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仮想世界は楽しむ所なのじゃ  作者: 灰色野良猫
チュートリアル
38/231

その38 ツケ

 朝は誰にでも平等にくる。


 慣れ親しんだ者にとって朝は早く訪れる様に感じる。


 慣れとは怖いものだ。


 来て欲しくないと何度願った事か。


 だが来るのだから仕方ない。


 起きよう。


 だけど、もう少しこの安らぎを堪能してか……zzz。




 起き上がろうとして、バフッ!と柔らかな枕に顔を埋める。


 コノルは久々にちゃんとした部屋で寝れる喜びを感じていた。


 この所毎日、寝る場所といえば、寝袋、寝袋、寝袋…………最後には宿の形をしただけの場所で寝袋……ふざけてる?いいえ真面目です。切実です。


 しかし今は違う。


 柔らかなシーツに柔らかな枕と柔らかな掛け布団が付いている紛う方なきベッド。寝袋じゃない。こんな場所で寝るのは何日ぶりか。


 下手すると数ヶ月ぶりかも。


 寝る場所に喜びを感じる高校生が果たしてこの世に何人いるか?


 いや年齢が同じで世界規模なら何人もいるだろう。というより寝袋で寝れるだけマシだとお叱りをうけるかも。


 しかしこの現代で、先進国で、私達の様に寝たい場所を選べなくて寝袋で毎日生活をする高校生がいるだろうか?


 多分殆どいないだろう。と言うか、いてたまるか。


 だからこの至福の一時を終わらせない為にも、私はもう、起きない。


 1人脳内で謎理論を展開すると、コノルはモゾモゾと掛け布団を抱き枕の様に巻き取って抱き付いて寝る。


「…………朝なのじゃ。ごはん」


 その真横から黒猫が掛け布団を羽織りながら現れる。


 恐らく掛け布団を羽織っている所を見るに、黒猫も同じ事を考えていたのだろう。


 しかし睡眠と同じ位の力を持つ空腹が黒猫を動かしているのだ。


 ここは1泊7000ゴルドの宿。


 普段ならば絶対泊まることの無い宿屋。いやもうホテル。ホテルだわ。


 そんなホテルの一室で眠気眼を擦りながら黒猫はコノルの身体を揺する。


「ごはんなのじゃ。コノルぅ。ごはん~」グー


 声と同じボリュームでお腹の音もなる。


 コノルは仕方なく寝転んだ状態でゴロンッと黒猫の方に顔と体を向ける。


 猫さん。ごはんは自腹だから今日は我慢して。


「…………」


「このりゅううう~ごはん食べたいのじゃ~」


 おっと声に出てなかったわ。いけないいけな……zzz


 完全に活動を停止して二度寝を始め、黒猫を放置するコノル。


 すると、黒猫は諦めたのか肩を落としながらその場を離れる。





 束の間の静寂が訪れ、窓から差し込む木漏れ日が朝の一室に風情を齎す。




 それから1時間後……


「のじゃぁ!」


ドカッ!!


「アウチっ!?」


 コノルのお腹に衝撃が走り、思わず声を上げる。


 何事!?


 コノルは自分のお腹に目をやると、真ん丸な白い袋が置かれていた。


「ナニコレ!?」


「のじゃ!コノルが目覚めたのじゃ!ごはんなのじゃ。食べるのじゃ」


 黒猫が指を差す袋の中にはパンやら肉やらが詰め込まれていた。


 何これ?食べ物のブースターパック?


 コノルはフランスパンみたいなのを袋から一つ取り出す。


「これ……どうしたの?」


「ツケなのじゃ。カズハヤのツケなのじゃ」


「誰カズハヤって?……ああ、一虎さんか。いやハヤテさん?って、また勝手にそんな事を。怒られるわよ」パクっ


 そう言ってコノルはどさくさ紛れにパンを一口齧る。


 黒猫はたまにこうして他人の名前で物を買う。おかげで多方面から恨まれているが、本人は全く気にしていない。


 コノルももう慣れすぎたせいで、何か起こってから問題に対処するのが一番だと学んでいる。


 だって誰のツケがどこでツケられてるか全く分からないから。


 仮にツケがバレて怒られても、謝ってツケを猫さん持ちにすればいいだけだし。まぁそのせいで一部の個人に借金をしている訳だが、この話はまた追い追い話そう。


 ちなみに、互いが認知してツケ扱いで物を譲る行為は出来るが、この世界に本人と当人が認知しない状態で勝手にツケを出来るシステムなんてない。こんな事出来るのは猫さんだけ。秘密だけどね。原理は猫さんだけしか分からない。何故なら猫さんの説明が意味分からないから。


『ここなのじゃ。『//TAR money//cov=<<name>>main=00012356』 取るのじゃ。空いたのじゃ。名前を置くのじゃ。コピーするから近付くのじゃ。完了なのじゃ。ぬはは。ザマーみろじゃ』


 ね?何言ってるかマジで分かんない。だから考えるだけ無駄。完っ全に犯罪だからやるなとは言ってるんだけどね。


 そんな犯罪者予備軍(くろねこ)が無我夢中でムシャムシャと食べ物を食べ続けるのを見ながらコノルはベッドの上でまたパンを一口齧るのだった。

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