その74 1名様監獄入りまーす
やはり、嫌な予感とは当たるものだ。
最早好き好んでぶち当たりに言っているのか?と思ってしまう程に。
ガシャン……ガシャン……
手錠を掛けられ、鎖が擦り合う音を出してゆっくりと歩く黒猫は、遠い目で斜め上を見ていた。
無論そこには何もない。ただ黒猫は空虚を眺めているのだ。
普段から何も考えてない顔だが、今日はより一層そう見える。というより、この現状のせいで頭の中が真っ白なのだろう。
そんな黒猫に対してコノルは湖を挟んだ遠い場所で哀れみの目を向けていたが、徐々に心苦しくなり手の平を自身の顔に押し当てて見ないようにする。
黒猫、アルカトラズ監獄に、無事入監
「なんで……ブラックギルドに勧誘されるより先に……監獄行きなのよ……」
前に話した『猫さんはこのままいくとブラックギルドに勧誘されそうだよね』と言う冗談を思い出すコノル。最悪を一段階飛び越してる。まぁ問題はそこじゃないが、コノルは黒猫の仕出かした事に対して償いはしないといけないと考えており黒猫の監獄入りを黙って見送る。
そう、今の黒猫は立場は、182界の勝手な行動の罪を決める為に一時的にだがアルカトラズ監獄に入監、そしてギルド会議で処罰が下されるまでそこに幽閉される事となった身の上である。
言ってみれば裁判の様なものだ。判決が下されるまで牢屋行きってわけ。
事は大きくなり過ぎて、最早デビルクラーケンの事件の時の様に無罪になる事はない。大勢の命を危険に晒したのだ。それだけに留まらず、その危険に晒した人物達、つまり少数の手練である攻略組が大勢死んでしまえば、それはこの世界の全プレイヤーの死に直結する。ゲームをクリア出来なくなるのだから当たり前。有罪は免れない。罪は確定で後はその刑をどうするか?と言う事。
コノルは最早言葉が出ない。一応これでも弁解はした。
―――その時の場面―――
ライトはコノルに伝えるべき事を話す。
「俺も黒猫さんに非は無い事を訴えたが、どうにも説得出来なくてね。皆、コノルさんには感謝してるけど黒猫さんは許さないって言って、ギルド会議で黒猫さんへの罰を考えるって大騒ぎしてるんだ。俺の力及ばずで2人共、本当にすまない」
深々と頭を下げるライト。
「何の話なのじゃ?ご飯か〜」
「あああああぁ……諦めない!猫さんはアホだから許されるわ!直談判してくる!」
当の本人は呑気に構えているのに、コノルは誰よりもパニックになって、何故か近くの人型のオブジェに黒猫は悪くない旨の話を話し出す。
「猫さんは悪くない!アホなのよ!病的なアホなの!良かれと思ってアホな事しただけ!それにアホなのよ!」
最早語彙力がどうとか言うレベルでは無い。衝撃の事実に頭が回っていなかった。これでは説得もなにも無いだろう。それに今話してるのは人型のオブジェ。思考が完全に麻痺していた。
「ええええ!?コノルさん落ち着いて!!それは人じゃないから!!石像だから!!あの時の冷静沈着な君は何処に!?」
ライトはコノルの脇に両腕を通して肩を押さえながら落ち着かせようとする。
「離せぇええええ!猫さんはアホなのよおおおお!」
目をグルングルンさせて混乱しながら暴れるコノル
「コノルさん!それは最早直談判とかじゃないから!身内の恥を石像に向かって大声で叫んでるだけだから!一旦落ち!落ち着いてくれええええ!」
――弁解終了――
普段の黒猫並に役立たずであった。
「……はぁ」
何でもっと冷静になって対処出来なかったのだろうと悔やみ、肩を落とすコノル。
「……まぁ……いつかやると思ってたぜ俺は」
その横にはレウガルが、ニュースとかで良く聞く加害者の知人としてインタビューを受ける人物みたいな事を言って黒猫の入監を呆れ顔で眺めていた。