その86 【夢完進】サブマスターの3人
ペンションを思わせる外装と内装をした建物の一室。
その部屋の中央にある木製円卓を囲んで4人のとある人物が椅子に座って話をしていた。
「だからぁー、あーしを向かわせりゃ話が早いって言ってるしー。皆殺しだしー。あの雑魚猫ごとな」
身体中に刺々しく触るだけでダメージを負いそうな装備を纏っている金髪ショートの女性は足を組んで、殺す言わんばかりの眼光で周りを睨んでそう言う。
彼女はギルド【夢完進】
No.2 サブマスター
『殲傑の血死涼』
趣味装備集めの特異スキル3つ持ちの神人。強力な武器を使用し超高火力超広範囲で敵を殲滅する事から殲傑という2つ名が付いた。口調とは裏腹にその性格は豪傑で凶暴な為、ギルド内でも外でも恐れられている。よく集めた武器や装備品を黒猫に盗まれる為、黒猫を忌み嫌っている。なので黒猫と合えば必ず半殺しにしようとするので、黒猫は血死涼に見付からない様に逃げ回っている。
【夢完進】ではサブマスの3人に各々少数部隊を設けており、血死涼の率いている部隊名は『決死隊』。部隊数は血死涼を抜いて3名で、攻撃に特化した部隊で構成されている。今の所機能しているとは言い難く、その存在理由は不明。
「チッシーは名前の通り血の気が多いお!ネココは悪く無いお!抑えるんだおー!あっ!ごめんなさいだお!調子に乗り過ぎたお!こ、交代だお二イチャ!」
血死涼の丁度向かい側に座って物申すと、血死涼の鋭い眼光を浴びせられて脅える女の子がいた。
その女の子の容姿は青髪のツインテールでマスコットのようなダボダボの服を着ており、頭に虎の可愛らしいヌイグルミを乗せていた。
そしてその女の子は頭にある虎のヌイグルミに話し掛ける。
不思議ちゃんみたいな事をしているが、彼女は至ってまともだった。何故なら
「おい俺を巻き込むなよ。自分の事は自分で解決しな」
虎のヌイグルミが男の声でその女の子に返答したからだ。そして同時に虎のヌイグルミが喋ったと思えば、今度はツインテール女の子の姿が変わりだす。着ている服は変わらないが髪型がツインテールからポニーテールへと変わり、顔は可愛らしい女の子の顔から美形の男性へと変化したのだ。
「……このタイミングで身体を入れ変えるなよフゥ。俺を睨むなよ血死涼。俺は関係ないぞ」
「二イチャ!入れ替わった事はしーっ!だお!」
「隠さなくても一目でバレてるわ」
そして今度は虎のヌイグルミから先程の女の子の声が聞こえる。その女の子の声に、美形の男性は呆れた声で返答する。
そう。彼等は1つのアバターを2人で共有して使っているのだ。
プレイヤーの容姿を反映させて登録し、プレイヤーキャラクターが作られるこの世界で、アバターの共有なんて出来ない筈なのに、彼等はそれが出来ていた。理由は彼等にしか分からないトップシークレット案件である。
そんな2人を紹介しよう。
ギルド『夢完進』
No.3 副監
『双の風神雷神ノ金剛石』
双が2つ名で、プレイヤー名は風神雷神ノ金剛石という何とも長ったらしい名前のプレイヤーだ。なので皆からは女の子の時はフゥ、男の時はライと短縮して呼ばれている。特異スキル3つ持ちの神人で、フゥはどんなプレイヤーも超強力にするバフを付与する事が出来るバファー。ライはどんな敵も有り得ないくらい弱くする事が出来るデバファーである。
この2人でパーティーを組めば、どんなに弱くてもそれが全く問題が無くなるレベルにまで強化する事ができ、人にもよるが本来の力の大体10倍程の強さを発揮するとも言われている。だがそのせいで、一度フゥとライとパーティーを組んだらパーティメンバーは自分の本来の強さを見失い、そのせいで自分の強さを勘違いしてしまった輩が強い界に挑んでしまい死んでしまう事が稀に起きてしまう。なのでフゥはパーティーを組んだ人には必ず注意勧告を行っている。絶対に私以外でパーティを組んで同じ場所に来るなと。
彼女は黒猫とコノルが所属している部隊『癒し隊』のリーダーであり、黒猫とコノルの直属の上司に当たる人物である。部隊数3名の支援部隊で、これまた『決死隊』と同じく存在理由が不明。
性格は血死涼と違い、女の子の性格は温厚で平和主義、男の方は温厚だがあまり他人と関わらない性格である。黒猫によく『名前が長いのじゃああ!』と会う度にツッコまれている。
「うるさいですよ……久々に集まったからってはしゃがないで下さい。実験の邪魔ですよ」
フゥの横の席には血死涼から少し離れる事を意識してか、席をフゥ寄りにして机で何か宝石の様な物を作っている男の子がいた。
「陰キャめ。少しは話に入ってこい園田。フゥ、後は任せた」
「ラジャーだおー!」
そう言ってライはフゥと入れ替わる。
「あまり表に出ない貴方にだけは言われたくないですよ……はぁ」
そんなライに不満を零しながら、その男の子は円卓の上で謎アイテム作成に勤しむ。その男の子の容姿は、背は小さく、髪はおかっぱで白髪。服は白い白衣を身にまとっていた。
ギルド【夢完進】
No.4 副団長
『緑冬の園田』
趣味ありとあらゆる実験。特異スキル3つ持ちの神人で、元ブラックギルド【薬死寺】のギルドマスター。とある黒猫関連の事件がきっかけで、【薬死寺】からNNに引き抜かれて【夢完進】へ。実験が好きで常に何かしている。しかし黒猫が近くにいると実験を悉く邪魔された挙げ句、実験体や実験に使う使用道具もぐちゃぐちゃにされる為、黒猫の事を嫌っている。普段は大人しく温厚だが、黒猫に関わると必ず『あんの猫野郎があああああ!』と怒りの声をあげる。
率いる部隊は『策士隊』。部隊数は2名。目的等も他の部隊と同じく不明である。
ギルドマスターNN曰く、『決死隊』『癒し隊』『策士隊』が本格的に動く時は、時が来たら分かるとの事。現時点で部隊が動くのは複数人でなければクリア出来ないイベント等で機動されている。
合計12名で構成されたギルドのトップ4人がそこで顔を揃えて何かを話し合っていた。
「黒猫が動きます。その時大きな戦いが起きるので、皆さん覚悟をしておいて下さい」
「あの雑魚猫が動いたからって何が起こるんだし?殺意振り撒くだけだろ。それよりまだあーしに雑魚ギルド狩らせるのかマスター?そろそろ別の任が欲しいしー」
「残念ですが、この後の一件が終わり次第、貴方は引き続き、一人でブラックギルドに関わるギルドを狩り続けて下さい。作戦の為、そして念の為です」
「まただしー……顎でこき使い過ぎだしマスター。まぁ仕方ない……もう少しだけやってやるし」
そう言うと血死涼はニヤリと笑い、後ろの空中に様々な形の武器を出現させる。
カチャカチャと武器がぶつかり合う音を出しながら、血死涼はメニューを開いて青いクリスタルのアイテムを手に出現させる。
「まだ行かないで下さい血死涼。3人は今すぐ部下を呼んで下さい。乗り込みは部下を引き連れて向かいます。それと、今から役割を話しますが、ここからは極秘です。口外なさらず。万が一口外したら、その時は……」
「「「…………」」」
NNの圧が部屋中を覆い、悪寒が3人の背筋を通り抜けると、3人はNNの話を真剣な表情で聞く姿勢を取り、NNは話を続けるのであった。