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仮想世界は楽しむ所なのじゃ  作者: 灰色野良猫
チュートリアル
57/231

その57 シャドー出現

 かれこれ1時間は経過したであろう。


 罠を仕掛けるだけの作業に慣れた2人は、罠を仕掛けながらフィンリルとの戦いを遠目から眺めていた。


 フィンリルはHPが半分近くまで削られている。


「あんなにやって漸く半分。まだ掛かりそう。分身のシャドーって言うのも出るらしいし界ボスってやっぱり噂通り強いね」


「うむ?シャドー?そのシャドーとやらはいつ現れるのじゃ?」


「そろそろ現われるわ。HPを半分切ればフィンリルの分身のシャドーが3体出てくる。ほらあれ。シャドー隊が近くで待機し始めてるわ」


 コノルが指を差す先には草陰で待機している部隊がいた。


 いつでも現れたらフィンリル本体からシャドーを引き剥がして別の場所でも戦闘出来る様に、1人がヘイト魔法の準備をして2人がタンクとして付いていた。


「時間は掛かっているけど概ね作戦通りね。ダウンした人が0って、上手い事行き過ぎてて逆に怖いわ。私達がやったら秒でダウンして作戦のサの字も上手くいかないのにね」


 ここまで窮地に陥る場面がないとなると、界ボスが恐ろしく強くても肩透かしだ。楽ではないのだろうが、そう感じてしまう程、攻略組の手際の良さと手腕は見事なものだった。


「シャドーが出たら忙しくなるわ。これからが本番ね」


「何故なのじゃ?」


「ほらー作戦指示書を読み飛ばすから分からなくなるのよ。ちゃんと書いてあったでしょ?シャドーは引きつけるだけで倒さないから、シャドーには罠を使用しないって。なるべく不測の事態に対処する為シャドーとの戦闘はフィンリルから離れ過ぎない様にするから、私達は間違ってもシャドーの近くで罠を仕掛けない様にしながら、フィンリルの攻撃が届かない場所を判断して素早く罠を設置しなきゃいけないの。分かった?」


「分かったのじゃ。で、何故忙しくなるのじゃ?」


「まず何が分かったのか教えてくれない?」


 A地点B地点C地点といった要素は変わらないが、油断するとシャドーとの戦闘に巻き込まれる位置で罠を仕掛ける事になる等、黒猫に振り回されながらも懇切丁寧に説明して理解させている途中で


 戦線に変化が訪れる。


 その変化は誰にでも分かる位顕著に現れた。


 突如黒い大きな影がフィンリルの周囲に現れ、その影からフィンリルが幾度も放った爪の斬撃と同じ形をした衝撃波が放たれたのだ。


 その影による攻撃モーションが終わると、影はみるみるうちに生物の形を形成して真っ黒な体毛のフィンリルに姿を変えて現れる。


 三体のシャドーが現れた。作戦は第2段階に移行される。


「増えたのじゃあああ!?」

「あんたほんっとに何も聞いてなかったのね」


 増えたフィンリルに驚愕する黒猫、そんな黒猫の間抜け具合に呆れ返るコノル。


「驚いてないで行くよ!」


 コノルは黒猫の手を引っ張って、罠を仕掛けに動く。それと同時にシャドーが現れた際の対処する部隊のシャドー隊が、シャドー3体をフィンリルから引き離し3体別々に対応し始める。




 作戦の第2段階に移行され、森の中では其処彼処で戦闘音が鳴り響き始めた。




 コノルと黒猫は、フィンリルが見え、かつシャドーが辛うじて近くにいると分かる位置でデバフの地雷と毒の地雷を準備していた。


「一気に騒がしくなったのじゃ。いつの間にか戦っておる人も変わっておるのじゃ」


「分かんないけど、変わったのは本隊専用の作戦指示が出てたんでしょうね」


 フィンリルと戦っているメンバーが微妙に変わっている理由を答えていると、戦線から1人だけコノルと黒猫に近付いてくる人物が。


「そーだぜ。つっても個々の息抜きも含めてるから作戦指示ってもんじゃねーんけどな。あんなもん何時間も相手にしてらんねーから」


 そう言って声を掛けてきたのは、さっきまで戦線でフィンリルと戦っていた情報屋のレウガルだった。


「レウガルちゃん!」

「クララなのじゃ!」


 気さくに話し掛けてくるレウガルの姿に嬉しそうに反応する2人。そんなレウガルの顔や体には多少の傷はあったが、大した事はなさそうだった。


「おう。おひさー。つか、ちゃん付け止めろって。俺のが年上だって。そんでお前はいつまでクララって呼ぶ気だ?マジで立たなくさせてやろーか?」


「ぬはは。ウケるのじゃ」


「何笑ってんだ?ぶっ飛ばすぞ?まぁいいわ。どうだ?界攻略楽しんでるか?」


 レウガルの問に2人は顔を見合せる。


「「全然」」


 黒猫とコノルはハモリながら答える。


「ははははは!そりゃそうだ!楽しんでるとか一部の頭おかしい連中だけだからな!お前らも大概おかしいけど、そこはマトモで良かった良かった!ははははは!」


「もおーレウガルちゃんったら〜」


 そう言いながらコノルは無邪気に笑うレウガルにユラユラと近付いて抱き着く。


「スゥーハースゥーハー」


 そしてレウガルの髪に顔を埋めて、これでもか!という位匂いを嗅ぐコノル。


「……うおい……何いきなり抱き着いてきて匂い嗅いでんだ?前言撤回。やっぱお前らおかしいわ」


 されるがままの状態でレウガルは不機嫌そうな顔をする。


「何故お前()なのじゃ?わたしゃまともじゃ」


 不満そうな顔でレウガルに言う黒猫。


「記憶してる人物の中でお前が一番おかしいわ。そうなった経緯が不明なのもな。どうすればそうなるんだよ?情報屋すら知らないなら、そりゃもう珍事件だよ」


「なんか言っとる。ぬはは……訳分からん事言うななのじゃ!!」


「うるせーな?何いきなりキレてんだ?情緒不安定か?俺のがキレそう。と、結構休んだからそろそろ戦線に戻るわ。無事ならまた後で会おうぜ。じゃな」


「ちょっと待ってレウガルちゃん!」


「あ?なんだ?」


「この前は……態度が悪くてごめんなさい。それとクラーケンの件も、ありがとうございます」


 コノルは深々と頭を下げる。


「ああ、あん時の。気にすんな。ありゃ俺が悪かったんだ。コノルが気にする事じゃねーよ。その内忘れるさ。それにクラーケンの話は笑い話さ。また後で会おうぜ。そん時その話聞かせてやるよ」


 そう言ってレウガルは小さな身体に似つかない大きなブーメランを背負ってフィンリルに向かっていった。

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