その99 一方その頃コノルは
「チーズケーキ1つとコーヒー2つ、砂糖無しですね。畏まりました」
コノルは可愛らしいフリフリのついたウェイトレス服を着こなし、お客から注文を取っていた。
ここは1界の喫茶店。コノルは黒猫が居ない内に黒猫の為にもお金を稼ぐ事に精を出していた。
何故1界なのかと言うと、勿論最初は高い界に出向き、そこでがっぽり稼ごうと目論んでいた。高い界の方が稼げるから。
しかし、お金を稼ぐために必要な最低限のお金がない。その為コノルは1界から出れないでいた。
コノル本人は『……別に高い界じゃなくてもお金は稼げるし、質より量!数こなせばお金は溜まるわよね』と妥協して1界で働いているのだ。
黒猫は未だに1界の監獄にいると思っているコノルは、黒猫が出所した時に備えて黒猫の分までお金を稼がないといけないと思い、身を粉にして必死働いていた。
朝はモンスター退治、昼は喫茶での日雇いバイト、夜は宿屋か居酒屋でのバイト。夜中は夜中専用の依頼かクエストをこなしてここ数日休む暇なく小金を稼ぎ続けていた。
【始まりの楽園】では、リアルの体ではぶっ倒れるであろう生活でも多少無理した所で何ともない。なんなら寝ようと思わなければ3日寝なくても問題ないのだ。それでリアルの体や脳がどんな影響を受けているかは不明だが。
まぁ確認したくてログアウト出来ないのだから確認のしようもないが。
人生は長い。100年以上生きることだって出来るこのご時世でほんの数日、いや、リアルなら数十分の出来事なのだ。なら身体を酷使してなんの問題があるのだろうか?ないだろう。多分。体感が長いだけで実働時間は短いのだから何の問題もない筈。だったらフル稼働しない手はない。
コノルはそう考えていた。
何より猫さんには笑顔でいて欲しいもんね。ヨシ!やるぞー!
黒猫を笑顔を見る為、それだけでコノルのやる気は天元突破していた。
―――そんなコノルと打って変わって、黒猫はというと……―――
人気のない通りで3人の黒表示プレイヤーに囲まれていた。
お前が処理しろと言わんばかりにリョウケンは離れた所から指を黒猫に向けて、そいつらの相手をしろと合図を送っていた。
どうやら黒猫に絡んできた奴等の始末をリョウケンが任せている場面の様だ。
俯瞰して見ると、女子高生の見た目である黒猫の周りにはガラの悪い3人の男達に囲んでおり、それはなんとも穏やかでは無い光景だ。
普通ならばここで主人公でも登場して女の子を助け出しそうな場面だが、まぁそんな都合のいい展開が訪れる訳もなく、現れる訳もなく、黒猫は3人の男の睨みの効いた視線をただただ一身に受けていた。
「お前ら少し調子に乗り過ぎだぞ!」
「糞リペアの下っ端ギルドが!」
「ここらは【ハイウェイ】の縄張りだコラぁ!なめんなよ!」
何ぁ故ぇこぉうなるのじゃぁ?……そもそもこやつらの相手を何故わたしゃがせねばならぬのじゃ。あの2人も離れた所にいないでさっさとこっちに来ぬか。
黒猫は不満を零しながらリョウケンと射場ザキのいる方角を見る。
遠すぎてどっちがリョウケンでどっちが射場ザキなのか分からない。シルエットでしか判断出来ない距離に2人はいた。無論こちらに来る様子は微塵も無い。
「少し目を離した隙に何やってんだアイツ?リョウケンさん。あのバカ共の相手を本当にあのポンコツに任せて大丈夫なんですかい?」
どうやら2人が黒猫から離れている時別のブラックギルドの連中に絡まれたらしい。
その事実に呆れながらも、射場ザキは黒猫に任せるのを不思議に思い、その疑問をリョウケンに投げ掛ける。
自分よりかなり弱い黒猫が、前にいる3人に勝てるとは到底思えないからだ。
そんな射場ザキにニヤリと口元に笑みを浮かべながらリョウケンは自分の思惑を喋る。
「ちちち、バカが。良く考えてみな?システムに干渉出来るだけの奴が盗むだけしか取り柄がねぇとは思えねぇだろ?ここで本当の実力を測んだよ。負けても、あいつが殺られるだけだ。今さっきの時間のロスの言い訳も立つし、何よりギルドメンバーが殺られた口実を作ってアイツらを始末出来るだろ?ちちち」
「なるほど!さっすがリョウケンさん!一石三鳥って訳っすか!パネェっす!」
遠目で何やら盛り上がっている2人に冷たい目を向けながら黒猫は考える。
あの様子……まったく、どうやら手を貸す気は無いらしいの。大方わたしゃの実力を測りたいといった所なのじゃろうな。ならば見せてやるとするかの。わたしゃの本気を!
黒猫
足元に落ちている石を拾う。
『【ただの石】投擲物 打 攻撃力+1』
「あぁん?その石をどうする気だあぁん?」
3人の内の1人は、黒猫が石を拾ったのを見るや否や黒猫に顔を近付け威嚇する。
「………」
その男を無視して黒猫は石を見つめながら一思案すると、石を頭上高く持ち上げる。そして
「ぬじゃあああああ!!」
奇声を上げながら勢い良く石を振りかぶって前にいる男の頭を叩いた。




