その89 ギルド会議の乱入者達
ギルド会議
それは、黒猫の処遇を決める他にも、重要な話をギルドマスターを集めて話し合う場。
そこにはillegalを筆頭に様々な大手ギルドのギルドマスター達が肩を並べて椅子に座り、広大な空間の中央にある大きな長テーブルを挟んで会合していた。
ギルドマスターの隣には必ずギルドメンバーが1人だけ付けられ、会議に参加している最中はギルドマスターの横に立っている決まりがある。
用心棒兼ギルマス1人の一存でギルドが動かされない様に監視する役を担っているのである。
そして1ギルドから最大2人までギルド会議に参加出来る形だ。何故2人なのかは大人数がこの場に入れないのもあるが、その最たる理由は、万が一、あるギルドがこの場で反乱を起こして他のギルマスを襲撃しようとしても、1ギルドで2人だけならば容易に制圧を行える為だからである。2人という少人数は抑止力にも繋がるのだ。
因みに参加するギルドは大手だけではなく、会議に関係あるとされるギルドや、申請すれば小さなギルドも参加する事ができる。
話す内容は、新界層攻略の話や、問題となる人物の話、治安維持の事、公共ギルドの話、現実世界の話等様々だ。
進行を円滑に進める為、illegalの横には眼鏡を掛けたスーツ姿の女性秘書が立って会議の進行を補助していた。
今ギルド会議で話されている内容は黒猫に関する事。
「【黒猫】の議題ですが、彼女は暫くアルカトラズで拘留、他にも問題を起こしている様なので、その他の経緯も洗い次第処遇を決定する事となりました」
「ちょっと待ってくれ」
「決定事項への意見、発言は挙手してからでお願いします。【希望の星】サブマスターライト様」
「すみません。ライト、恥をかかすな」
優しく叱るような口調でライトの名を呼ぶのは、首にヘッドセットを掛けて、ダンスでも踊り出しそうな格好をしたツンツン髪の茶髪の男だ。
【希望の星】ギルドマスター『先見の天河』
戦場には弱くて立てないが、その卓越した頭脳で【希望の星】のギルドマスターを担っている男。
「すみませんマスター。ですがここは言っておかないとと思いまして。皆さん聞いた筈です。彼女がいなければ更なる被害が生まれていたと」
ライトは天河に頭を下げると、周りを見渡しながら黒猫が行った事を話す。
「ですが、それには確たる証拠がない。データの改竄を確認するなどイチプレイヤーには不可能。しかもその爆発を防いだなど、あまりに突拍子が無さすぎます」
「だが、嘘だとも言えない筈だ」
ライトは黒猫を庇う為に必死に代弁する。コノルとの約束を守るように。
そんなライトの肩を持つ様に、この場のある人物が手を挙げて発言する。
「【緑の聖母】のシフォン様。発言をどうぞ」
「……」
「始祖様は仰っております。今回の件。あながち間違いではないと。未確認タイプのレイドボスの出現。タイミングもそうですが、爆発する攻撃しかしなかったそうではありませんか?関係ないとは言いきれないのでは?」
【緑の聖母】ハイヴァーは始祖様ことギルマスのシフォンの言葉を代弁する。
「では、意図的に誰かがレイドボスをあの場所に出現させたと?」
「……」
「爆発する仕様を取り入れられる者がいたならば容易でしょう。もしくはこの世界に私達を閉じ込めた黒幕の仕業やもしれません。と始祖様は仰ってます」
「発言いいか?」
「【明け待つ旅人】レウガル様。どうぞ」
「黒幕の事はどうでもいいけどよ、あいつの相棒のコノルって奴がいなかったら今頃全滅で終わってたのかもしれねーんだ。拘留はいいがこれ以上貶める必要はねーと思うぜ。それにギルド会議で話し合う前に処遇の決定ってのも気に入らねーしな」
【明け待つ旅人】のギルドマスター『情報屋レウガル』はシフォンに乗っかる形で黒猫を擁護する。
「……多数のギルドから彼女へのクレームがきていてね。どんな形だろうと彼らが納得する対応を取らなければ、次の攻略に支障を来たす恐れがあるんだ。拘留程度では納得させられないのだよ情報屋君。団結が我々には必要なのだ」
illegalは渋い声でそう言って譲ろうとはしない。
「チッ、なら会議なんて必要ねーじゃねーか。話し合う為の場だろうが。クレーマーなんぞにいちいち対応してたら攻略なんか進まねーよ」
「時には必要な事だ。現にそのクレーマーを蔑ろにしていては攻略が進まないからね。世界とはそういうものだ。それに全滅を回避したと言ったが、そもそもその原因は彼女だ。自分で蒔いた種を彼女が収穫しただけの事」
「……ッチ……お前はどっちの味方なんだよ……」
正論を投げられ、舌打ちし押し黙るレウガル。
会議場に一瞬だけ静寂が広がった時、会議場の扉が独りでに開かれる。
ギィィ……
「我がギルドの大切な仲間である黒猫の話をしているそうではないですか。私達も是非混ぜて頂きたい」
そう言って入ってきたのは白い鎧に身を包んだNNと、気怠そうに白衣を身に纏っている園田だった。