その82 面会が終わり黒猫脱獄
黒猫の囚人番号は931
悪意のある語呂合わせである
「面会は終わりだ。戻るぞ」
看守員が入ってきて黒猫を面会室から連れ出す。
「わたしゃ出られるのかの?」
「……馬鹿な事を言ってないでさっさと貴様の牢に戻れ」
戻った牢獄の通路は皆寝静まっているのか静かだった。それを見て黒猫は顔を顰める。
「くれぐれも問題は―――」
看守が黒猫に釘を刺そうとした時
「なああああにいいいい寝とるのじゃあああああ!起きるのじゃああああ!!!」
黒猫が大声で叫び出す。
「……っ!戻ってきやがった!」
「……や、ヤメテ……ヤメテよ!もう寝かせて!」
「……なんで……毎夜……お前に……睡眠を脅かされなきゃならねーんだ!」
黒猫の耳を劈くような大声に囚人達は一斉に目を覚まして、黒猫に対し殺意の籠った視線を向ける。
「うっさいのじゃあ!わたしゃは食欲を我慢しとるのじゃ!なのにわたしゃを差し置いて気持ち良さげに寝おって!お主らも我慢するのじゃあ!寝るなああああ!」
無茶苦茶な暴論を展開する黒猫。
「同じ生活に同じ食事量だっつの!お前が我慢してんなら俺達もしてんだよ!」
「むちゃくちゃなんだよ!てめぇはよぉ!」
「食欲と睡眠欲を同等にとらえてんじゃねー!」
「看守!丁度いい!そいつ黙らせろ!」
「……」
はぁ……
ドカッ!
「ぬじゃ!?」バタン……
看守員は呆れた顔をしながら警棒で黒猫の首を殴りつけて牢へと投げ入れ鍵を閉める。
黒猫はそのまま牢の中で突っ伏して気絶する。
その瞬間、ワッ!っと囚人達が一斉に歓声をあげる。
「ス、スゲーよ!やりやがった!黙りやがったよアイツ!」
「おらぁ、あんた尊敬するよ看守さん」
「ヒーローよ!ヒーローが現れたわ!」
「寝れる!寝れるのか!おやすみ看守様!」
「もう悪い事はしません!今後ともそのバカをどうか!どうか黙らせて下さい!」
余程黒猫に睡眠を妨げられていたのか、囚人達は黒猫が黙ったのを見るや否や歓喜の声を上げて喜ぶ。中には小躍りする者や感涙に咽ぶ者も。
「……」
はぁ……
こんな夜中に、しかも罪人にこんなに感謝されても何も嬉しくないといった表情で看守員は静かに持ち場へと戻る。
――数時間後――
黒猫の気絶により静寂が訪れた牢では、誰一人として起きている者がいなくなっていた。
……漸くですか……ふぅ……バカがバカ騒ぎさえ起こさなければ契約完了なのに、コイツは……
そこには黒猫を気絶させた看守員がいた。
看守員は自分の腕を黒猫のいる牢の中に入れると、肩から腕がボロりと取れ、それが人の形を形成していき黒猫の姿となる。
「変わり身は出来ました。さて、早くこのバカを出してNNさんから報酬を貰うとしましょう」
そう一人言を呟き看守員は黒猫を肩に担いで牢から出す。
黒猫が気絶している内に、状況は静かに動き出すのだった。