その24 厄介者
船は大きく揺れ動き、戦闘が激しさを増していた。
甲板ではシノ影を筆頭に、戦闘員、タンク要員、バフ&回復要員、遠距離要員で別れて好戦していた。
「せい!【千一閃】!【神楽】!よし!この調子で触手を倒し続けよ!いずれ本体が出る!出たら一気に叩き我々の力を見せ付けよ!始祖様もそれを望んでいられる!それまでこの調子で攻撃の手を緩めず押し続けよ!」
「「「はっ!!」」」
シノ影は攻撃スキルを惜しみなく使い淡々と触手を切り倒していく。そしてそんなシノ影の武勇と鼓舞で甲板の士気は一気に高まる。
このまま行けば、デビルクラーケンを難無く討伐できると、この時甲板にいる誰もが感じていた。
――その一方、船内では――
「放てええ!!」
ドゴーン!
ドン!ドン!ドン!ドン!ドン!
大砲の轟音が鳴り響いていた。
「うるさいのじゃあああああ!!」
黒猫は大砲の音が鳴る度に叫び出す。
「猫さんも大概だわ」
その横でコノルは耳を塞いで様子をみていた。
船がこんなに慌ただしく戦闘を開始しているのに、何故2人は手伝いに来たというのに全く手伝ってないのかと言うと、今大砲で攻撃している人達に2人は邪魔だから部屋の端に行くように言われたからだ。
つまり厄介払い。
何故こうなったのかと言うと、ついさっき黒猫が手伝いに近寄った場所の大砲を、開始一秒で海へと投げ込んだからだ。
いや、投げ込んだと言うの少し語弊がある。詳しく言えば、黒猫が重たい大砲の弾をクラーケンの足に直接投げつけようとして転び、大砲の弾を落として爆発させ、大砲一門を吹き飛ばして海に落とし、船体に大きな風穴を作ったからだ。
大砲を一門無駄にお釈迦にしたら怒るのも当然。邪魔だからと言われるのも納得。攻撃のチャンスを減らす事になったのだから。
しかし今は戦闘中なので、バカに構っている暇はないと、深い言及は後回しにして皆戦闘に集中しているのだ。
そんな大砲を海に落とした元凶の黒猫は、不貞腐れたように指で床をなぞって文字を書いていた。
「のじゃ♪ のじゃ♪ うるさい部屋なのじゃ〜♪ 」
前言撤回。不貞腐れてるどころか、反省すらしてなかった。鼻歌交じりで超ご機嫌そうにしている。
その横にいるコノルは戦闘が激しさを増す中、
私達は何しに来たんだっけ?
と耳を塞ぎながらボーッと虚空を眺めていた。
「放てええ!」
ドゴーン!
ドン!ドン!ドン!ドン!ドン!
「うるさいのじゃあああああ!!」
大砲が撃たれる度に声を張り上げ、誰も耳を貸さない文句を叫ぶ黒猫。
「猫さんも大概だわ」
そんな黒猫に対して壊れたレコードのように、同じツッコミしかしないコノル。
最早やる気は皆無だった。
なるようになれと自暴自棄になりながら、コノルはただただ大砲で触手と交戦する人達を部屋の隅で眺める。
あーあ……これは報酬貰えないパターンだなぁ……完っ全に邪魔者扱いだし……猫さんは……何?牙心?こんな時に何書いてるのよ……あ。
呑気に鼻歌を歌いながら床に文字を書く黒猫に呆れているそんな中、黒猫が大砲を落とした時に出来た船の穴から触手が1本ヌュルリと入ってきている事にコノルは気が付く。
その事にまだ周りの誰も気が付かないのを見て、コノルは立ち上がる。
「…………はっ!?汚名返上のチャンスだ!猫さん!」
黒猫に呼び掛けて、すぐに触手を攻撃しに行こうとするが、
「のじゃ♪ のじゃ♪ コノルもうっさいのじゃー♪」
黒猫はコノルの呼び掛けをスルーして腹立つ歌を歌いながら床を指でなぞり続けていた。
ゴツン!
コノルの拳骨が黒猫の頭に綺麗に決まる。
「な、なじぇ……ガク……」
その場で倒れる黒猫を放置してコノルは片手棍を装備するとすぐ様触手を攻撃しに行く。
「【二連打撃】!」
ドカ!ドカ!と二発攻撃を当てると触手は外へと退避する。
「やった!」
コノルは小さくガッツポーズをすると。
「おお!入ってきてたのか!助かった!ありがとう!」
「やるじゃない貴方!見直したわ!」
「サンキューな」
コノルの活躍を見た周りの人達がコノルに称賛を贈る。
「えへへ……と!まだ来ますよ!この穴は私が見ています!皆さんは大砲に集中して下さい!」
照れてる間もなく、触手はどんどん船体に絡み付いてきていた。
これで約立たずだと言われて報酬を減らされる心配もないはず!
水を得た魚の様に生気を取り戻し好戦を行うコノル。
しかし、この戦況がじわじわと変わりつつある事に、コノルはおろか誰も気が付いていなかった。
そう……じわじわと……