」
と、そのとき懐のスマホが震える。
「失礼」
その場を立った忠次は座敷から外へ出て懐からスマホを取り出す。
「……親父からか」
通話ボタンを押した忠次がスマホを耳に当てる。
「忠次です」
「ああ」
暗い父の声がスマホのスピーカーから聞こえ、なにやら面倒事でも起きたのかと忠次は察した。
「なにかありましたか?」
「今日、配信されたアカツキの動画は見たか?」
「は? いえ見ていませんが?」
「だったら今すぐに見ろ。話はそれだけだ」
そう言うと父は通話を切った。
「アカツキだって? 今さらなんだっていうんだ?」
こちらからの訴訟にビビッて謝罪動画でも出したか?
今になってそんなことをしても無駄だというのに……。
どんな謝罪の言葉を並べているか、聞くだけ聞いてやるか。
ニヤつきながら忠次はスマホを操作し、配信されたアカツキの動画を見つける。
「暴露動画第2弾……だと?」
想像と違うタイトルに若干の戸惑いを感じつつ、忠治は動画を再生する。
『こんにちはー☆今回は前回に続いて暴露動画を公開しちゃうよー☆かなーり衝撃的な内容で、特定の人は驚いて腰を抜かしちゃうかもしれないから気をつけてねー☆それではどぞー☆』
アカツキがしゃべったのち、暴露動画とやらが始まる……。
「な……っ!?」
動画には忠次と、顔にモザイクが入っている雪華の姿。
これはダンジョンで小太郎と会ったときを映した映像だった。
『やめるわけないだろう。お前ももう知っているはずだ。こいつが異形種を取り込めば取り込むほど強くなるということをな。こいつを最強にすればレア素材がいくらでも手に入って大儲けだ。やめるわけはない』
『なにが悪い? 雑魚の探索者なんて遅かれ早かれいずれ死ぬんだ。スキルサークレットで異形種にさせて、有効活用してやったほうが命も無駄にならんだろう』
雪華の名前など必要の無い部分は効果音で伏せられているが、忠次の顔やあのときに言った言葉はすべて動画で流されていた。
「ば、馬鹿な……っ。誰がこんな映像を……はっ!?」
映像の視点がある位置は小太郎が立っていた場所。
恐らく、どこかに隠しカメラを持っていて撮影をしていた……。
「い、生きていたのか……」
やられた。
アカツキの言う通り、腰を抜かした忠次はその場に崩れ落ちる。
このあとどうなるかはわかる。
父は忠次にすべての責任を押し付けて自分と会社を守るだろう。
自分が社長でもそうするし、それが正しい。
「くっ……小太郎め」
不出来な弟。
ずっと馬鹿にしていた弟に自分のすべてを破壊された。
悔しい悔しい……。
奴を殺してやりたい。殺したいくらい奴に対して怒り狂っている。
それなのに心のどこかで、
『やるじゃないか小太郎。さすがは俺の弟だ』
そんな声も聞こえた気がして、余計に苛立った。




