その58 黒猫によるイレギュラー
シャドーが現れてから30分。界ボス攻略は滞りなく進んでいた。
激しい戦闘音。作戦指示の掛け声。
森の中では様々な音が響き渡る。
そんなフィンリルと激戦を繰り広げている本隊のメンバーは見知っている顔ぶりが多くなっていた。
ライト、illegal、ハヤテ、一虎、レウガル、晴太、そしてその他大勢。顔は知らなくても名前が有名な人物ばかり。恐らく勝負は佳境に差し掛かっているのだろう。そこには攻略組きっての精鋭が集まっていた。
そんな中、コノルと黒猫は黙々と地雷を仕掛けて待機していた。
周りにシャドーが近付いていないか?設置箇所は大丈夫か?フィンリルがこちらに来ているか?確認すべき事をしっかり確認しながらコノルは遊撃隊としての役割を全うする。
だが一方で、黒猫はフィンリルではなく、シャドー隊とシャドーとの戦闘を見ていた。それはもうまじまじと。自分の仕事を放ったらかして。
暇なのじゃ。うむ?皆強いのじゃ。ぬ?ぬはは、やられとるのじゃ。ウケる。
高みの見物を決め込む黒猫。攻略隊の中では間違いなく1番最弱の癖に良いご身分である。
そんな黒猫はふと、フィンリル隊との戦闘に目を向ける。
……
特に何も思わない。シャドーとフィンリルは同じ動きをするのじゃな〜程度にしか感想が出ない。
当然だ。同じなのだから。
しかし眺め続けていると黒猫はふとある事に気が付く。
フィンリルとシャドーは全く同じ動きで攻撃パターンも攻撃モーションも差異は無く同じなのだが、ほんの少しだけ違和感があった。
誰も気付かないレベルの違い。それに黒猫は気が付いた。シャドー1匹だけ様子がおかしいと。
あやつ……なんじゃ?何かおかしいのじゃ……本体と同じ動きをしておるが、他のと微妙に違う……少し遅い?のじゃ?……仕様かラグかの?…………はっ!?違うのじゃ!コヤツは!
黒猫は驚愕した表情から一転してシャドーに対し眼光を鋭くしながら睨むように見る。
すると、黒猫の眼前には数え切れない文字と数字とシステムCodeの羅列が薄らと見え始める。
やはりか!しかも広いのじゃ!じゃから変な改変で容量を食って遅いのかの!こんな所にあんなのが居てはコノルが危ないのじゃ!他に異常はない!幸いコヤツだけならば!
真剣な表情で黒猫は何かに気が付くと、突如おかしい動きをするシャドーに向かって走り、石をぶつける。
「こっちじゃバーカ!これるものなら来てみるのじゃ!」
黒猫は先程くすねたヘイトを付加する指輪を素早く装備して、シャドーのヘイトをシャドー隊からコチラに向ける。
黒猫の思惑通り、シャドーは黒猫を睨み付けると黒猫に目掛けて突進してくる。
「うおい!?何やってんだあいつ!?」
「な、何を!?勝手な事するな!」
「コイツ!?邪魔を!?」
「バカ!作戦通りやれ!」
シャドー隊の面々は黒猫の動きに驚き、当然非難する。
「ん?うぇええええ!?猫さん何やってるの!?」
遊撃隊で罠を周りに設置して黒猫から目を離していたコノルも黒猫のおかしな動きに気が付き声を上げる。
「おい!?あっち!?黒猫ちゃん何やって!?作戦に無いぞ!?」
「なんだか分からないが何かあったんだ!クソ!俺が行く!」ダッ!
一虎はイレギュラーが起こった事に逸早く気が付く。
そんな黒猫の作戦を無視した行動に、フェンリル隊の中で最初に気が付いた一虎の言葉を聞きつけ、その一虎の横をライトが素早く走り抜け、黒猫を庇いにシャドー目掛けて攻撃を仕掛けに向かう。
しかし本体のフェンリルがライトの前に棘の壁を作って阻む。
「くっ!」
ライトが足止めされてる内に黒猫は追い掛けてくる者が居ないように予めポケットに入れていた煙玉を使って煙幕を巻くと、黒猫はシャドーと共に1人で誰もいない森の奥へと逃げ込んでいった。
その異変にフェンリルを相手しているメンバー数人も、漸く気が付く。
「あんのバカは!いきなり何やってんだ!」
レウガルはバカでかいブーメランを背中に担いで黒猫の援護に向おうとするが、ハヤテと清太に引き止められる。
「友人が心配なのは分かるが今離れる訳にはいかない!我慢しろ情報屋!」
「シャドーの方はシャドー隊に任せよう!目の前の敵に集中しないと持っていかれるぞ!イレギュラーは良くある!シャドー隊を信じろ!」
「ちっ!分かったよ!」
歯痒い思いのままレウガルは引き続きフィンリルとの戦闘を続投した。