その45 気絶から目覚めれば膝枕
ポタ……
額に雫が滴り落ちる感触で目を覚ます。
ここは……何処なのじゃ?
目の前には青空と、眼鏡を掛けた女性が覗き込むように黒猫を見ていた。後頭部には柔らかな感触。仄かに温もりを感じる。どうやら膝枕のようだ。
「あの、大丈夫ですか?」
優しく気遣いの言葉を掛けてくる目の前の女性は、手に蒼い光を放つ小瓶を持って黒猫を看病していた。どうやらさっきの雫は小瓶からの様だ。
黒猫は横目で辺りを見回すと、ここは路上に置かれているベンチの上。ベンチの前には人が歩いて通り過ぎていく。
気絶してからそれ程時間は経っていない。真上で輝いてる擬似太陽の位置と人の数から、時計を見なくてもそれが容易に分かった。
身体が軽い。痛みもないのじゃ。
黒猫は膝枕の上に頭を置きながらグーパーグーパーと、手を動かして自分の身体の調子を確認する。
HPは満タン。身体は無傷。さっき階段を転げ落ちたのが嘘だと思うくらい、身体の調子がいい事に黒猫は首を傾げる。
「……今のわたしゃに【不躰宝灯】も【四宝陣】も意味は無い筈なのじゃ?」
自分が持っているアイテムの名前をポツリと零す黒猫。
使う者が使えばチート級の力を発揮するアイテムなのだが、その話はまた後日。
「ふたい?しほう?えっと、何の事か分かりませんが、HPと身体の傷は【神聖の水】のお陰です。気分は良くなりましたか?」
意味不明な事を膝枕の状態で言う黒猫に、マザーことペリカン職人は黒猫の体調を心配する。
「絶好調なのじゃ。もしや、お主のお陰なのかの?ならばありがとうなのじゃ」
「いえいえ、無事で何よりです」
「時にお主、借金取りなのかの?」
「……は?」
助けてくれた恩人に失礼極まりない質問をする黒猫。
予想外の質問を受け、ペリカン職人は固まる。
「えーと……何でそう思われたのか疑問なんですけど、違います。見ての通りシスターです。1界にて【教会法師】のギルドマスターを担い、チャイルドエラーの子供達のお世話をさせて頂いております。プレイヤー名は『ペリカン職人』。皆さんからはマザーと呼ばれてます。どうぞお見知り置きを」
「どこかで聞いた様な名前じゃな。うむ。わたしゃは黒猫じゃ。よろしくなのじゃ。よいしょ、なのじゃ」
ペリカン職人に比べ、あまりに簡素な自己紹介をして黒猫は起き上がりベンチに座り直す。
「よろしくお願いします。あ、そうだ。先程からお聞きしたい事があるのですが、よろしいでしょうか?」
「うむ。何でも答えるのじゃ」
「貴方も子供を探しているのですか?」
「探していると言うより鬼ごっこの最中なのじゃ。忘れておったのじゃ。ではまたのー」
唐突に話を切り上げベンチから立ち上がり立ち去ろうとする黒猫。
「え!?ちょおおっと待って下さい!?まだ!まだ聞きたい事があるんですけど!?というかここから!ここから本題です!」
ひえー!この人ランプの精みたい!
質問1つで願いを叶えてすぐランプへと帰る魔人を思い浮かべる。まぁあっちは3つの願いで帰るのだが。ただの質問を願いととらえて帰られては堪らない。
融通の効かない黒猫にそんな事を思いながらペリカン職人は黒猫に手を伸ばして引き止める。
「何じゃ?お主も鬼ごっこに混ざりたいのかの?」
「いえ、あ、えっと、はい」
話が早そうなのでそういう事にしとこう。それなら突発的に逃げられる事もないだろうし。
早速黒猫の扱いに慣れてきたペリカン職人は取り敢えず話を合わせる事に。
そのままゆっくり歩く黒猫に同行する。
鬼ごっこってもっと走るものじゃないの?まぁ、私は楽だからいいんですけどね。
当然の疑問を浮かべながらペリカン職人はゆっくり歩く黒猫に付いていくのであった。