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仮想世界は楽しむ所なのじゃ  作者: 灰色野良猫
チュートリアル
70/231

その70 幕間 始まりは牢獄

 

 大きな湖の真ん中に冷たい灰色の煉瓦で囲まれた建物がそこにはあった。


 何処から漏れているのか。時より天井から水の雫がポタリ……ポタリ……と垂れ続ける。


 どう見ても人が住める様な建物ではない。


 それもそうだ。何故ならここは……


 1界にある、ならず者達を閉じ込めておく監獄なのだから。


 監獄の名前は『アルカトラズ監獄』

 凶暴な水属性モンスターが住む広大な湖に囲まれていて、脱出が困難な事が、実際にあるアルカトラズ島の監獄にどことなく類似しているので、そう名付けられたそうな。


 入っているのは主に黒表示や赤表示プレイヤー。まれに表示が普通のプレイヤーもいたりする。


 何故監獄にスポットを当てているのかって?それはここにとある人物が閉じ込められているから。


 冷たい煉瓦に囲まれて唯一の出入口が鉄格子で閉じられた牢獄の中、明かりはなく、明かりの代わりになるのは壁の上部に取り付けられた通気口だけ。その通気口も鉄格子でしっかり閉じられており、そこから出れるのは、時折入ってくる鼠くらいだ。


 今は深夜3時。通気口から入ってくる月明かりの光が牢の中を薄く照らす。


 そこには金髪で猫耳の少女がいた。


 そう黒猫だ。


 黒猫は月明かりを頼りに暗い牢獄で何かを食べていた。


「モグモグモグモグ……まずいのじゃああああああ!!!」


 牢獄で響く桁魂声。周りにいる牢獄の中の人達がそんな黒猫に反応する。


「さっきからるっせーぞ!!」

「てめー牢の中だからって調子乗ってんじゃねー!!」

「寝かせてよ!私が何をしたって……ううう」

「お前それしか言えねーのか!何とか言ってみたらどうだ!」

「ぜってーお前殺してやるからな!」

「毎晩毎晩騒ぎやがって!時間を考えろボケ!」

「お前の食ってんのベッドの藁だろうが!美味いわけねーだろ!アホ!」


 様々な反応であるが、皆黒猫に対して怒りを顕にしている事は言うまでもない。


「ぬはは。アホって言う方がアホなのじゃ〜バーカ」


 死んだ目で藁を貪る黒猫。何故こうなったのか?


 それは以前参加していた182界の攻略が原因だった。


 そう、黒猫が勝手な事をした、あのシャドーを引き連れた珍事件。


 その皺寄せを食らっていたのだった。


 そんな黒猫に1人の面会人が訪れる。


「うむ?コノルかの?」


 薄暗く顔が見えないシルエットは黒猫の牢の前まで来ると、月明かりがその顔を照らし出す。


 そこにいたのは


 看守員だった。


「のじゃぁ……」


 黒猫が心底残念そうに肩を落としていると、看守員が黒猫の牢の扉を開ける。


「出ろ。面会だ」


 そう看守員が言うと、周りの投獄されている奴等が一斉にブーイングを浴びせてくる。


「なんでてめーなんだ!」

「ああ!?ふっざけんなてめー!」

「なんで犯罪者よりタチの悪いそいつを出すのよ!不条理だわー!ああああ!」

「さっさと消えちまえー!」

「くたばれアバズレ!」


 黒猫は牢から出るや否や、周りの文句を言う奴等1人残らずアッカンベーと舌を出して挑発する。


 更にヒートアップする監獄内。看守員は額に汗を垂らしながら急いで黒猫を監獄内から連れ出す。


「あまり騒ぎを起こすな。囚人ナンバー931」


「誰が931じゃ!わたしゃの名前は黒猫じゃ!」


 看守員は呆れてものが言えない様子で、黒猫を面会室まで連れてくると扉の前で待機する。


「お主は入らんのかの?」


「入りません。君は早く入りなさい。本来夜中の面会はしてはいけないが、今回は特別だ。早めに済ませるように」


「入る入らない五月蝿い奴じゃな。もっと分かりやすく喋るのじゃ」


「……」


 ……キレそう。


 看守員が顳顬に血管を浮かべて怒りを我慢しているのを尻目に、黒猫は面会室へと入る。


 本来なら電気が付いているのだが、夜中の3時で、特別に設けられた面会だからか電気は付いておらず薄暗い。


 部屋の中央は透明な壁で遮られ、座って向かい合えるように机が中央の透明な壁を隔てて設けられていた。


 窓から入る月明かりを頼りに黒猫は、透明な壁で遮られた面会用の机へと向かう。その透明な壁の向こうにある机には既に誰か座っており黒いシルエットが見える。


 今度こそコノルなのじゃ!


 黒猫は嬉しさを顕にしながら机の向こうへと、かぶりつく様に透明な壁へとへばりつく。


「コノルうううう!」


「違います」


 黒猫の勘違いを即座に否定する言葉が返ってくると、黒猫は真顔になりその人物をまじまじと観察する様に見つめる。


 そこに居たのは、白い鎧と兜で全身を包み、兜のせいか声が篭って男性か女性かが分からない声音の人物がいた。


「の、のじゃ!?ぎ、ぎ、ぎ……」


 黒猫はその人物が誰か分かると、引き攣った顔で透明な壁から離れ後退る。


「ぎ、ギルマス……な、何故ここに?」


 蒼白い顔に変わる黒猫。


 紹介しよう。


 黒猫の所属ギルド【夢完進】のギルドマスター

『Noname Nobody: 』

 通称 『NN』


 ギルドを立ち上げた理由も、その目的も、ギルマスの人物像も、全てが謎に包まれている人物。


「牢獄でも楽しそうですね。こんな皆さんが寝静まった未明でも騒ぎを起こしているとは思いませんでした」


 NNは座りながら、目の前の机に肘を付いて両手を重ねていた。


 兜で表情が見えない分、笑っているのか怒っているのか分からない。声から気持ちを読み取ろうとしても、無機質で機械の様な声音なので、それも不可能だ。


 まぁ笑っていたらそれはそれで怖いが。


「…………の、のじゃぁ」


 そんな感情が分かり辛い人物相手に少しでも間違えた返事をしたらどうなるか。黒猫はそれを恐れて何も言わない。


 NNは黒猫に向かって首を軽く動かして座るように促す。


 透明な壁があるからと言っても、こやつならば、ぶち破ってわたしゃにお仕置きしてくる可能性があるのじゃ。油断は死。もう鼠に下半身を食べさてくる拷問は嫌なのじゃ……好きな食べ物をトラウマにさせられるのも……もう勘弁なのじゃ……


 黒猫は過去にNCPの村一つ間違って焼き払って消した事があった。それでギルマスが黒猫にお仕置きをした事があったのだが、どれも今までとは比にならないお仕置き、もとい拷問であり、黒猫はそれ以来ギルマスを恐れている。


 関わる事自体少ないのに、何故ここにいるのか?


 ああ分かる。お仕置きじゃ。


 それ以外の答えが見当たらず黒猫はガクガクと震えながら席に座る。


 頭が上がらないのではない。頭を押さえ付けられて上げられないのだ。といわんばかりに黒猫はNNの無言の圧に従う。


「お久しぶりですね。ご機嫌いかがですか?」


「ご機嫌いかがですかなのじゃな……うむ……分かるのじゃ……ご機嫌いかがですかなのじゃよ……」


 緊張し過ぎて、いつもよりも頓珍漢な事を喋る黒猫。無論本人も意味は分かっていない。頭の中が真っ白。


「そう固くならないで。安心して下さい。話は聞きましたから。貴方が思っている様な事をしに来たのではありませんよ」


「のじゃ!」


 その言葉を聞いた瞬間黒猫は水を得た魚の様に満面の笑みになる。


 それを見てNNは続けて喋る。


「今日ここに来たのは、貴方に()()()()をしに来たのです」


「何も違くないではないか!?思っていた通りなのじゃが!?助けてええええ!このりゅううううう!殺されるうううう!誰かあああああああ!」


 NNの言葉で、とうとう黒猫はパニックに陥り、立ち上がって入ってきた扉に向かって猛ダッシュして出ようとする。


 しかし扉は外から鍵を掛けられており開けられない。


「助けてえええええ!出してくれなのじゃああああ!」バンバンバンバン!


 力強く扉を叩く黒猫。それでも扉は開かない。というよりわざと外の看守員は開けなかった。


 まぁ、さっきの鬱憤を晴らしているのだろう。


 現世と地獄を隔てる扉は開かない。日頃の行いが転じた良い例を体現しながら黒猫は少しでもNNから距離を取る様にNNの動きを見張りながら部屋の端まで行く。


「お仕置き、とは言いましたが拷問ではありません。まぁ最後まで話を聞きなさい黒猫。座って」


 バッ!トスン……


 秒速で座り直す黒猫。身体は恐怖に抗えないものだ。


「今から、貴方にするのはお仕置き、とは名ばかりのお願い事です」


 黒猫はNNの言葉を生唾を飲んで聞く。


「ブラックギルドへの単独潜入。それで今回の騒動はチャラになります。頑張って下さい」


 NNのあまりに突拍子の無いお仕置き内容に黒猫は、鳩が豆鉄砲を食ったような顔になった。

2章へと入る休憩の様な話です。

次回から2章が始まります。

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