その35 黒猫の雑魚パラメーター
コノル、黒猫、一虎、ハヤテの4人はとある飲食店で食事をしていた。
店は広々としており、全体的にバーのような印象の店内で、隅に置かれた四角いテーブルを囲んで4人はその上に並べられた料理に舌鼓を打つ。
「おいしー!いやー!悪いですね!奢り!だなんて!」
コノルはご機嫌そうにジョッキ一杯のオレンジジュースを掲げて『奢り』の部分を強調しながら食事を楽しんでいた。
「いいよいいよ!遠慮せずどんどん食べて食べて!」
一虎は笑みを浮かべながら身振り手振りでコノルに食事を促す。
いやはや……機嫌が戻って良かったわ……
そんな一虎の笑みには微かに頬を引き攣っている様子が。
その原因は先程の一件でコノルに食らわされたアッパーのせいだ。女の子に下から顎にアッパーを食らわされたとあればダメージは無くとも、精神的ダメージは計り知れない。
一虎は自分の心のHPを回復させるためにと、コノルと黒猫を食事に招待して許して貰おうとしていた。あわよくば更に仲良くなろうとも。
「……俺の分も奢りか?」
「お前は自腹を切れ」
一虎の隣にはハヤテが座っており、コノルの言葉に便乗して奢って貰おうとするが、一虎は変わらぬ声音でお前は関係ねぇとばかりに突き返す。
「モグモグ見ず知らずモグモグじゃなモグモグじゃとモグモグ笑うのじゃモグモグ」
そんなハヤテの対面には黒猫が座っており、目の前で目に付いた食べ物をフォークで刺して手当たり次第に口に放り込んでいた。
「猫さん。何言ってるか分かんないから、喋るか食べるか黙るかして」
その横にいるコノルは特に見向きもせず黒猫にいつもの三択を選ばせる。
「…………」
「え?食べずに黙るの?」
一虎は黙ってしまう黒猫に、なんで?と疑問を抱く。
黙るのか…………
一方ハヤテは喋るのも食べるのも放棄してただただ黙る選択をする黒猫に奇異の目を向ける。
「いつもの事です。お気になさらず。猫さんも毎回黙らないで、食べてていいの。冗談だから」
「モグモグモグモグモグモグ」のじゃぁ~
コノルの許可を得て再び黒猫は口一杯に肉の塊を頬張りながら幸せそうな顔で恍惚感に浸り出す。
「ははははは!相変わらず面白れーコンビだな!まぁ久々の再会だし、改めて!久しぶり!コノルちゃんに黒猫ちゃん!」
再会があれだったので、一虎は再会の挨拶をやり直す。
「はい。お久しぶりです一虎さん。それからハヤテさん、自己紹介が遅れました。私はコノルと言います。で、こちらが黒猫さんです」
コノルは良い機会と思い、食事の手を止めて自分の胸に手を添えて自己紹介を行い、今度は黒猫の肩に手を置いて黒猫の紹介も行う。
「のじゃ」
黒猫はリスの様に頬っぺたを膨らませ、軽く手を上げて挨拶する。
「仕草も名前も動物みたいな奴だな。俺はハヤテ。巷では『疾風のハヤテ』と呼ばれている。以後よろしく」
ハヤテは黒猫を珍妙な動物を見るかの様な視線を向けた後、コノルと握手する。コノルは満更でもない顔になりながらハヤテの握手に答える。
そんな光景が気に入らないのか、一虎が口を開く。
「聞いてくれよコノルちゃん。こいつ、疾風のハヤテとか言ってるけど、今朝PvPで女の子に負けてやんの。笑えるっしょ?ぷぷー」
一虎はハヤテの頭をくしゃくしゃと弄りながら、敗北の事をネタにして揶揄う。
実はハヤテ敗北の噂を聞いた一虎はハヤテを揶揄う為だけにここに来たのは内緒である。
「やめろバカ。お前は見てなかっただろうが、俺の相手は間違いなくライトと同じ位強かった。慢心してた俺が負けて当然だ。それに負けた事は恥ではない。目標が増えたと捉えて次へと進む糧にするもの。他人の失敗をバカにしていたら足元を掬われるぞ」
ハヤテは自分の中にある信念を語り、一虎に警告する。
「へーへー」
あーつまらない。そんな感じを出して適当に相槌を打つ一虎。
一方、そんな男気溢れる考え方にコノルは感銘を受けて頬を染めてハヤテを見つめる。
か、カッコいいいい!流石疾風のハヤテさん!凡人には真似できない生き様ね。惚れる人も多いんだろうなぁ……
「格好いいのじゃ。わたしゃも見習うのじゃ。モグモグ」
コノルの内心ではハヤテの評価が爆上がりな中、黒猫は未だに口一杯に何かを頬張っていた。
同意でも見習うでもなんでもいいから喋るならそろそろ飲み込めよと、そんな小言が聞こえてきそうだ。
「猫さんは敗北しかしてないでしょ。糧にする前に勝ち星を上げる様に頑張らなきゃ」
「まだレベル低いの黒猫ちゃん?」
敗北ばかりと聞いて、一虎はふと黒猫のレベルが気になって聞いてくる。
「のじゃ」
黒猫は更に口の中に食べ物を放り込みながら、手を翳してテーブルの中央に自身のステータスを表示する。
―――
プレイヤー名【黒猫】Lv5
役職1【剣士Lv1】役職2【無し】
HP 750
SP 5
AT 12
DF 6
MG 0
AG 48
LC 1
役職1装備スキル
攻撃スキル 無し
魔法 無し
―――
……なんだこれ?
ハヤテは目の前に出されてる物がなんなのか理解出来ていない。あまりにも低過ぎる為、お店の値段表か何かだと一瞬思ってしまう。
「え、何にも変わってないじゃん!レベル5って初心者じゃん!良く今まで生きてこれたな!逆にすげーよ!しかも時折ノイズみたいなの走るし見辛いんだけど、こんな事あるのか!色んな意味でレアだな黒猫ちゃんは!因みにコノルちゃんは?」
黒猫のステータスに一虎は驚きつつも、素直に褒めて、今度はコノルのステータスを聞いてくる。
「……ま、まぁ、そこそこですよ……そこそこ……」
―――
プレイヤー名【コノル】Lv29
役職1【神官の使いLv6】役職2【盗賊Lv3】
HP 5200
SP 560
AT 320
DF 120
MG 220
AG 50
LC 110
役職1装備スキル
攻撃スキル 【二連打撃】【回転打】
魔法 【ヒーリングサークル】【ファイアレイン】
役職2装備スキル
攻撃スキル【煙切り】【治癒功】【縦切り】【横切り】
魔法 無し
―――
恥ずかしそうに赤面しながら自分のステータスを見せる。
「高いじゃないか」
ハヤテはそんなに気にする程のステータスじゃないと感心する。
「え?マジたけぇじゃん。流石コノルちゃん」
一虎も絶讚するが、別に言う程高くはない。
黒猫が低すぎるため、相乗効果で高いように見えているだけだった。
「黒猫ちゃんは頑張らないとな。というかボーナスポイント全部アジリティーに使うのはどうなんだ?」
「ぬはは。意味分からん事言っとるのじゃ。誰か解説お願いなのじゃモグモグ」
何にも理解していないバカは、食べ物を食べながら一虎の言っている事の解説を求める。
無論、常識過ぎる為誰も答えない。
まぁレベルが1上がった時に3ポイントだけ好きな能力値を上げられる事はヘルプやチュートリアルやレベルアップ時に分かるから、それを知らない人は普通いない。
黒猫はそれすら知らない位バカなのである。バカに関しては天井知らず。それが黒猫。
そんなバカは置いといて、黒猫の代わりにコノルがアジリティーに振る理由を答える。
「あ、それは私の指示なんです。なるべく素早さを上げて敵から逃げられる様にって。装備も素早さとHPを上げるのしか付けてません」
「なのに、支援役職で素早さが遅いはずのコノルちゃんに及ばないって、ステータスで笑かしにきてるじゃん、ダッヒャッヒャッヒャ!」
声を上げて笑う一虎。
そんな一虎にハヤテが横腹を殴りつける。
ドンッ
「いっって!?何すんだよーハヤテ!」
「お前はいつから人を笑えるくらい強くなったんだ?」
「いいじゃんよー。現に超面白いし」
ハヤテはギロリと一虎を睨み付ける。
「うう……ごめんって。悪い黒猫ちゃん。悪気はねぇんだ許してくれ」
ハヤテの無言の圧力に諭され、一虎は両手を合わせて黒猫に向かって謝る。
「あー大丈夫ですよ。本人バカにされてるって気が付いてないので」
コノルが両手で横にいる黒猫に指を差す。
「???なんじゃあ?ご飯かぁ?」
「今食べてるでしょおばあちゃん」
「誰がおばあちゃんじゃ!ぬん!」
怒りながら骨付き肉を貪り食う。
「……な?」
黒猫の様子を見て、やっぱり問題がないと分かるや否や一虎はハヤテに顔を向けて同意を求めにくる。
「『な?』じゃないが?お前は色々気を遣える癖にいつも何か抜けてるな」
「そんな高く評価してくれてたのか!流石は心のともー!」
一虎の悪い所を指摘するが、一虎は悪乗りをしてハヤテに抱き付いてくる。
「そういう所だ。暑苦しいから離せバ一虎」
ハヤテは一虎の頭を自分の身体から押し退ける。
役職はメインとサブで2つ付けられ、1つの役職につきセット出来る攻撃スキルと魔法は合わせて4つまで
良くあるスマホゲームみたいな仕様だと思って貰えられば分かりやすいかな?