その9 移店
こんなのでも見て下さる方がいただけでも感謝です!
ありがとうございます!
2人は4界にあるプレイヤーが築いたであろう集落に訪れていた。
集落と言っても部族が住んでそうな竪穴式住居等ではなく。ちゃんとコンクリート造で造られており、自然溢れるド真ん中で違和感しか仕事しない集落だ。
広さはそんなに大きくないが、周りはコンクリートの壁に囲まれ、出入口は大きな門が東と西で1つずつ。それこそ小さな街の一角みたいな情景を醸し出していた。
ここは右も左も分からない最初の先人プレイヤー達が自分達で一から建造物をクリエイトして築いた集落。
フィールドモンスターやさっきのレイドボスへの対策と、これからの界攻略の拠点として試行錯誤して作られたであろう集落だ。
集落の名前は【始まりの庭】をもじって、【始まりの集落】と呼ばれ、プレイヤーはここでアイテム等のクリエイト方法の初歩を学ぶ。
そんな集落にある一つの建物の前で、黒猫とコノルの2人は口を開けて間抜けな顔を並べながら立っていた。
その建物には貼り紙があった。
『ご報告。お陰様で商売繁盛。誠にありがとうございます。お客様方のご贔屓もあり、露店居酒屋「蟻地獄」は有名になり、ここらで本拠地を151界の休息界へと移動する事にしました。長らくご愛好して下さったお客様方は、お手数ですが151界へとお越しください。151界まで来れない方、もしくは行きたくない方はご安心を。151界の商売が安定したら、姉妹店を4界へと出店、もとい戻ってきます。誠に勝手ではありますが、今後とも露店居酒屋「蟻地獄」をどうぞ宜しくお願い致します』
「……そんな……バカな……」
黒猫は膝から崩れ落ちる。
「……晩御飯はなかった。それだけだよ猫さん」
とても寂しそうなオーラを身に纏いながらコノルは虚空を見付めるかのように空を仰ぎ見る。
ここはゴルドがない時2人がとてもお世話になった店。その店が151界……それもついさっきまでいた毎回雑魚相手に死闘を繰り広げないと出ることが叶わない界より上の界へと移転したという事実に、2人の精神的ショックは計り知れなかった。
「「……」」
ヘタリこんだ黒猫はこの世の終わりみたいな顔をしながら地面を見続ける。コノルも同じように顔を上へと向けながら空を仰ぎ見続ける。
……そして1時間が経過した。
集落にいる人達が、黒猫達を見てヒソヒソとし始めたあたりで、二人は再起動する。
「……晩御飯の時間じゃ」
「……集落の端にテントを張りに行こう」
「……晩御飯んん……」
空腹でお腹を鳴らせながら2人はテントを張り、まだ夕日が登っているがそのまま眠りについた。
2人共お腹の音が煩かったが、それが気にならないほど疲れていたので眠りに落ちるのは早かった。