その19 やな光景
ゆっくり頭空っぽにして見ていってね
掲示板の横にいると様々な噂が聞こえてくる。
182界の攻略はスムーズに進んでいるとか、
【ライコ】という無名のプレイヤーが『疾風のハヤテ』に無傷で勝ったとか、
『情報の目レウガル』がレア新情報を20万ゴルドで売っているとか、
『英雄ライト』が182界中ボスを倒したとか、
『鮮血の血死凉』がギルド【美兎ヒーロー】を1人で潰したとか、
ブラックギルド【Re:ペア】がまた動き出してるとか、
ギルド【小鳥の園】とギルド【マラカス万歳】がぶつかったとか、
ギルド【赤壁旅団】のギルド長『太刀使いillegal』がまた別ギルドと提携して規模を拡張したとか、
『掃除屋クレハドール』が仕事を募集中だとか、
まぁ自分達には、まぁ〜たく関係の無い話題で。
2人は暇を持て余して周りの噂を盗み聞いてはいるが、関わる事もない話題ばかりだから退屈で欠伸ばかりをする。
「……レウガルちゃん凄いね。ふわぁ〜……」
「なぁにをしとるのじゃ、あの『だしだし五月蝿い』ウチのサブマスは?……ふぁ〜……」
「私あの人苦手なんだよね。このままあまり関わらないでおこう」
「どうせ、ギルドの招集もないのじゃし、会うこともないのじゃ」
「会いたいと言えば、久々に風ちゃんと雷君に会いたいね」
「あやつら自由奔放じゃからの〜まぁギルドルームにいたら会えるのじゃ。一応わたしゃらの副監なのじゃし。行くかの?」
「行かない。ギルドルーム辿り着く前に私達が死んじゃうよ。それにしてもなんで私達のギルドって、サブマス、副監、副団長って呼び方分けてるのかな?」
「あ、それはギルド長が言ってたのじゃ。ナンバー2達が呼び方で対立したからなのじゃと」
「へぇ。ギルド長に会った事あるんだ猫さん。私まだ1回も見てないや。どんな人?」
「分からぬのじゃ。顔と身体をゴツイ鎧で着込んでおったのじゃ。第一印象は暑そうな格好じゃったのじゃ」
「へぇ。というか私達のギルドって不明な点多過ぎない?」
「のじゃ」
一通り雑談したら、掲示板周りに人が集まってきている事に気がつく。
それぞれ周りを見渡したり、何やら装備を弄っていたり、アイテムを取り出して確認したりと、動きから察するに、どうやらコノル達が受けている依頼の関係者だろう。
その数ざっと見て20人弱。
あれ?少ないぞ?取り分が増える?もしくは……
まだ時間まで20分あるとはいえ、集まり具合が悪い。
これは中止も有り得るかもと思っていると、広場に繋がる大通りから団体がやってきた。チッ……
「なんじゃあれ?ピクニックかの」
「あの肩に着けてる腕章は……【赤壁旅団】と【ガーゴイルパラレル】よ。【赤壁旅団】の巨大ギルドと【緑の聖母】の下部組織ね」
「【赤飯ご飯】と【カーコートパラソル】?【緑のおせいぼ】?」
「ぜんっぶ違う!!猫さん耳呪われてるの!?【赤壁旅団】と【ガーゴイルパラレル】!」
コノルが再び教えても黒猫は頭にハテナマークを出しながら首を傾げる。
「……はぁ……まぁいいや。とにかくあのギルドの人達がここに来るって事は、おそらく私達の依頼に関係あるわね。デビルクラーケンは必ずいるって思ってなきゃ集まらないから……依頼失敗の心配はなさそう……かな?」
コノルは顎に手を添えて推理する。
「凄い数じゃの」
数は一気に増えて50人を超えていた。
広場はデビルクラーケンの討伐隊で埋まり、こうなれば広い広場も狭苦しく感じる。
その討伐隊の中の赤い腕章を付けている長いオールバックの髪形をした男が、この場を仕切り始めると、掲示板の前にいる部外者を追い出し始める。
その行動が軋轢を生んだのか、一部の部外者とその長髪の男とが小さな言い争いを始めていた。
そして長髪の男は刀を抜いて部外者に強めの口調で何か言うと、部外者は渋々その場から立ち去っていった。
「やな光景ね」
「あれと一緒にやらねばならぬのじゃな」
「先が思いやられるわ。【赤壁旅団】のギルマスは良い人なのにね」
見物人の様に壁越しに座りながら、その光景を眺めて呑気に寛ぐ2人。
すると長髪の男の横に、自分達を誘ってきた依頼主が現れて集合の号令を掛ける。
コノルと黒猫はそれを合図に他の参加者に混ざりながら集まった。
「えーこちらはかの有名な【赤壁旅団】の副リーダーシノ影さんです。【ガーゴイルパラレル】の協力を仰ぎ、この50人からなるチームを取り纏めて下さります。皆さん拍手の程よろしくお願いします」パチパチパチ
パチパチパチパチパチパチ!!
パチ……パチ……パチ……
周りとのテンションの落差なのか、シノ影の率いるギルドメンバーと【ガーゴイルパラレル】のメンバーは大きな拍手をするが、それ以外の関係ない他のメンバーは乗り気じゃなく、取り敢えず手を叩いとこうって感じの拍手をする。
まぁ様子から察するに、ここにいる【赤壁旅団】のメンバーと【ガーゴイルパラレル】のメンバーはシノ影の取り巻きであまりギルドの関係は無さそうだった。
そして拍手が鳴り止むとシノ影が謎の演説を始める。
「うわぁ……やな光景が止まらない」
「何なのじゃあれは?」
「【赤壁旅団】は知らないけど、その副リーダーシノ影さんは【緑の聖母】と親密な関係で元ギルドメンバーとかなんとか、【緑の聖母】は確か信仰団体とか言われてて、それを祭り上げてるから信者はみーんなあんな感じって聞いたわ」
「意味分からぬが【しんこうだんたい】は聞いた事あるのじゃ。神様を崇めるタイプの何かじゃな?」
「当たり!珍しいわね猫さんが詳しいなんて。今日が私達の命日にならなきゃ良いけど」
「……うむ。今回は褒めてるのじゃな?嬉しいのじゃ」
「センサーはいつも通りぶっ壊れてるのね……当たり当たり。褒めてる褒めてる」パチパチパチ
「ぬはは〜」
にへらぁ〜と顔を崩して喜ぶ黒猫は、コノルのバカにした拍手を真に受けて御機嫌になりポケットに入れているパバナさんからの飴玉をコノルに差し出してくる。
コノルはそれを受け取ると黒猫も飴玉を出して2人は、前で演説しているシノ影を完全に無視して飴玉を舐め始めた。
コノルと黒猫の所属ギルドはまだ不明。
何故なら活動してないから。
そういうギルドってオンラインゲームに稀にあるよねー。