その98 手癖の悪いちゃっかり者
「おい射場ザキ。この事は誰にも言うなよ?ブルーハートの奴だけじゃなくゲバラさんにもだ。ちちち」
リョウケンはニヤリと口元に笑みを浮かべながら射場ザキに言う。
上に報告しない、その行為に射場ザキは少し驚いた表情になる。
「棄世さんや羽崎の奴にもっすか?」
「ちちち、当たり前だバカ。美味しい汁を飲むなら少数にかぎる」
報告して手柄を挙げるより、影で利用し続ける方が利になるからな。ちちち。
心の中で黒猫の利用を目論むリョウケン。幸いにも射場ザキしかまだ黒猫が物を盗める事を知らない。それを利用しない手はないと考えているのだ。
「……手伝うとは言ってないのじゃが?。あと、いつになったら仕事をするのじゃお主らは?」
自分の意見を無視して勝手に話を進める2人に呆れた顔を向けながら黒猫は羽崎が言っていた仕事とやらに手を掛けなくていいのかを聞く。
空気を読めないこう言った発言には大抵返ってくる言葉は決まっている。
「うるせーぞ下っ端。お前は黙って従ってりゃいいんだよ。喋ったらどうなるか分かるよな?」
黙れという類の返答。射場ザキの何の捻りもない当然の返しに黒猫は更に呆れていつもの返事を返す。
「分からんのじゃ」
黒猫がそう口に出した瞬間、ゴスッ!と黒猫の鳩尾に衝撃が走る。
殴られた。ノーモーションで殴られた。テンプレもここまで行くと芸術だ。
殴られた黒猫は膝を付いて蹲る。
「ぐぬ……何か……ある度に……殴るな!なのじゃ!」
「そりゃお前次第だ。身をもって知りたそうだったからな。だが、マヌケなお前に一応言ってやる。次生意気言って断ったらこんなもんじゃ済まさねぇ。地獄をたっぷり味合わせてやるから相応の覚悟しとけ」
親指を首に滑らせて首切りポーズのジェスチャーをする射場ザキ。そんな射場ザキに対し、膝を付いた状態で見上げる黒猫は、不服これ極まれり!と言っているかの様な顔を向けて射場ザキを睨み付ける。
「なんだその顔は?」
その黒猫の顔に怒りを覚えた射場ザキは再び黒猫に手をあげようとする。
だが、そんな2人の間にリョウケンが割って入る。
「ちちち、もういい射場ザキ。これ以上時間のロスはかえって都合が悪い。ささっとソイツを使って仕事を進めるとしよう」
「リョウケンさんがそう言うなら。ふん、お前のお手並みを拝見するとするか。さっさと立てマヌケ」
「…………ふん!なのじゃ!」
キュポん!ゴクゴクゴク……
歩き出す2人の背中を睨みつけながら黒猫は先程射場ザキからちゃっかり盗んだ、瓶に液体が入ってるタイプの回復アイテムで殴られて減った体力を回復させるのだった。