その37 界ボス攻略に誘われました
黒猫が暴れた事により4人は店から追い出されて夜道を歩いていた。ついでに出禁宣言もされました。
「…………」
……このままじゃ居場所がなくなっちゃう!!
コノルは無言のまま滝のように汗を垂らして頭を抱える。
「……まぁ大丈夫だよコノルちゃん」
せっかく船沈没の無罪を勝ち取れたのに、こんな事ばかりやってたら、どちらにせよいずれ街から追い出されると思い悩んでいるコノルに、一虎は先程の一騒動で気絶した黒猫を背負いながらコノルの心中を察して慰めの言葉を掛ける。
「まさか俺達まで出禁になるとはな。なかなか無い体験だ」
ハヤテは腕を組みながら一番後ろを歩いて、この状況を楽しんでいるように見えた。
私達は毎日こんなんだけどね……
そう思いながら先頭にいるコノルは頭を抱えるのをやめて振り返り、皆に頭を下げる。
「ごめんなさい。私達のせいで……」
「ああ、俺は全然構わない。が、一虎がな、あの店行き付けだったのだろう?」
「んあ?俺も別に。まぁどうとでもなるさ店の出禁位。それよか2人は?この後どうすんの?」
「あ」
コノルはあの泊まっていた安宿以外を探さないといけない事と、無報酬になってしまってお金が無いことを思い出す。
その事を2人に話すと
「泊まる所がない?あっ!じゃあさじゃあさ!今晩の宿代払うから今度の182界ボス攻略一緒に行かないか?」
一虎が目を輝かせながら2人を界ボス攻略に誘う。
ハヤテはそんな気軽に誘う一虎を睨み付ける。
「お前……遊びじゃないんだぞ。素人を連れて戦える程、界ボスは甘くない。俺達ですら死ぬ可能性があるのに何を考えている。馬鹿か?」
「支援に回れば大丈夫大丈夫!今回のボスはスピード型だから罠師は何人いても良いって話だったろ?」
「そんな問題じゃない!遊びじゃないんだ!決められた人数と決められた作戦で攻略を行うのに、作戦も敵も知らない一般人に入れる余地はない!この子達だけじゃなく仲間まで危険に晒す気かと言っている!」
ハヤテは一虎の襟元を掴む。
「お、落ち着けって」
一虎は背中に黒猫を背負った状態なので、なす術なく無防備に掴まれながら愛想笑いで誤魔化そうとする。
何故コノル達が来る事に、ハヤテが否定的なのか。
それは界攻略に関係あった。
界攻略は以下の手順で行われる。
1. 新しく解放された界のフィールドにギルド会議で選抜された数名のアサシン系役職を送り、界の状態、敵の種類、罠ギミックの確認or除去を行う。これを第1班と呼ぶ。それまで新界には誰も近付かないように立ち入りを制限する。
2. ある程度情報が手に入り次第、複数人のアサシンを界に取り残して、3名程で待機している攻略ギルド連盟に連絡を行う。
3. 情報をギルド同士でその場にて吟味し、最新界に残っているアサシンに撤退かの判断を行い、行けそうならそのまま複数の隊を組んだギルドが第1班の待機している現地に向かい合流する。
4. そして第1班を解体し、新たに第2班を形成する。この第2班は各々のギルドで、アタッカー1人、タンク1人、ヒーラー1人の役割を持った者を必ず入れたパーティーを最低ラインの1括りとしてパーティーの形成を行う。パーティーは4人1組しか組めないので3パーティーを1チームとした合計12人で更に広範囲の探索を行う。
5. その後、界が安全と判断されるまで雑魚敵を殲滅し、雑魚敵の数が驚異に成り得ないと判断されたら、敵がポップする場所(約200箇所)各々に手練れを1~3名待機させて雑魚を交代しながら討伐していき、残りの者がボスを探す。これを界ボス捜索と呼ぶ。
6. 界ボスが何かしらの条件をクリアして出現したら、界ボス探索の体制を解除し、近くの者がボスの足止めと位置の報告を行い全ギルドが撤退を行う。そして転移ポータルに監視役を置いて再び一般人の立ち入りを制限しておく。
7. タンクとヒーラーだけで新たに編成した第3班で、長期戦を行い界ボスの攻撃&行動パターンと弱点を調査して情報が集まり次第撤退。
8. 第2班と第3班でチームを編成し再び界ボスに挑む。そして界ボスのHPが半分を切ると第2班は前線から一時離れ第3班で界ボスの攻撃パターンが変わるかを調査する。そのまま倒せると判断された場合第2班が前線に加わり第3班と一緒に引き続き界ボス討伐を行う。出来ないと判断された場合撤退し、ギルド会議で対策を立て再度同じ様に挑む。
これが界攻略の一連の流れである。
慎重に慎重を喫した流れ作業で、毎回20にも及ぶギルドが参加して攻略を行っているのだ。
死なないために。それは皆でゴールを目指すから。
そんなちゃちな理由では決してない。
これ程慎重に時間と日数を掛けて攻略する理由は一つ。
限られた攻略を目指すメンバーを1人でも多く最後まで残しておきたいから。
いずれ、どこかのタイミングで攻略をするメンバーは減っていってしまう。今はおおよそ1000人ものプレイヤーが命懸けの攻略をして界を進んでいるが、界攻略で死んでしまったプレイヤーも少なくない。恐らく全体でも3万人程死んでしまっている。
それもまだ181界の時点でだ。
この調子でいけば、恐らく界の半分を攻略する前に、攻略出来る者が消えて詰んでしまう。
そうならない為に、1人でも死なない対策を取って攻略を行っているのだ。
しかし、実はこれ以上に悪い情報がある。
全プレイヤーの数だ。3000万数の売り上げ、約1500万人のプレイヤー数。それが嘘ではないか?と囁かれる程に人の数が合わないのだ。
そこで出された結論が、サーバーが複数ある事。
例えると、私達が捕らえられているこの牢屋の他にも別に牢屋が存在していて、プレイヤー数を一定数に分けて捕らえているのではという結論。
そして、これは陰謀論なのだが、何処のサーバーが早くクリア出来るのか競わせる悪趣味な事をさせられているのではと言われている。まぁこれはあくまで噂なので気にしなくて良い。
話を戻すが、問題は人数。詳しい数は分からないが、恐らく500万人程しかこの世界にいないとされており、その中で0.02%の人間しか戦力になってないのだ。
1人も欠かすことは出来ない。だからこそリスクに成り得るコノル達の参加をハヤテは反対したのだ。
そんな重要な事を考え無しに決める一虎はやはりどこか抜けていると言わざるえない。
「……」
「……ぅ」
一虎とハヤテの間に沈黙が広がる。
コノルはその様子をあたふたとしながら、止めるべきか迷っていた。
ハヤテは一虎の襟から手を外して冷静になる。
「はぁ……今回は草属性のフェンリルタイプ。攻撃傾向は74界の無属性フェンリルと同じで、体力を半分切ると攻撃傾向が増える。それが74界との違いになっている。素早く動いて戦う為、罠系統のスキルと罠アイテムが効率的。逆に遠距離系の役職や遠距離攻撃は動きが素早すぎて当たらない。これが今ある情報だ」
ハヤテはコノル達に向かって、界ボスの事を話す。
「そ、それってつまり……」
「ギルド同士は顔馴染みが多い。部外者や今まで参加していない者が今回参加していたらすぐバレる。俺から口添えして参加出来るように取り持とう」
「は、ハヤテ先輩ー!!」
ハヤテの言葉を聞いて一虎は黒猫を背中に背負ったままハヤテにダイブする。
ドカッとハヤテを巻き込み、背負っている黒猫と共に三人は地面に重ねるように倒れる。
「ぐお!?何をするバ一虎!!」
「いやー持つべき者は友達だわーありがとうハヤっちゃん!!」
「変なアダ名を付けるな!そもそも参加が上手く行く保証はない!俺はただ、少しでも俺達以外の人間に、今の内に界のナンバーが低い間で界ボスの経験をさせておいた方がいいと思っただけだ。そこだけは勘違いするな」
心変わりをした理由が完全にツンデレである。だが正論であり、未来を考えるその言葉にはハヤテなりの熱意が感じ取れた。
「ハヤテさん……」
「ハヤっちゃん……ツンデレェー!」
「……どこじゃここ?」
その言葉を聞いてコノルは感動し、一虎はハヤテの上で重なりながらIKK○みたいな言葉遣いでハヤテをからかい、黒猫は目を覚ます。
「あ、おはよう猫さん」
コノルは一虎の背中で目を開けた黒猫に気が付く。
「ぬ?コノルなのじゃ。おはようなのじゃ」ムクッ
「いでででで!?黒猫ちゃん!踏んでる!俺踏んでる!」
「おい!そろそろ退け!いつまで乗っかってる気だ!あと何で貴様は下に人がいるのに立ち上がる!お、重いいいい!」
黒猫は目覚めると起き上がり一虎の背中の上に立ち、ハヤテはそのせいで重さを諸に感じてキレていた。
「ちょ猫さん!?そこに立たないで降りなさい!!」
コノルは急いで猫の両脇を持ち上げて降ろす。
「ぜぇ……ぜぇ……ぜぇ……」
黒猫が退くと、一虎はハヤテの上から転がって地面の上に大になりながら、叫んで乱れた呼吸を整える。
「エグいな」
一虎と一緒になって地面に大の字で寝転びながら、黒猫の非常識で自由奔放な性格と無茶苦茶な行動にハヤテはポツリと呟いた。
その後、またコノルが何度も頭を下げて謝る羽目に。
2人は快く許してくれたが。
そして一虎がフレンド登録しようと言って一虎とハヤテのフレンド登録を行い、いつでも一虎と連絡出来るようにすると、コノルと黒猫の2人は一虎に紹介された宿で泊まりそこで一夜を過ごした。
補足だが、この世界での連絡はフレンド登録をした人とギルメン同士でしか出来ない。ついでにフレンド登録はお互いに同意がないと登録出来ない。
その機能の事を、使うのが久し振り過ぎてすっかり忘れてたコノルと黒猫の2人は、自分が何人フレンド登録してたのか気になり、宿屋で寝る直前に確認してみると、2人共、今回登録した一虎とハヤテと、コノル黒猫の互いを抜いても1人だけしかフレンド登録してなかった。
それを確認して色々察すると、2人は不貞腐れた様に眠りについた。