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浮気が原因で捨てられた第三王子が、新しい婚約者にけちょんけちょんに言い負かされるだけ

作者: 下菊みこと

「俺はこんな醜女とは結婚しないぞ!」


「なんつったこの面食い野郎!?」


華奢で大人しそうな、顔は良くも悪くもないが少しばかり貧相な身体つきの少女。彼女は今日婚約を結んだばかりの〝面食い野郎〟をぶん殴った。


「おぶっ…お前、事もあろうに第三王子の顔を殴ったな!?」


「アンタみたいな性格最悪モラハラ野郎を殴って何が悪いのよ!」


「なっ…も、モラハラ野郎だと!?」


「出会って数秒で醜女とか言ってくるやつがモラハラ野郎じゃなきゃなんなのよ!」


「うっ…」


第三王子…レオナルドは言い返したくとも言葉が見つからない。


「私はね、そんでなくともアンタと平民の聖女さまとやらの仲を引き裂く悪女扱いされてんのよ!まだ婚約内定の段階からね!だからストレス溜まってんの!わかる!?その上今日正式に婚約結ばれちゃったの!私の方が願い下げなのに!」


「…は?」


レオナルドは願い下げという言葉に目を丸くする。てっきり、相手…侯爵家の次女であるリリアンヌからの打診での婚約だと思い込んでいた。願い下げとはどういうことだ。


「…なに?もしかして私が望んで婚約したと思ってたわけ?頭お花畑か!ばっかじゃないの!?正式に妃を迎える前から、平民の聖女さまとラブラブイチャイチャしてる自分の立場も弁えない第三王子なんか誰が望むのよ!」


「そ、それは…!」


「愛し合ってる?真実の愛?それで元婚約者に愛想をつかされて、アンタは私に押し付けられたんじゃない!本当に愛し合ってるなら、この婚約にももっと抵抗したらよかったのよ!」


「うっ…」


「この婚約はアンタのお父様であらせられる国王陛下からの王命。私は嫌でも仕方なく受け入れただけ。アンタと違って好きな人なんて作らなかったし。貴族の娘として覚悟はあるつもりだしね。それに比べて、アンタはどうよ?」


自分はどうか。王族として生まれたものの、兄達二人とは違い最初から何も期待されない三番目の子。そんな立場に甘えていた自覚は…正直ある。


「どうせ聖女さまから言われたんでしょう?ありのままの貴方でいい。自分を偽らないで、とか」


「な、何故知って…」


「あら、当たった。そのくらいは予想できるわよ!せっかくアンタの元婚約者であるマリア様が王族としての振る舞いを再三アンタに注意したのに、逆ギレかましてたって有名だもの!あれは誰がどう見ても、愛ある叱責だったのに!」


「…っ」


「甘い言葉しか吐かない平民の聖女さまと、厳しく接しつつもアンタを支えていこうと日々努力していたマリア様。本当にアンタに必要だったのは、どっちかしらね?ねぇ?どう思う?」


…最早オーバーキルである。レオナルドは黙って意識が遠のくのを必死で堪える。


「さっきも言ったけど、これは王命。私は逆らえない。アンタにも多分、覆せない。…身の振り方は、考えた方がいいわ。聖女さまとの関係も含めてね」


リリアンヌは言いたいだけ言うととっとと帰ってしまった。レオナルドは、しばらくそのまま動けなかった。一部始終を見ていたレオナルドの側近達は、言い方はアレだったが主張自体はリリアンヌが正しいと思い良い薬になればいいと放置することにした。














「その」


「なによ」


二回目の顔合わせという名のお茶会。リリアンヌは不愉快を隠す気すらない。一方でレオナルドは、申し訳なさそうな顔をして言った。


「この間は…悪かった」


「言い方」


「…すみませんでした」


「よろしい」


優雅にお茶を飲むリリアンヌ。これではどちらが立場が上かわかったものではない。


「…お前…じゃなくて、君に言われて俺なりに反省したつもりで、元婚約者に不義理を働いたと謝りに行った」


「で?」


「彼女は引く手数多で、もう新しい婚約も決まっていて幸せだからどうでもいいと言われた」


「そう」


「でも、彼女…マリアは、涙目だった。どれだけ傷つけたか、それでようやくちゃんとわかった」


沈痛な面持ちのレオナルドに、リリアンヌは言う。


「悲劇のヒーロー面はやめなさいよ?傷ついたのはマリア様なんだから」


「…うん。俺に何かできることはないだろうか」


「そんなの自分で考えなさいよ。…でもそうね。答えが出ないうちは、マリア様にはもう近付くな」


「うん」


「それと、マリア様を悪く言う連中は片っ端から潰しなさい。全部アンタのせいなんだから」


リリアンヌの言葉に、レオナルドは深く頷く。


「わかった」


「そう」


レオナルドは決意を固めたようだが、リリアンヌは特別興味があるわけでもないのでそっと遠くに見える薔薇に目をやった。が、レオナルドはまだまだ喋る。


「それと、聖女であるサラなんだが」


「…なにかあったの?」


リリアンヌはサラ絡みならばと興味を持ち、視線をレオナルドに移す。


「君が、甘い言葉しか吐かないと言っていた通りサラは俺に甘い顔しか見せなかった。冷静になると違和感があって、調べたんだ」


「それで?」


「彼女は真っ黒だった。平民とはいえ聖女である彼女は、数々の貴公子達と関わりがある。主に爵位が高い家の男子を狙って粉をかけていた。俺は性交渉はしていないが、している者もいたらしい」


「あらまあ…お元気ですこと」


「サラは子供が出来たら俺の子として育てる気だった」


リリアンヌもさすがに目を見張る。


「それは重罪ね」


「ああ。王家の血を引かない子を王族にしようなんて、許されない。サラも、俺とサラの関係を知りながらサラと関係を持った男達も」


「でも、未遂だからね」


「そうだな。まだ未遂だから、彼らの家族にまでは責は及ばない」


「まだマシね」


リリアンヌはため息をつく。


「本当に、馬鹿ばかりね」


「俺も含めてな。ともかく、サラは聖女であるからあまり手は出せない。しかし教会もこのことは重く受け止めていて、サラを今まで通り聖女としてちやほやすることはせず、教会の権威を守るための道具として利用する方針にしたらしい」


「まあそうでしょうね」


「だがサラの家族にはお咎めなしだ」


「それはよかった」


レオナルドは自分の髪を弄りながら続ける。


「サラと関係を持った男達は、未遂だったし下手に動くと逆に醜聞が広がるから問答無用で騎士団に突っ込むだけにした」


「ふむ」


「全員騎士見習いとして第五部隊配属だ」


「わあ」


リリアンヌはドン引きした。王立騎士団の第五部隊といえば、一番厳しいと評判のスパルタ部隊だ。体育会系のノリで熱血指導を受けるので、心が弱いとポッキリ折れる場合もある。ただ、その分心身共にめちゃくちゃ頼り甲斐のあるナイスガイに育つのだが。…一般的な貴族女性からみれば、まあ考えられないヤバイ集団である。


「でだな」


「はい」


「君にもちゃんと謝りたい」


「ふむ」


「本当に申し訳ないことをした」


ちゃんと頭を下げて謝るレオナルド。リリアンヌはその頭を撫でた。


「え」


「まだ甘いけど、ちゃんと反省したのは偉いわ。褒めてあげる」


「…っ」


「でももう、パワハラやモラハラはダメよ?次やったらちょん切るからね」


「…なにを?」


リリアンヌの視線の先に、レオナルドは戦慄した。


「絶対しない!」


「よろしい」


レオナルドの下半身からレオナルドの顔に視線を戻して、リリアンヌは笑う。


「でも、普通に愛し合うとか今更無理だからね?」


「え」


「初対面で醜女とか言ってくるやつ好きになるわけないでしょう?ばーか」


レオナルドは、これは口説くのが大変だと過去の自分を呪った。


その後なんだかんだで犬系男子になって、リリアンヌに懐いてちょろちょろ周りを動くレオナルドにリリアンヌが根負けするのは遠くない未来のことである。

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