その26 何してんだてめぇ!
コノルは善戦していた。
入り来る触手を全て外へと殴り飛ばして、一切近寄らせない活躍を見せる。
「てーい……やっ!!」ガン!
シュルシュルシュル……
ダメージを与えるだけで倒せはしないが、触手はコノルの攻撃が当たると外へと引いていき確実に足止めされていた。
「どんなもんよ!」
適当な攻撃で一方向だけから来る触手を殴るだけのモグラ叩きより簡単なお仕事ではあるが、今のコノルにとっては大きな仕事だ。
報酬が支払われるかの瀬戸際なのだから。
依頼人が、この人達だけサボってたから報酬を払いません。と言えば、報酬は支払われない。
ただいるだけの者に払う報酬などないのは、ゲームの中でも同じだった。
というか黒猫が過去にそれをされているのを見ている。その時は黒猫が騒いでその後大乱闘になった。
あんな体験二度とゴメンだ。だからコノルはこんなに必死なのだ。
「よし。猫さんも手伝って。手伝ってるフリでいいから」
コノルは小声で、部屋の隅にいるであろう黒猫に向かって、顔は向けずに手招きする。
しかし、いつまで経っても返事がない。
コノルは黒猫がいる方向を見るが、既にそこに黒猫はいなかった。
……あ、あっれー?どこいったー?
コノルの額から何故だか冷や汗が流れ落ちる。
凄い嫌な予感を感じ取ったからだ。
そしてその予感が的中する事を、この後直ぐに思い知る事となる。
―――――
ここは船底。
この船には5つのエリアがある。
1つは甲板。
もう1つは船長室。
そして船長室と船の先頭の2箇所にあるどちらかの階段を降りて続くのが船員の寝室。
その寝室を超えて階段を下に降りると、今コノルがいる大砲のある部屋。
そしてそして、更に大砲部屋の隅にある小さな階段を降りると船底となっている。
船底は船のバランスを取るためだけにあるので、戦闘に関しては来る事の無い部屋だ。言わば大砲のある部屋で戦っている船員の休憩所や物を置く為の倉庫みたいなもの。
そんな場所だが、ある場合にのみ来る必要があった。
それは、今戦っている特殊な敵との戦闘だ。
特殊な敵、つまりデビルクラーケンなのだが、そのデビルクラーケンは触手で船底に穴を開けて船を沈ませる事をするのだ。
これは、デビルクラーケンとの戦闘を行う場合にのみ時間経過で穴を増やされる仕様で、早い話が制限時間が設けられているのだ。
実はこの情報は誰も知らない。何故ならデビルクラーケンとの戦闘は今回が初めてで、デビルクラーケンの存在自体、確認されたのがつい最近だからだ。
船底には既に小さな穴が3つも開けられており、気がつけば水が足下まで浸っていた。
黒猫はそこである物を探していた。
「どれじゃ?赤い棒……赤い棒……ぬはは!これなのじゃ!」
水が足首まで溜まっている床をザバザバと歩きながら、黒猫は赤い筒を見付けると、それを掲げて喜ぶ。
そして、黒猫は目的を達成すると近くに置いてある大砲の弾を持ち上げる。
「ぬおおお〜……重いのじゃああ〜………」
ヨロヨロと動きながら、黒猫はその弾を勢い良く……
穴が空いた箇所に投げ付けた。
ドカーンと爆発し、穴が更に大きくなると入ってくる水の量が段違いに多くなる。
トバババババ!
「まるで滝なのじゃ」
そんな感想を零しつつ、黒猫は再び大砲の弾を持ち上げる。
すると今の衝撃に気が付いて、船底を確認しに来た船員が黒猫の奇行を目の当たりにする。
「な、な、な、何やってんだてめぇー!?」
信じられないといったような顔をしながら叫んでくる船員に黒猫が気が付くと、気にも止めず問答無用で持ち上げた大砲の弾を再び小さな穴に投げて爆発させる。
ドカーン!
「負け戦に用はないのじゃ」
そして黒猫は船員の方を向いてそう言う。
悪びれもせず、まるで味方を装った悪役みたいな台詞を吐く黒猫の言葉を聞いた瞬間、船員は甲板にいるシノ影の元へと走っていった。