その76 天然さん ♪
「で、珍獣ちゃんはいつ出られるの?」
「だから聞けよ」
レウガルをスルーして、ライコは黒猫が自由になるのはいつになるのかをコノルに聞く。
「まだ未定なんです。それより珍獣ちゃんって呼ぶの止めてあげてくれませんか?」
コノルはライコの珍獣ちゃん呼びが、まるで黒猫の事を人間扱いしてないように感じて気に入らず訂正を求める。
「あ、そうか!今は名前あるんだよね!ごめんごめん。好きに呼べって言われてから随分経つし、そりゃ名前くらい付けるよね。えっと……ごめん、名前なんだっけ?」
「お前ら親友辞めろ」
ライコが黒猫の親友と言っていたのに名前を知らないレベルなのを聞いてレウガルは辛口のツッコミを入れる。
自称親友で名前を知らない。それはもう赤の他人と言うのだ。
「黒猫です」
「意外とストレートなネーミングだね。じゃあこれから猫ちゃんって呼ぶよ。姫ちゃん」
ライコはコノルの顔を見ながら笑顔を向ける。
「え?誰?姫ちゃんって?私の事?」
ちょっと満更でも無い様子で照れるコノル。
姫だなんて、そんなお嬢様感が出ているのかしら、私。うふ。
「ぬはは!ウケる」
自惚れるなと言っているかのタイミングで黒猫が笑い出す。
「……意味無くウケてるのは分かってるけど、今回ばかりは猫さんが無性にムカつく」
しかしコノルを姫と呼ぶ事に対して謎にウケる黒猫に、コノルは薄目で睨み付ける。
「楽しそうだね ♪ 姫ちゃんと猫ちゃんは付き合い長いの?」
「あ、ごめんなさい。姫ちゃんは無しで良い?やっぱり、ちょっと照れ臭いや」
「じゃあコノルンでいい?」
「可愛い!その呼び方でお願いします!」
「ぬはは!ウケる」
「……次ウケたら、出た時どうなるか覚えておきなさいよ?」
コノルは黒猫への制裁を真剣に考え始める。だが既に牢に入ってる時点で制裁も何もないが。
「うむ。お腹空いたのじゃ」
コノルの拳骨が届かないと分かっているのか、黒猫はコノルの注意を聞き流して、自身のお腹を鳴らす。
動かない癖に良くお腹が鳴るものだ。
「会話のキャッチボールが出来てないぞ猫ちゃん ♪ 」
そんなやり取りを見て黒猫にビシッと指を差して指摘するライコ。
「おめーもな。現在進行形で俺と出来てねーぞ」
その横でレウガルは薄目でライコを睨む。
「ところで、コノルンとピンクちゃんはここに何しに来た感じ?」
「おい、出来てねーって言ったよな?無視か?俺の声は届いてますか?」
会話のキャッチボールが出来ていない事への不満を声高々に唱えるレウガル。
「あはは ♪ 冗談冗談 ♪ ごめんねー ♪ そんな拗ねないで ♪ ピンクちゃんは可愛いなー ♪ おーヨシヨシヨシ ♪ 」なでなで
わざとだよーって感じでライコは、小さな子供をあやしつける様な口調でレウガルの頭を撫でてご機嫌を取ろうとする。
「だからピンクは……って!頭を撫でるな!やめろ!俺は動物じゃねーぞ!やめろ!」
しかし逆効果である。レウガルは憤慨しながら小さな小動物様にライコの手を振り払いながら睨み付ける。
「あっ!ずるい!私もー」なでなで
そのやり取りにコノルも抑えていた衝動を吐き出す様にレウガルの撫で回しに混ざる。
「お前ら絶対後で覚えとけよ……」
2人に囲まれて為す術なくグリグリと撫で回されるレウガル。
遺憾の意を吐き出すが聞いてもらえない。
「私とレウガルちゃんがここに来た理由は、猫さんを安心させようと思って面会に来たんだけど」
レウガルの頭を撫で回しながらコノルはさっきのライコの質問に答える。
「バカ猫にはその必要がなかったって訳だ」バシッ
レウガルは撫で回してくる2人の手を叩き落として、撫で回すのを止めさせる。
「ふーん。なるほどなるほど。話変わるけど猫ちゃんは何でそんなおバカさんキャラになったの?」
「俺もそれは気になってた。俺と別れてから何があったんだよ?」
どうやら2人は黒猫の過去を知っていて、2人が知っている黒猫はこんなキャラじゃない事に疑問を抱いていた様だった。
「ぬはは!ウケる」
その反応に、レウガルとライコの2人は難しい顔をして黒猫を見つめる。
「ウケるなアホ。私はあんまり変わった感じはしないんだけど、変わったって言われたら変わった気はするのよね。だけど私にも分からないの。本人もこんな調子で話さないし」
「話さないってか、忘れてて話せないって感じだけどな」
「でも前より万倍元気そうだから、私は今の猫ちゃんの方が好きだなー ♪ あ果物食べる?」
「自由か。そしてこれみよがしに果物を見せ付けてやるなよ。コイツの目が果物に釘付けになって更に哀れに思えてくるから」
「可哀想な猫ちゃん……」シャリ……
哀れむような目を向けながら、ライコは果物を一口齧る。その動作で黒猫は涙目になりながら羨ましそうに自分の親指を噛む。
「だから食べるなって」
「あれ?この人ドSなの?親友って……何?」
そんなライコにコノルは親友の定義を考え、ただそう一言を零したのだった。