その56 界ボス【フォレストシャドーフィンリル】
森の中で木々が少ない広々とした場所でコノル達は座って待機していた。
「なんなのよもう。皆して敵意剥き出しにしてさー。私達が何をしたのさ?一虎さんもなんでこんな敵意しかない所に私達を誘ったのよ?ライコって人も来ないし、ハヤテさんにもまだ会えてないし、こんな事なら断れば良かった」
「まったく嫌になるのじゃ。ぬはは」
「笑い事じゃないわよ。もう……でも引き受けたからにはちゃんとしないと、あの噂で踊らされてるバカな人達の思う壷になっちゃう」
言いたい放題言ってきてた連中が
ほらやっぱり言った通りだ、怠け者の卑怯者だ。
とか言って指を差しながら笑ってくるのを想像すると無性に腹が立つ。なんとか見返してやりたい。
その為には活躍しかない!
とはいえ、やる事と言えば、ただ遠くで罠を仕掛けるだけ。戦闘に直接参加する訳じゃないから活躍も何も無い訳だが。
「うーん……でもやっぱり今回はヘマしなかったらいいか」
活躍出来ないなら目標は低く浅く。無理だと分かったら無難な選択にシフトチェンジする。
これじゃ見返せないけど、考えてみれば見返せる程の力ないわ。時には諦めも肝心ね。ストレスは溜まるけど。
ドーン…………パンッ!
そんな世知辛い気持ちになっていると上空に突如光が。戦闘開始の合図だ。
コノルは急いで罠の準備に取り掛かる。
「キタ!先ずは麻痺!」
コノルは麻痺の地雷をメニューを開いてアイテム欄から取り出すと、それを足下に仕掛ける。
「さぁ!離れるわよ!猫さん!」
迅速な行動が鍵を握る。急いでその場から離れようとするコノル。
しかし、黒猫は遅かった。
「花火なのじゃ」
ボーッと開始の合図を花火だと勘違いして悠長に眺める。
イラッ……
それを見たコノルは黒猫に走っていき、両足を揃えてドロップキックをかます。
ドゴッ!
「ぬじゃ!?」
鈍い音が鳴り響き黒猫は地面に転がる。
「少しは話を聞け!眺めてないで動くよ!ほら!」
直ぐ様黒猫を立ち上がらせてその場を離れた瞬間、後ろから轟音が鳴り響く。
轟音は徐々に近付いてくる。同時に木々が押し倒され、時に激しく金属が擦れ合う戦闘音も。
コノルと黒猫は振り返らず一心にその場から少しでも遠く離れる為に走る。
そして距離を空けるとコノルは後ろを振り向く。
その視線の先には木々を薙ぎ倒し、本隊と激しく交戦している深緑色をした巨大な狼が。
巨大な爪で人の倍以上ある木をバターのように切り裂き、鎧の様な体毛を靡かせる巨大な狼。
界ボス【フォレストシャドーフィンリル】
通称フィンリルは周りにいる人間に攻撃を仕掛けていた。
フィンリルは横に一回転して爪から出した斬撃を、盾を持って取り囲んでくるタンク役を一蹴する。
まるで蟻の様に簡単に吹き飛ばされるタンク達。
そんな吹き飛ばされた者達の身体とHPは、直ぐにヒーラーによる回復魔法の緑色の光が包み込み回復する。そして回復したタンク達は盾を向けながら、再び走り出そうとしているフィンリルを素早く取り囲む。同時に何処からともかく投擲物や魔法がタンクの人達の後ろから、フィンリルに向かって飛んでいきダメージを与える。
フィンリルが攻撃の衝撃で仰け反ると、その僅かに動いた足がコノルが設置した麻痺罠を作動させる。
痺れるフィンリル。
罠の作動を確認すると、タンクは下がり、剣や斧等を持ったライト等のアタッカーが草陰から一斉に現れ、フィンリルに怒涛の攻撃をお見舞する。
「う、わぁ……す、凄い……」
激しい戦闘。自分達では邪魔にしかならないと分かる位連携の取れた動きにコノルは呆気に取られながら無意識に称賛を零す。
しかし、フィンリルの麻痺が切れた瞬間、フィンリルは自分の周囲に刺々しい茨を召喚して、周りのプレイヤーを切り裂く。
アタッカーは防御を捨てた攻撃特化の役割だ。どんな攻撃でも界ボスの攻撃は当たるだけで痛手である。
何人かは避ける事が出来ていたが、中には当たっている人もいた。
言わずもがな、ダメージを受けた者は直ぐに回復魔法で回復していたが、外傷ダメージが大きく回復に手こずる人もいた。
その中には見知った顔があった。
「あれは!?レウガルちゃん!?助け……に……」
コノルはその姿を確認すると駆け寄って助けようと一歩だけ足を前に出すが、途中で足を止める。
行っても邪魔になるだけだと。その傷を回復している光景を見た瞬間頭で分かったから。
レウガルが受けた深い傷を瞬時に癒すヒーラーの手際の良さと能力の高さ……今の自分に真似出来ない高レベルの回復魔法。
それを見て自分が何を出来るのか?何か出来るわけない。何故なら全てにおいて劣っているのだから。
助けたい、けど、無力だと分かってしまっては、身体が脳に逆らえない。
援護も何も出来ない無力さを感じる。
その時、コノルの頭の中で過去の記憶がフラッシュバックする。
―――コノルは……笑顔で……いて……ね……―――
―――もう私は……1人なんだ―――
―――私のせいで……私が死ねば良かったのに!!―――
―――ハッ!お前に興味なんざねーよ!お前はただのKeyだ!あの観測者を誘き出すためのな!―――
―――ぬはは、こんな所で会うとは奇遇なのじゃ―――
―――私だって……1人で……生きていける。証明するんだ―――
―――彼は君に会いたいだけなんだ。初めて出来た友達の君に―――
―――なんで……私なんかの為に……―――
―――なに、少し記憶と力を無くすだけじゃ。コノルは気にしなくていいのじゃ。ぬはは―――
私は……いつだって……無力だ
浮かぶ過去の光景。悔いた記憶。やり直せない後悔。
行っても……邪魔になるだけ……ね……頑張って……レウガルちゃん……
回復が済むとピンクの髪をした小さな褐色の少女は、背負っている大きなブーメランを駆使しながら、周りにいる仲間と連携をしてフィンリルに激しい攻撃を引き続き行う。
その姿を遠目から寂しげに見ながら、コノルは黒猫と一緒にB地点に罠を仕掛けに向かった。