その48 ギルド【教会法師】のペリカン職人
日も落ちてこようかという時間帯に、大通りを歩きながら雑談する黒猫とペリカン職人の2人。
会話を弾ませながら順調に目的の広場へと向かっていた。
「―――それで、私達は支援金でたまにこうして交代交代で他の界に来ているのですよ」
「みなから助けられとるのじゃな。わたしゃも良くコノルに助けられてるから分かるのじゃ」
でしょうね。
笑顔で黒猫の話を聞きながら、ペリカン職人はこれまでの黒猫の行動で、コノルと呼ばれる人が相当苦労して黒猫の面倒を見ているのだろうと容易に想像していた。
「そのコノルさんって方は面倒見がいいのですね」
黒猫の気分を害さない様にオブラートに包んで言うペリカン職人。
「のじゃ。すぐ会えるのじゃ」
「ふふ、楽しみです。そのコノルさんはご友人か何かで?」
「恩人なのじゃ」
黒猫は自分が巻いている赤いマフラーを手に添える。
「そう、恩人なのじゃ……暗く冷たいあの世界から……温かさをくれた恩人じゃ」
黒猫は少し微笑みながら赤いマフラーを懐かしがるように見つめる。
「……」
急に雰囲気が変わった黒猫のその様子から、信頼以上の関係を持っていると感じ取ったペリカン職人は黒猫の顔を黙って見つめる。
他人が踏み込めない信頼を超えた何か。そんな関係に軽々しく踏み込むべきではないと思った。
「……そうなのですか……貴方も苦労をしているのですね。お互い頑張りましょう!」
「うむ!」
そうこうしていると掲示板の広場に出る。
そこには窶れてベンチで休んでいるコノルの姿が。その周りには子供達が仲良く寝ている姿も。
「おお!コノルなのじゃ!」
「あれは!ケイちゃん!アヤちゃん!サっくん!タっくん!コーちゃん!メグミちゃん!トーヤくん!やっと見つけた!」
黒猫はコノルに、ペリカン職人は子供達の名前を呼びながら座っているベンチへ向かって駆け寄る。
「……ぅうん?あ!マザーだー!」
「マザーだー!」
「どこいってたのマザー!」
「マザー!」
子供達は起き上がるとペリカン職人に駆け寄る。
「コノリュウウ!」
あ、猫さんだ
感動の再会をするマザーと子供達の横で、走って駆け寄ってくる黒猫に淡白な反応をしつつ、力無く顔を向けるコノル。
そんなコノルに黒猫は飛び付いて抱き着く。
「どこいってたのじゃ!さぁ子供を探すのじゃ!」
真横で子供達がマザーと再会しているのに、まだ子供を探そうとか言い出す始末。
始末に負えないわ……つっこむのも面倒臭い……
「猫さん……」
「うむ?」
「な、ん、で、メッセージ読まないのよぉ……」
コノルは今迄の怒りを発散するかの如く、黒猫の眉間に両手で拳を当てて、万力の様にグリグリと頭を締め付ける。
「いだだだだだ!?ち、違うのじゃ!メニュー画面を開けなかったのじゃ!」
「だからぁ……あんたのメニュー画面はぁ……他の人のメニュー画面を借りないと表示出来ないと言っとろうが!!何度言えば分かる!!」
「あだだだだだだだ!?」
涙目でジタバタする黒猫。
「あ、あの……貴方がコノルさんですか?」
そんな制裁をしている最中、ペリカン職人が声を掛けてくる。
その修道服姿からコノルは探していたマザーだと理解すると一旦手を止める。
……ハッ!?今この人猫さんが連れてきてなかった!?……偶然か。猫さんが狙ってそんな事できる訳ないしね。
「はい。もしかして……貴方はマザーの【ペリカン職人】さん?」
「はい、お初にお目に掛かります。この度は子供達を見つけて面倒を見て下さってありがとうございます」
ペリカン職人は深々と頭を下げる。
「なに気にするななのじゃ」
コノルに頭を押さえ付けられた状態から黒猫が口を挟む。
「あ、ん、た、は、何もしてないでしょ〜?」
グリィグリィグリィ……
「あだだだだだだ!?」
お前が言うなとばかりに、再びコノルの万力が火を噴く。
「ふふ、お話の通り仲が宜しいのですね。お会い出来て本当に光栄です。今すぐにでもお礼をしたい所なのですが、実は急いで1界に帰らないといけないので、勝手ではございますがここで御暇させて頂きます。この御恩はいずれ。1界に立ち寄った際はギルド【教会法師】をお尋ね下さい。私が出来る最高のおもてなしをさせて頂きます。本当にご迷惑をお掛けしました」
「いえいえ!こちらこそバカを連れて来て頂きありがとうございます!是非伺わせて頂きますね!」
「……のじゃぁ」
万力でダウンしている黒猫から手を離してコノルは嬉々としながら立ち上がる。そして立ち上がった拍子に黒猫はコノルの膝からゴロリと転がり地面に倒れる。
そんな黒猫を踏み付けながらコノルはペリカン職人と握手を交わす。
その時ペリカン職人は思った。
思ってたより黒猫さんも苦労しているんだなぁ……と。