その52 『太刀使い illegal』
――黒猫が消えてから10分経った――
「あれって……『殲傑の血死涼』のギルドメンバーじゃないの?ほら色んなギルド潰してるって言う」
「穴埋めって……30人の穴を3人では……」
「建前さ。戦力になりやしない」
「ヒヒッ、どうせ直ぐ死ぬ。関係ない」
「おい、口を慎め」
「弱すぎ。サポートすら困難だろうね」
「へぇあれがねー、さっきの金とあの黒のどっちだ?ヘンゼル?」
「うぜぇな……事故に見せかけて殺るか」
周りで好き放題言われているコノルは1人肩身を狭くしながら、ちょこんとベンチに座っていた。
一虎はというと、ギルドメンバーから呼び出された為一旦離れている。
黒猫は行方不明。
知らない人達からの冷たい視線と、聞こえてくる話の内容と誹謗中傷を一身に受け、コノルは来なければ良かったと早くも後悔の念が強くなっていた。
もう、どこいったのよ猫さん……
あの破天荒で騒がしい性格の黒猫がいないと余計に寂しく心細い。
肩身の狭い思いだが、下手にこんな中を探し回ればどうなる事やら……。
コノルは変な因縁を付けられない様に大人しく待つしかなかった。
―――
黒猫はとある人物に会っていた。
周りは木が生い茂っており、広場を外れた森の中。誰もいない静閑とした空間で2人は話を交わす。
「相変わらずおかしな名前じゃな」
「……早速その話か。言っただろう触れないでくれと」
黒猫の前には、短髪で白髪、顎には白い髭を少し蓄えた人物がいた。背中には大きな筒を横向けに背負っており、その筒の中には無数の太刀が収められている。
「『illegal』だ。そう登録されている。そろそろ覚えてくれないか?」
「ぬはははは。無理なのじゃ。表示が違うのが悪いのじゃ」
「邪魔は感心しない。今の君では理解出来ないだろうが、あのハッカーの頼みだから君は自由にしていられるんだ」
「誰の事か分からぬが、会えないのじゃ」
「君はね。私には嫌と言うほど苦情がきているよ。お陰様で今も。見られている。今日はその忠告だ。何故危険な橋を渡る?ただでさえ君は重荷を背負っているのに」
「橋ではない。道じゃ。続いておるから進んだだけじゃ。それに重荷ではない。思いを背負っておるのじゃ。じゃがお主にわたしゃ感謝しているのじゃ。助けて貰っての。道は続いた。ありがとうなのじゃ」
「……彼女が近くにいないと饒舌だな。君達が進む道が獣道でない事を祈るよ。精々死なないように」
「ぬはは」
2人は、お互いでないと成立しているのか分かり辛い会話をして、話が終わると互いに踵を返して離れる。
黒猫はその足で広場に戻るとコノルを探す。
うむ?どこいったのじゃコノルは?
辺りをキョロキョロと見回すと、視線の先で一虎が誰かと言い争っているのが目に入る。
「はぁ!?俺も本隊に参加しろだぁ!?話が違うぜ!」
「仕方ないだろ?半数がお前の抜ける事に反対したんだから」
「つってもよぉー、俺が抜けた位でどうこうなるもんじゃないだろ?」
「それは皆が決める事だからな」
「うーん……つかお前やillegalとかの特異持ちが一斉にやれば苦労ないだろ多分」
「特異スキルは体力を消耗するんだ。無茶した使い方をすれば1日寝込む位になるって。だからそうそう使わないって話は聞いた筈だよな?あくまで切り札。切るタイミングは」
「勝利が確実とわかった時!わーってるよ!何回も言わなくていいつの!」
どうやら言い争っているのは一虎の知り合いの様だ。黒猫はそれを見てひょこひょこと一虎に近付いていく。
「サラマンダーオブジェよ。何話しとるのじゃ?」
「うん?黒猫ちゃんか。って何それ?名前?まさか俺か?俺を呼んでるのか?」
相変わらず名前を覚えない黒猫。
そのぶっ飛んだ名前の呼び方にただただ困惑する一虎。ラしか合ってない。
「君は……一虎の話してた子か。まさか繋がりがあるとは思って無かった」
そう言って一虎と話していた男は黒猫に手を差し出す。
「はじめまして……かな?よろしく。俺の名前はライトだ」
黒髪で爽やか系なイケメンのライトに黒猫も握手し返す。
「うむ。よろしくなのじゃ。黒猫じゃ。お主誰かに似てるのじゃ?誰じゃったっけ?」
黒猫は首を傾げながらまじまじとライトの顔を見る。
「俺に似た様な顔は一杯あるからね。それより、あまり君達の良い噂は聞かない。もしかしたら目の敵にしている人も攻略組の中にはいるかもしれないから、討伐に参加する時は敵以外にも細心の注意を払って、くれぐれも余計な事はしないでくれ」
ライトは印象が悪くなる様な警告を黒猫にする。
それを聞いた一虎は眉間に皺を寄せてライトの肩を掴む。
「おい。そんな言い方ないだろう。所詮噂だ。それに俺達のギルドメンバーを1人殺ったってのも黒猫ちゃん達じゃないのはわかった事だろ?そもそもブラックギルドに関与してたんだ。お前には悪いが自業自得さ。私情を持ち込むなよライト。アイツの事は忘れ、あ」
内輪揉めがあったらしい会話をつい熱くなり口を滑らせて仄めかしてしまい、一虎は黒猫を恐る恐る横目で見る。
戦闘前に余計な情報を聞かせちまったか?
そんな一虎の心配を他所に、黒猫は近くを飛んでいる蝶々を目で追っていた。どうやら一切話を聞いていないようだ。
「……まぁ、ちょっといざこざはあったけど黒猫ちゃん達は関係ないから気にしないでくれ」
「何じゃ?サラマンダーオブジェよ?」
一応フォローを入れるが、どうやら黒猫にはその必要が無かったようだ。
「いや、聞こえてないならいいわ……って待て!?やっぱそれ俺の名か!?その名前のどこにカズトラって要素があるよ!名前の原型なくなってんじゃん!というか少しは聞いてくれよ!」
「お前は聞いて欲しいのか欲しくないのかどっちなんだよ……」
一虎のあまりに矛盾した発言に呆れるライト。そんなライトは再び黒猫の方を向く。
「すまない、黒猫さん。少し当たりが強くなってしまった」
「強かったのかの?分からぬがいいのじゃ。気にする事でもないのじゃろう」
「ありがとう。君達の事は期待してるよ。無礼を働いたお詫びと言っちゃなんだが、何かあれば遠慮なく頼ってくれ」
「そうするのじゃ。ならばわたしゃに何かあった時コノルを守って欲しいのじゃ」
「コノルさんは君のパートナーだったね。わかった。お安い御用さ」
「ありがとうなのじゃライト。ではコノルを探してくるのじゃ。サラマンダーオブジェ、コノルはどこなのじゃ?」
「あ、わざとか。わざと名前間違えてるな?そろそろ普通に呼んでくんない黒猫ちゃん?」
「うるさいのじゃ!サマンドー!早く教えるのじゃ!」
「また呼び方変えてきた!?しかも今度は1文字も合わなくなってるぅ!?」
またも一虎に激震が走る。
「ライトは普通に呼ぶのに何で俺だけ!?」
「名前を知らないからじゃ」
「覚える気がないの間違いだろおおお!?」
「ぷっ、はははは!まるで漫才だな」
ライトはそんな黒猫と一虎のやり取りに笑みを零すのであった。