その95 目覚めて、殴られ、付いて行く
目を開けると、天井が見えた。
頭がズキズキするのじゃ……何処なのじゃここは……
目を動かし、周りを見渡してここが何処なのかを確認する。
見た事のある家具や部屋の内装から、どうやらギルドルームの床の上だと理解する。
「…………確か……首を」
そして同時に黒猫は自分の首元を擦りながら首を斬られて死んだ事を思い出す。
しかし生きていると言う事は、即死レベルで首を落とされて死んだ訳ではなく、ギリギリ蘇生出来るレベルでの死だったのだろう。
だが、そこである疑問も浮かんでくる。首を切られたのは間違いない。HPが0になって死んだのも間違いない。ダウンからの復活は誰かに蘇生してもらうしかない。それはつまり……
誰かが600秒以内に蘇生してくれた?
誰が?
当然の疑問を抱えながら、黒猫は起き上がると横にリョウケンがいる事に気が付く。
「ちちち、お前何者だ?ゲバラさんが見逃すなんて、まさかお前が例の奴か?」
問いかけているのか、独り言を呟いているのか、どちらとも取れる様な声量でリョウケンは話す。
「でも姿が違うのは……ちちち、何にせよお前、運が良いな」
そして前歯を鳴らしながらそう言うと、リョウケンは黒猫を見下ろして小さく口角を上げる。
さっきの疑問の答えが横にいた。そう思い黒猫はリョウケンに問い掛ける。
「お主が助けてくれたのかの?」
首を捻って聞いてくる黒猫にリョウケンは答える。
「ちちち、違ぇよ。ゲバラさん自ら蘇生したんだよ」
思っていた答えとは違ったが、蘇生した人物が分かった。まさかの人物に黒猫は顔を顰める。
自分で殺しておいて、殺した後黒猫を蘇生したらしい。どうにも行動に一貫性がない。突然現れるや否や、訳の分からない因縁を付けてきたかと思えば、首を切ってPKしておいて自ら蘇生をしてきた。
ゲバラの行動を字面に起こしても何がしたかったのか皆目見当もつかない。それは黒猫だけでなくリョウケンとやらも同じ様だ。
「なんなのじゃあの紫女は。何がしたかったのじゃ?人を引き摺り回しおって。頭がおかしいのかの」
ヒュッ!ガシッ!
黒猫がゲバラの悪口を言うとリョウケンが素早く黒猫の髪を掴む。
「ちちち、俺の前でゲバラさんの悪口を言うとはいい度胸だな」
薄ら笑いを浮かべながら黒猫睨む。
「ぬじゃ!?何す、放すのじゃああ!」
ジバタバタしながら振り解こうと藻掻くが、これまた1ミリも抵抗になっていない。
まぁた髪なのじゃ!何故髪を引っ張るのじゃここの奴等は!くっ!ここにわたしゃの味方は居らぬのか!
改めて自分が孤立無援の場所にいると身を持って知る黒猫。
「学ばねぇカスだな。仕事ですぜリョウケンさん」
そんな2人の横から、どこからとも無く羽崎が現れ黒猫に毒を吐くと、リョウケンに黒い袋を投げ渡してくる。
リョウケンは黒猫の髪を離すと黒い袋を受け取る。
「ぬじゃぁ……髪がああ……」
かがみ込んで頭を抑え痛みに悶絶する黒猫。
「ちちち、行くぞ下っ端」グイッ!
「ぬじゃ!?」
そう言ってリョウケンは黒猫の髪を再び掴んで無理矢理立ち上がらせると直ぐに外の扉へと向かう。
「いっったいのじゃ!じゃから髪を掴むななのじゃ!」
黒猫の言葉にリョウケンは一瞬立ち止まると、急に振り向き黒猫の口元を鷲掴む。
ガシッ!
「のじゃ!?」
「ちちち、いいか三下?ここじゃ上下関係が重要だ。分からないなら身体に言って聞かせてやるよ」
リョウケンは黒猫の頭を睨み付ける様に顔を自分へと近付かせると、そのまま躊躇いなく黒猫のお腹を勢い良く殴りつける。
ドゴッ!
「がっ!?」
ギルドルーム内に殴られた衝撃による鈍い音が鳴り響くと、黒猫はお腹を抑えて蹲る。
「ちちち、いちいち座んな。さっさと立て。また殴られたくなきゃな」
リョウケンはそう言って外へと出ていく。
ぐぐ……このぉ……
黒猫はリョウケンの後ろ姿を睨み付けながら立ち上がると、渋々リョウケンについて行った。また殴られてはかなわないから。