その90 得体のしれない連中【夢完進】
「誰ですか貴方達?……ギルド名は……【夢完進】?確か……議題に上がった人物のギルドメンバーですか。なんであれ少し無礼ですね。仲間が心配なのは分かりますが、ギルド会議への途中参加は承認がないと困ります。何をしに来たか知りませんが承認を受けてから後日お越しください」
illegalの横にいる秘書がそう言うと、周りのギルドマスターも頷き、NNと園田を睨む。
「うっせぇしー。分かって無さそうだから分かりやすく言ってやる。ウチらのマスターが気に入らないから殴り込みに来たんだしー。分かったかマヌケ共」
すると突如どこからともなく血死涼がillegalの隣に現れテーブルに腰を落とす。
その光景に、会議場が騒めく。
気が付くと、いつの間にかフードを被った人物達が会議場のテーブルに座るギルマス達を囲む様に現れていた。
「な、なんだコイツら!?いつの間に!?どうやって入った!?」
「誰にも気付かれずに現れただと?」
「……」
「お、お前は!?殲傑の!?ち、血死涼じゃねぇか!?」
「おいおいおい、これはどういう訳だ?」
「コイツらがコノルとバカ猫のギルメンか。見た事ねー連中ばっかだな」
「この状況は……囲まれてる……か」
ギルドマスターの面々が得体のしれない連中の出現に危機感を顕にしていると、NNが口を開く。
「血死涼。あらぬ誤解を生む発言はお止めなさい。初めまして皆様。【夢完進】ギルドマスター『Noname Nobody: 』です。気軽にNNとでもお呼びいただければ幸いです。さて、先程は我がギルドの血死涼が失礼しました。無礼な言動をお許し下さい。貴方達に危害を加える気はありません。ご安心を」
NNが自己紹介をしている最中、周りのフードを被った人物を警戒して、ギルドマスター達は武器を手にしていた。
「そう怯えずとも大丈夫です。それに、ここにいる貴方達では彼等を倒すのは難しいでしょう。やるだけ時間の無駄なので武器をお仕舞い下さい」
NNがそう言い終えると同時に、今度はNNに同意するかのようにある女の子の声が会場に響き渡る。
「そうだおー!実力者は力量差を把握するのが上手いんだお!だから大人しくするんだお!わっ!皆こっちを向き出したお!二イチャ交代だお!」
「やめろ。交代はしない。俺のデバフは個人特化で全体デバフが少ねーから大人数の時はお前のバフがないと皆困るだろ?」
ライトの横に突如として現れたフゥは虎のぬいぐるみであるライと会話をしていた。
な、なんだこいつ?女の子と、虎のヌイグルミ?が喋った?
ライトは落ち着いた様子で分析するも、心中は穏やかではなかった。何故なら気付かない内に気配を悟らせず横に現れたフゥと、凡そプレイヤーと思えないヌイグルミが意志を持って喋っているのだから。
有り得ない事の連続に戸惑う会議場内。
有り得ない事を連続で行ってくる得体の知れない集団が突如ギルド会議場に乱入してきたのだから、ライトのみならず誰もが警戒心を持つのは当然だった。
更にその内の1人は血死涼と呼ばれる、最近巷で噂のギルド狩りをしているプレイヤー。
1人で手練のギルドを潰せるだけの実力者がいる。恐らく他の者も只者ではないのだろうと容易に想像が付くからこそ誰も直ぐには動かず様子を見ていた。
「……早く済ませてよ。僕はここにくるの乗り気じゃないって言ったろ。無駄にレアアイテム使われるし……作るの面倒ってそれも言ったよね?」
NNの横で気怠そうに園田は言う。
「あいつは、確かブラックギルド【薬死寺】の元ギルドマスターだぞ」
園田を見て、会議場内の誰かが口を開いてそう言った。その声がした方に園田は顔を向ける。
「へぇー、僕の事知ってるんだ。でも、もう僕は【薬死寺】とは関係ないから。今は【夢完進】のサブマスだし、って僕の話はいいよ。早く用件言ってNN」
「用件とは?」
園田の言葉にillegalの隣にいる秘書が反応する。
「そうですね園田。ですがまず、ギルド【ハーベスト】。貴方々には退場願います。ブラックギルド側のギルドには秘密にしたいので。早い話が邪魔なのです」
NNは顔を向けた先には2人の男がいた。
「な!?ブラックギルド側だと!?何を根拠に!失礼な!いつまでコイツらを放置するillegal!皆も早くこの不届き者を追い出せ!」
その男2人はNNからそう言われると憤慨している様だが、どこか動揺を隠しきれずに焦りが見えた。
「うるさいなー……分かり易すぎだし名指しで狙い撃ちされたんだからさっさと認めてよ。こんなに堂々としてるって事はこっちには確たる根拠があるって事なんだけど、わっかんないかなー?」
園田はメニューを開いて何かをすると、会議場の中央に大きなデジタルスクリーンが表示されて、【ハーベスト】がブラックギルドと関係を持っている証拠の画像と映像が流れる。
「貴方々正規ギルドがブラックギルドへの対策を幾らしても幾度と無く失敗する理由がこれです。内通者がいたのですよ。我々はその異端分子を排除し、新たな提案を持ってここに来ました。しかしその提案にはブラックギルドのお仲間が邪魔なのです。血死涼」
「了解だしー。『展開』」
血死涼の背中にある片翼の装備から菱形のクリスタルが複数飛び出し【ハーベスト】と呼ばれるギルドの2人をクリスタルが囲む。
「な、何だこ―――」
次の瞬間、クリスタルから赤い閃光のレーザーが放たれ、2人の身体をを四方八方から貫くと2人はその場に倒れて動かなくなった。