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仮想世界は楽しむ所なのじゃ  作者: 灰色野良猫
チュートリアル
29/231

その29 さぁ言い訳の時間よ

 

 ……ムクッ


 長いこと眠っていたからなのか、身体中気怠い感覚に見舞われながら身体を起こす。


 気がつけば、そこは港。


 白い地面の上で周りを見渡せば、デビルクラーケンの討伐隊が並べて寝かされていたり、起きて話し合っている光景が目に映る。


 …………あ、助かったんだ。


 そこで漸くコノルは自分が海に溺れて助かった事に気が付く。


 起き上がり黒猫を探す。


 猫さん何処だろう?……死んで……ない……よね?


 周りを見渡すが黒猫の姿が何処にも見当たらない。


 頭に過ぎる一抹の不安。昔のトラウマがコノルの目に涙を浮かばせる。



『コノル……いつまでも……笑顔で……いて……ね』



 親友の最後の言葉が鳴り響く。


 同時にコノルは走り出す。黒猫を探して。


 しかし見付からない。周りにいない。コノルは港で黒猫を必死に探す。


 どこかの船の中にいるのか?海の藻屑となったのか?消滅した後なのか?


 分からない。分かりたくない。



 またあの頃に……また一人……こんな世界に取り残される……そんなの……もう……嫌だ!!



 焦燥感が拭えない。時間が経つ度に不安だけが高まっていく。



 必死に辺りを見回す。


 走りながら見回す。


 足を止める事なくコノルは見回す。



 しかし、どれだけ見回そうと、目に映るのは黒猫ではなく、倒れている人達や目覚めて話し合っている人達


 そして謎の人集りだけ。



 ……ん?人集り?



 コノルは人集りに気が付くとそこに駆け寄る。


 すると声が聞こえる。




「ブチのめしてやるのじゃ!!」


「いい度胸だ!格の違いを見せてやろう愚か者め!」


「おやめ下さいシノ影様!人が見ております!こんなポンコツを相手にして良からぬ噂を流されでもしたら……」


「このバカにここまでバカにされて引き下がるとそれこそ体裁が悪くなるであろうが!ここでこやつを痛め付けなければ【赤壁旅団】の名が泣く!こやつは成功する筈の討伐作戦をぶち壊しにした挙句!我々の船を沈ませ!あろう事か我々のせいだと言っておるのだ!やはり切り捨てなければ気が済まぬ!」


「なぁに言ってるのじゃあ!!デビルクラーケンなんかいなかったではないか!いないものをどう討伐するのじゃバーカ!お主はバ〜カな〜の〜じゃ〜!アッカンベ〜!」


「……シノ影様。こいつの成敗、私がしても?」


「ならぬ!私がやる!磔獄門だ!絶対に許さん!」


「……何してんのあんたら?」


 子供以下の口喧嘩を繰り広げる黒猫とシノ影と依頼主の元に、人混みを掻き分けて近付き、心底呆れた声でコノルは声を掛ける。


「……ふん、漸く話の出来る者が起きたようだな」


「コノリュウウウウウ!!起きたのじゃな!!これ!これ盗ん……拾ったパンなのじゃ!食べるのじゃ!食べて起きるのじゃ!」


 何言ってるの?というかまた盗んだなコイツ……

 百歩譲って落ちてたとして、そんな物を気絶してる人に食べさせようとするな。


 コノルは頭のおかしい事を言いながら近寄ってくる黒猫に軽蔑の目を向けつつ、今回の依頼主の方に顔を向ける。


「えー。コノルさんでしたっけ?そのポンコツの保護者ですね」


「言い方。保護者じゃないし。付き人よ。貴方から静かな怒りを感じるんだけど……それより何の騒ぎですかこれは?」


「何の騒ぎも何も、君達のせいで討伐が失敗したから落とし前を付けてもらう話をそこのゴミに」


「誰がゴミじゃ!?やはりブチのめしてやるのじゃ!!」


 黒猫は腕を捲って依頼主に殴り掛かろうとする。


「やめなさい猫さん。落とし前って……別に猫さんはわざと沈めようと思って何かした訳じゃないですからね。ね?猫さん」


「沈めようと思ってたのじゃ」


「はい黙ってて。とにかく事故ですよ事故」


 コノルは直ぐ様黒猫の口を手で塞ぐ。


 ここで弁解して、少しでも罪を軽くしないと。


 この件の関係者が集まっているのだ。良い機会だとばかりにコノルはここで話を歪曲して伝えようと目論む。


 すると周りにいる人集りの中から一人出てくる。


「嘘ですよ!そこの猫野郎は大砲の弾で故意に穴を大きくしてました!この目で確かに見ました!しかも『負け戦に用はないのじゃ』とも言ってました!ワザとです!」


 目撃者はこの人かー!!くっー!!なんて間の悪い!!


 罪を軽くする思惑が即失敗して、コノルは顔を背けながら爪を噛む仕草をする。


 先に目撃者の確認をして、そいつを口封じしてから嘘付けばよかったとか、場所を変えて話せば良かったとか、この一瞬で色々後悔するが、もう後の祭り……



 とでも言うと思ったか!!



「違いますー。猫さんは『負け戦に勝利はない』って言ってたんですー。聞き間違いですね。だよね猫さん?」


「違うのじゃ」


「はい黙ってて。ではこれで失礼しますね」


 コノルは黒猫を連れてそそくさとこの場を立ち去ろうとする。


 分が悪い。黒猫が機転を利かせて話を合わせられないので仲間ですら敵状態。コノルの話術が活かせない。なんなら墓穴を掘りかねない。


 やはりここは作戦を練って出直さないと。この急場さえ凌げば、後は言い訳なり、逃げるなり、なんなり、出来るなり。


 コノルは真っ直ぐ人集りの隙間に向かって歩く。


「意味分かんねーよ!?どこ行く気だ!逃がさねーぞ!」ガシッ!


 しかし上手く誤魔化せる訳もなく、撤退失敗。目撃者に腕を掴まれ逃げられなくなる。


 oh...


「待てよ……お前……そいつの肩を持つって事は……最初から2人で船を沈めようとしてたって事か?」


 んんんん!?ヤバい!勝手に墓穴が掘られてる!


 目撃者の勘繰りにコノルの額から汗が溢れ出る。


「ち、ちっがうわっ!そそそそんな訳あるかあ!」


 しまった。焦り過ぎて、逆に怪しくなってしまった。


「まさか貴様も……いや分かっていた事だが、やはりグルだったか。いいだろう。まとめて切り捨ててくれよう」カシャー…


 シノ影はゆっくりと腰に差した刀を抜く。


「……」


 コノルは観念したかの様に俯いて静かになる。


「……よ」


「ん?何だって?」


「猫さんとPvPで勝負よ!猫さんが勝てば私達の今までの蛮行を許して下さい!」


 コノルは最後の手段に出る。


「何!?」

「のじゃ!?」

「そんな話が通るか!いきなり何言い出してんだ!」

「何で加害者の癖にいつの間にか話の所有権握ってるのこの子?」


 シノ影も依頼主も目撃者も周りの人も含めて大ブーイング。

 黒猫に至っては驚愕しながらコノルの服を意味もなく、のじゃのじゃ言いながら引っ張ってくる。


 大丈夫大丈夫。計画通り。


 コノルは黒猫にウィンクする。


 が、伝わらない。服を引っ張り続けるのを止めない黒猫。


「のじゃ!?のじゃ!?」グイグイ


「はいはい。後でね」


 そんな黒猫を手で押し退けてコノルは話を続ける。


「まぁ聞いて下さい。いくら私が弁解した所で、貴方達は話を聞いて下さらないでしょう。しかしよーく考えてみて?そもそも沈める為に船に乗り込んだって、最初は、あ!な!た!に、誘われたから私達はたまたま船に乗ったんですよ?」


 コノルは依頼主に向かってビシッと指を差す。


「そして仮に誘われなくて船に乗ったとしても、今から沈めようとしている船に乗り込みますかー?私なら、そんな事する位なら爆弾を仕掛けて遠くに避難してから沈めますけどねー」


「まぁ、ごもっとも。いや、予めこうなる場合に備えて別に逃げる手段を用意してたんじゃないか?」


「あったら溺れて気絶なんかしとらんわ。アホか」


「なんか急に口悪くなったんだけどこの子?怖い」


「そこで、ですね。貴方達はこんな事実を言われても不満は解消されないでしょう?だから平和的にPvPで片を付けては?と提案しているのですよ。私は」


「あんたはそうだとしても、そこのクソ猫はそうじゃないかもしれん。現にあんたより先に目覚めているしな」


「誰じゃクソ猫って?わたしゃか?わたしゃの事か?」


「水じゃなくて拾ったパンを気絶してる奴に食わせようとしてるバカにそんな知恵があると思ってんの?もう少し脳ミソ働かせろよオッサン」


「お、オッサン……」シュン……


「何この子?段々口の悪さがエスカレートしているぞ」


 黒猫はコノルに罵倒されて気落ちしている男性の肩を叩く。


「ぬはは。お主バカじゃな〜」


「うぅ……うわーん!!」ダッ!


 コノルにメンタルを傷付けられ、更にこの場で一番のバカにバカにされる屈辱を受けた男は泣きながら走り去っていく。


 ふん。メンタル雑魚が。


 コノルは走り去っていく目撃者の男の背中を薄目で睨みながら、小さく鼻で笑った。


「……なんなのだ?」


 シノ影は刀を鞘に戻して、そう呟いた。

少しでもクスッとしてもらえたら幸いです

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