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その78 船を沈めた真相

 この事態についてシノ影は自身のギルドマスターillegalに報告してなかった。それはつまり、【緑の聖母】のギルドマスターの耳にも入っていないという事。


 実は【赤壁旅団】よりシノ影は【緑の聖母】との関係が深い。元は【緑の聖母】のサブマスだったからだ。


 元ギルドからの命令で【赤壁旅団】のサブマスになっているに過ぎない。だから【赤壁旅団】にいながら【緑の聖母】の下部組織【ガーゴイルパラレル】のメンバーを動かせるのだ。


 それは【緑の聖母】のギルドマスターがシノ影を信頼して権力を渡しているという事。


 連絡をしてないという事は、その信頼に泥を塗る事と同じだ。


 つまり、泥を塗ってしまうと分かっていながら連絡していない、にも関わらずこの件を聞き付けて彼女が現れたという事は多少なりともシノ影にとって良くない事実を意味していた。


 だからシノ影は酷く動揺をみせているのだ。


 だがシノ影は、この事態の発端である黒猫の顔を思い出すと、ハッ!と我に返り、冷静さを失っていた頭を回して事態の説明を始める。


「れ、連絡は遅くなりましたが、それには理由があるのです始祖様!そう!あるプレイヤー2名が我々の船を沈め、同士達を殺そうとしたのです!そしてこの私がその2人に責任を問い出している時、この【希望の星】の連中が割り込んで、2人を見失ってしまったのです!連絡が遅れたのはその為!さらに【希望の星】の連中が我々の問題に口を出してきた!これはギルドへの過干渉行為です!ギルド会議の議題にも上る案件です!どうか始祖様のご意見を頂きたく存じます!」


 翠髪の女の子はコクリと小さく頷くと、一虎とハヤテの方を向く。


「それは本当なのですか?と、始祖様は仰っています」


 翠髪の女の子の付き人であるお面を頭に付けた女性は一虎とハヤテに確認を取ろうと顔を向ける。


「自分で喋らん奴に答える義理はない」


 しかしハヤテは仮にもギルドマスターなのに自ら口を開こうとしない翠髪の女の子の態度が気に食わず、答えるのを拒否する。


「……」


「まぁまぁ、そういうキャラロールだと思って落ち着けハヤテ。さっきの質問、事実が本当か分からねーが、そいつが責任を追求している様に俺達には見えなかったぜ。それにPVPで一方的にボコ殴って2人を虐めてたんだ。これは紛うことなき事実。そんな2人に対して追い討ちみたいに金を要求してたから、我慢出来ずに俺達が出張った真似をしたまでよ」


 一虎は自分達に非が無い事と、これまでの経緯を見たままに説明する。


「俺達というよりお前だ。俺はお前に巻き込まれただけだ。だが、シノ影、貴様は一虎以上に気に入らん。【赤壁旅団】の癖に他ギルドのマスターに頭を垂れるとは、それではまるで【緑の聖母】のメンバーだ。居座る場所も定められない三流野郎に『規律のシノ影』と言う肩書きがあるとは笑わせてくれるな」


「ふん、負けた事実を突きつけられ子供の様に怒る貴様に三流野郎と呼ばれるとは……幼いのは精神性だけにしてもらいたい。子供との口喧嘩をするつもりは大人にはないぞ」


 険悪なムードの中睨み合う2人。


 すると翠髪の女の子が前へと出る。


「……」


「お止めなさいシノ影。と始祖様は仰っています」


「さっきから仰ってますって、言ってないだろ。通訳する振りはやめろお面女。そして貴様はそろそろ自分で喋れ、【緑の聖母】ギルドマスター『侵食のシフォン』」


 ハヤテは翠髪の女の子の肩書きと名前を呼んで、自ら喋らそうとさせる。


「……」


 しかし翠髪の女の子は引き続き何も喋らず、広場は沈黙に包まれる。




「そいつは喋らねーんじゃねーよ。喋れねーんだ」


 そう言って、シフォンの後ろから現れたのはレウガルだった。


「貴様は……情報屋か。何?喋れない?どういう事だ」


「こっからは情報だ。教えてもいいが個人情報。本人の了承とそれなりの金額を貰うぜ?それより何だよこの人集り?祭りでもやんのか?」


 レウガルは周りの【赤壁旅団】と【ガーゴイルパラレル】のシノ影の部下達を見ながら歩いてくる。


「……」


「レウガルさん。ご無沙汰です。ご機嫌はいかがですか?と、始祖様は仰っています」


「通訳しなくても分かるっつのハイヴァー。メッセージは受け取れるよ。シフォンも元気そうで何よりだ。ここで揉め事が起きてるって聞いて商売しに来たんだが、もう丸く収まりそうか?」


「……」


「ははは!バカだな。ソイツの情報は売れねーよ。まだ価値がねー不確かな情報だからな。その代わり、この騒ぎに関する新情報を仕入れてる。買うか?仲間内でも誰も知らねー新情報だから60万ゴルドだがな」


「勝手に話を進めるな!それより早くあの2人を追うぞ!始祖様、私はこれにて失礼致します。早く2人を追って捕まえなければなりませんので」


「おいおいおい!俺達を忘れんなって?コノルちゃんと黒猫ちゃんとこには行かせねーよ?」


 まだ2人を追おうとするシノ影に立ち塞がる一虎とハヤテの2人。


 そんな中、今の一虎の言葉にレウガルは耳をピクピクと反応させる。


「ちょっと待て……コノルちゃんに黒猫ちゃんって……まさか2人ってアイツらの事かよ!?はぁ……ちくしょう……60万ゴルドの情報だったのに……そういうカラクリかよ……俺にとって疫病神だなアイツら……まぁ約束は約束だししゃーねーか」


 レウガルは残念そうに項垂れながらデビルクラーケンの情報を勝手に話し出す。


「お前らアホ共に新情報を()()で教えてやるよ。お前らが戦ったデビルクラーケンな。ありゃ未完成クエストの隠しボスだ。進行するにはするしクリアも出来るが報酬はない。何せ未完成だからな。しかも正規の手順を踏まないと触手が出る場面でバグって進行しなくなるぜ」


「正規の手順だと?」


 シノ影はレウガルの話に耳を傾け質問する。


「正規の手順ってのはクエスト専用の船の入手なんだが、お前らは自前の船使ったから進行不能のバグが起きたんだ。誰も知らないのは、全員自前の船使って進行出来ず、強制的な時間経過で全員海に落ちて死ぬ仕様だからだ。生き残りがいないのが一番の理由だな」


「だから隠しボスがいるって情報だけ広がったのか」


 一虎はその話の落とし穴がそこにある事を納得する。


 広まって知られている情報は隠しボスデビルクラーケンが出る事だけ。その出現情報さえ出ていればこうはならなかったのだ。


 デビルクラーケンが強過ぎてクリアした人がいないのではなく。過程を間違えて倒せず無念の死を迎える人が多かっただけの事。


 だが、ふとそこに一虎の脳内ではある疑問が生まれるが、それは今言うのは無粋だと思い心に秘めてレウガルの話の続きを聞く。


「ああ。つまりだ。出発した時点で負けてお前らは全員死んでる筈なんだよ。助かったのは、あれだ。全滅までの時間経過前に船を沈めて強制的に死ぬイベントを回避させた奴のおかげって所なんだろうが……アイツの事だ。沈めたのは黒猫で、その黒猫が何かしたって所だろうな」


「馬鹿な!?ならば我々は、あのバカなプレイヤーに助けられたとでも言うのか!?」


「そのバカに助けられたバカはどこのバカだよ?あいつらは俺の友人だ。あんまり悪く言われるのは気分が良いもんでもない。あんまり調子こいた事言ってるとてめぇ個人の安い情報ばら撒くぞ?そうだな。ブラックギルドに関係のあるギルド辺りに」


「そんな事が許されるとでも―――」


「許されるだろ?てめぇが黒猫達にしたっていう仕打ちが正しいならな。俺の情報を無駄にしたんだ。本当なら倍の120万ゴルドを請求したいところなんだぜ?お前に正当性がないのははっきり分かりきってるしな。あと情報筋の1つはillegalだ。ガセだと思ってるならお前のギルマスに聞いてみろ。それでも不満ならお前が正しい根拠を聞かせてくれよ?」


「くっ……ならば責任者の私に一言あっても良い筈だ!黙って沈める必要などないぞ!」


「分かったのが急だったんだろ。相談する暇が無かったとか。それにたとえ責任者だとしても、俺の場合お前には相談しねー。聞く耳を持ってもらえそうにねーからな」


「そんな事!」


「あるだろ?現に俺の話に噛み付いて、無理にでも自分の正当性を主張しようとするお前ならな。今なお聞く耳を傾けもしねー奴が何言ってんだ」


「そん、そんな事……」


 段々シノ影の勢いが弱まる。


 すると一虎が口を開く。


「2000万ゴルドの船だっけか?助けてくれた恩人に請求する金額じゃねーよな?」


「ふーん。そんな金額請求してたのか。なら2000万ゴルドはお前らの命の値段だろ?安いと思うなら逆に黒猫に支払うのが筋だろ。周りの有象無象もだ。アホに従って寄って集って弱い者虐めしてんな。分かったら解散解散。シノ影のしょぼくれた顔みたいになりたいか?」


 レウガルがそう言うと、シノ影の取り巻き達は消えていなくなる。


 一方シノ影は、屈辱に顔を歪ませながら何ともいえない目で下唇を噛んでレウガルを見るのだった。

一虎が疑問に思った事


じゃあ誰が一番最初にデビルクラーケンの間違った情報を広めたのか?

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