その27 沈没の危機
そして場面は甲板へ。
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「くっ!あやつめ!正体を現したか!噂の真意を確かめる為に同行を許したがここまでするとは!誰か手が空いている者は直ぐに船底に向かえ!船底を補強し、黒猫なる名前のプレイヤーを見つけ次第拘束せよ!私が許可する!」
「し、しかし!今誰か抜けますと前線が!」
「私を誰だと思っている!その程度カバーしよう!いいから行くのだ!でないと船が沈んでみな死ぬぞ!」
「ぬはは。お主死ぬのかの?お主は性格が悪いからの〜。天罰じゃな。ぬははー」
!?
黒猫が赤い筒を幾つも抱きながら甲板に現れ、周りの船員が一斉に黒猫の方をみる。
「おのれ!よくものうのうと私の前に現れる事が出来たものだ!成敗してくれる!」カチャ!
シノ影は刀を黒猫の方へと構える。
しかしシノ影と黒猫間に触手が割って入るかの様に現れ、シノ影に攻撃を仕掛けてくる。
「くっ!邪魔な触手め!」ズバッ!
シノ影は触手に阻まれ黒猫に近付けない。それは周りの人も同じだった
黒猫はそれを見ながら安閑とした様子で赤い筒を床に置くと、筒の中から赤い光の弾が飛び出し上空へと打ち上がる。
それが上空のある位置までくると、花火の様に赤い閃光を上げながら爆発する。
「綺麗な花火なのじゃ」
呆けた顔でそれを眺める黒猫。
黒猫は自分が上げた物が何なのか微塵も理解してなかった。
救難信号のアイテム?奴め!まさか仲間を呼んでこの船から脱出するつもりでいるのか!なんとちょこざいな!
それを見たシノ影は、黒猫が仲間を呼び寄せていると勘違いする。
「【千一閃】!貴様だけは逃がしはしない!」ダッ!
シノ影は周りの触手を殲滅すると黒猫に向かって一直線に走ってくる。
「のじゃ?のじゃあああ!?」
しかし、シノ影が黒猫を殺る前に、黒猫は触手に絡みとられて再び空高く持ち上げられる。
「…………ふふ、ふはーはっはっは!哀れ無様なり黒猫!滑稽滑稽!そのまま殺られるがいい!ふはははははははは!」
吊り上げられた黒猫を見てシノ影は心の底から黒猫の事を嘲笑う。
「お主ほんっとに腹立つの!?その歪んだ性格叩き直してやるじゃ!ぶちのめしてやる!ぬおおおおおお!!お主は放すのじゃあああああ!!」ジタバタ
黒猫は腰に纏わり付く触手を必死に引き剥がそうと両手で藻掻く。
そんな最中、船が大きく傾き始める。
ガタン!ザバーン!
「くっ!次から次へと!今度は何事だ!?」
シノ影は周りを確認する。
するとそのタイミングで大砲を打っていたメンバーが船の中から甲板へと次々に飛び出してくる。
「もうダメだー!」
「シノ影様!船が!船が沈みます!」
「猫さーん?どこー?」
「船底から水が溢れて、もう我々ではもうどうする事も!」
その中にはコノルも混ざっていた。
「ぬはは!コノルなのじゃ!助けてなのじゃあああ!」
黒猫はコノルを見付けると嬉しそうにジタバタする。
コノルは黒猫の声が聞こえると辺りを見回し始める。
「上なのじゃ!上なのじゃ!!……上じゃと言っておるのじゃ!?何処見てるのじゃコノルー!?」
コノルはあまりに見当たらないので近くの樽を開けたりして探し始める。どうやら雑音や戦闘音が大き過ぎて黒猫の言葉が良く聞こえてないようだ。
声はするが何処で何を言っているか聞き取れない。
「どこー!猫さああああん!今隠れんぼしても仕方ないから早く!早く出てきてー!」
「隠れとらんのじゃ!?樽なんかにおらぬ!!上なのじゃあああ!!ハッ!いい事思い付いたのじゃ!」
黒猫はモゾモゾしながら、ポケットから飴玉を取り出すとコノルに向かって投げ付ける。
「のじゃ!」シュッ
コンっ
「あた!?」
コノルは頭に飴玉が当たると気の抜けた声を出して、当たった箇所を擦りながら、足下に落ちてある飴玉を発見する。
「何なのよ、もー…………ん?これは猫さんの?……まさか!海に連れ込まれた!?そんな……それじゃあ……今のは……猫さんの断末魔……」
飴玉作戦のおかげで、コノルは黒猫が海へと連れ込まれて死んだと思い、脱力して膝を付く。
……あー、作戦失敗じゃ。あの様子じゃと、わたしゃはコノルの中で死んだようじゃな。ぬはは。グキッ!あっ……
「そんな……いやよ……置いていかないで……猫さん……猫さああああああん!!」
コノルは飴玉を手で包み込み、この混沌とした甲板の中心で黒猫の名を叫ぶ。
ドサッ……
すると、飴玉を大事そうに抱えて叫ぶコノルの前にあるものが落ちてくる。
それは
HPが0になった状態の黒猫だった。
コノルがモタモタしている内に黒猫は触手に体力を削られて死んでしまい、それが猟奇殺人の犠牲者みたいな感じで落ちてきた。
コノルはそれを見て悲鳴を上げる。
「ぎゃあああああああああ!?……って、あれ!?ね、猫さん!?生きてた!いや死んでるけど!良かったああああ!【蘇生神札】!甦れ猫さああん!」
一連の流れ。黒猫は直ぐに復活した。
「のじゃあ……またあの世なのじゃ……」
「現世よ!無事で良かったああああ……」
コノルは泣きながら黒猫を抱き締める。
そしてコノルは涙を拭うと、黒猫の肩を掴みながら現状を説明する。
「情けない所見せてごめんね……落ち着いて聞いて欲しいんだけどね、取り敢えず、このままじゃ助かっても私達、海で溺れて死んじゃうわ。この船、もう半分沈んでしまってるの」
「のじゃ」
「原因はデビルクラーケンによる船体への攻撃らしいけど、それだけじゃないらしいわ」
「のじゃ」
「どっかのバカが船底でデビルクラーケンの開けた穴を広げたらしいの」
「のじゃ」
「そのバカのせいで私達海の上で皆殺しよ!皆仲良く溺死よ!もうほんと!どんだけバカなのよソイツ!一周まわって尊敬するわ!ね!猫さん!」
「今度こそ褒めてるのじゃな?嬉しいのじゃ」
「………………………………え?」
そのバカの言葉でコノルの思考は停止した。