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仮想世界は楽しむ所なのじゃ  作者: 灰色野良猫
チュートリアル
32/231

その32 万事休すか

「待たぬかああ!!」シュバッ!


 シノ影はコノルと黒猫の前に先回りして立ち塞がると、周りの人間もコノル達を囲む様に退路を塞ぐ。


 くっ、流石【赤壁旅団】のサブリーダー……速さは伊達じゃないわね……逃げられないか。


 コノルは歯を噛み締めると、逃げられないと悟り黒猫の手を離す。


「そんな金額、個人で弁償出来る訳ないですよ」


「ご飯かぁ〜?」ぐぅー


「……ちょっと猫さん?今はやめて?場の流れ位は察して?」


 呑気にお腹を擦りながら空気を読まずにコノルにご飯の所在を聞いてくる黒猫。お腹を鳴らして呑気なものだ。


「うむ。分かったのじゃ。ご飯はまだなのじゃな」


黒猫はコノルの様子からご飯にはありつけないのだと悟るが、その顔は少しだけ残念そうだった。


「ご飯は終わったらね」


 終わっても今後ご飯にありつけなくなる可能性はあるけど。


さらりと怖い予感が頭を過るが、敢えて口には出さない。黒猫が癇癪を起こすかもしれないからだ。


「うむ……ぐー……」


 威力の無い時限爆弾みたいな質の黒猫はコノルに諭されると、その場に座り込んで座ったまま寝始める。少しでも空腹を紛らわせたいが為の奇行である。


 まさかの二度寝……ほんと自由でいいわね猫さんは……


 そんな自由奔放な黒猫を放置して、コノルは2000万ゴルドの問題について考える。


払える訳ない……なら代案か、別の言い逃れを……


「…………」


 ……何も思いつかないいいい!!


心の中でパニックを起こすコノル。表情には出さないがかなり焦っていた。


「弁償は必ずしてもらうぞ。もし断るようなら、複数人の証言者がお前達の行いをシステムに報告する。そうなれば赤表示は免れまい。ふふふ……ふはーっはっはっは!!」


 高らかに笑うシノ影。まるでしてやったりとした顔が何故かムカつく。


だが何も言い返せない。



 万事休す。



「あっれー?コノルちゃんに黒猫ちゃんじゃん?何何?これどういう状況?」


 諦め掛けたその時、シノ影の後ろから一虎が現れる。


 一虎はシノ影とその部下に囲まれ相対してるコノルと、その横で座りながら鼾をかいて寝ている黒猫を見て、頭にハテナマークを浮かべる。


 何が起きたらこうなるの?と思いながら一虎は興味本位で近付いてくる。


「……貴様は、【希望の星】の『盗賊屋一虎』か。何の用だ?」


「冷たいねー。何の用だは無いっしょ?【赤壁旅団】の『規律のシノ影』殿。その子らは俺の友達なんだ。ちょいと困ってそうなんで俺にも話を聞かせてくれや?」


一虎はシノ影に口元をニヤケさせながらズイッと顔を近付ける。


「貴様には関係無い。引っ込むがいい」

 

 するとシノ影の顔に影が付く。


 睨み合う両者に不穏な空気が辺りを包む。


「……おい、何を道草を食ってる一虎」


 するとまた誰か近付いてくる。


「貴様は『疾風のハヤテ』……まさかこんな所に【希望の星】のメンバーが2人も来るとは……攻略は諦めたのですかな?」


 シノ影は微笑を浮かべてハヤテの方を見る。


 一虎はハヤテの元に駆け寄ると、ハヤテの肩に腕を回してシノ影の方を向く。


「あんや、順調過ぎるからここらで休憩しに来たんだ。なっ?息抜きも必要だろ?どっかの誰かさん達は手伝いに来ねーしなー。ダヒャヒャ」


「嫌味か。子供じみた事を。我々は手伝いに行かないのではなく、必要がないから行かないのだ」


「……必要ないか。なら貴様らは永遠にゲームの中を彷徨いたいのか?望み通りにしてもいいぞ」


 ハヤテはシノ影を睨み付けながら、静かに腰の短剣を抜く。


「ほんと、他人任せにするとは【赤壁旅団】副リーダーも偉くなったもんだな。じゃあ俺らも他人任せにするか?嘘嘘マジになんなよハヤテ〜うりうり〜」


 一虎はハヤテの脇腹に拳を押し付けでグリグリとする。


「はぁ、やめろバ一虎」


 ハヤテは呆れた声でそう言うと短剣を仕舞う。


「ちょっとちょっと、最近マーチちゃんが言ったバ一虎って定着しつつあるの気のせい?」


「気の所為だ。バ一虎」


「おうおうおう、ぜっってぇ定着させねーかんな?」


 ハヤテを睨む一虎。


 定着させないと言うが、一虎の知らない所ですでに【希望の星】では皆が使っている事を一虎はまだ知らない。


 ハヤテは既に遅いと思いながら口に出さず、シノ影の前にくる。


「illegalはいないのか?お前じゃ話にならない」


「それはこちらの方だ。ハヤテ君。噂によると最近無名のプレイヤーに負けたそうじゃないか?鍛練を怠り負けるような腑抜けに何かを話す用も、相手にする暇もないのだが?」


「なんだと……」ガシッ


 ハヤテはシノ影の襟を掴む。


「どちらさんも血の気多いんだから……話を聞きたいって言ってるだけっしょ?聞かせてくれよ。さぁ俺の友達が何をし……た?あれ?2人は?」


「んん!?」


 一虎がシノ影の後ろを指差すが、そこにコノルと黒猫は居らず、シノ影も後ろを振り向いて唖然とする。


 に、逃げられた!?


 ハヤテが介入した時点でコノルと黒猫はどさくさに紛れて走って逃げて行ってたのだ。


「ぶっ……ダッヒャッヒャッヒャッヒャッヒャ!!ハヤテの負けイベに続いてこれ!!流石コノルちゃんに黒猫ちゃん!!いつも通り予想の斜め上だわ!!ダヒャヒャヒャヒャ!!」


 一虎の爆笑する笑い声が白い港に木霊した。

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