その18 うまい話には裏がある
「ちょっといいかな?」
「……なんじゃあ?」
「……なぁに?……うんん……なんでしょうか?」
涙目になりながら2人は話しかけ来た人物を見る。
そこには、控えめに言って冴えない何処にでもいそうな見た目の男性が立っていた。
男は2人を掲示板から連れ出すと
「君達、自分達に合う依頼がないの?なら、これ良かったら」
そう言って依頼書を差し出してくる。
指名依頼……いや同情依頼?何にせよ、せっかくの依頼紹介。
2人は食い入るように覗き見る。
『【集まり次第】難易度★★★☆☆ 人数を集めて151界にいると噂される裏ボスのデビルクラーケンを発見し退治したいです。151界の掲示板前にいます。報酬 50万ゴルドを集まった人数分山分け』
眉唾物の依頼だったが、そんな事頭にない2人は目を輝かせる。
複数人!50万ゴルドを山分け!この界で!しかも依頼人は目の前!最高の依頼では!
噂の裏ボスがいるかどうかは置いといて、2人にとってはまさに好条件だった。
「受けます!やらせて下さい!」
「50万ゴルド!やるのじゃ!」
2人はその男の手を力強く握りブンブンブンブンと上下に動かしながら握手をする。
「はは……じゃあ取り敢えず受けて貰えるんですね。人数は最低でも50人は集めようと思っています。集まるまで休憩して下さい。13時から動きますので13時までにここに集合して下さい」
「わかりました!」
「了解じゃ!」
そう言って男はまた別の人物に声を掛けて人を集め始める。
「上手くいけば、かなりの報酬が期待できるわね!」
「ぬははは!やったのじゃ!50万ゴルドじゃ!食べ放題じゃ!」
「バカね〜最低50人集めるって言ってたから私達2人で2万ゴルドよ猫さん。ふふ。……うん?……でも良く考えれば……いるかどうか分からない裏ボス討伐……達成出来ない可能性……仮に見つかったとして……最低50人集めるなら更に人がきて……取り分が減る可能性も十分考えられる……これって」
漸くコノルはこの依頼の裏にあるデメリットに気が付き、危惧の念を抱く。
「……もしかして……これはヤバいのでは?」
好条件の裏に潜む落とし穴。
気付いたところでもう遅い。受けてしまったのだから。
コノルは脳内にあるネガティブな思考を一旦振り払う。
「せ、成功するわよ。そ、それにもしかしたら人も少ないかもだし。だ、大丈夫大丈夫」
必死に自分に言い聞かせる。
「ぬふふ……これは報酬ガッポガポじゃな。今日は豪勢なご飯が食べれるのじゃ〜。で、お昼は?」
黒猫はコノルの悩みも露知らず、取らぬ狸の皮算用の様な思考で既にお金を得たかの如く、呑気にお昼ご飯の事を聞いてくる。
「抜く。報酬が手に入るまでは節約よ」
「のっ!?くぬぅ……」
黒猫は予想外といったばかり驚愕の顔を露にし、下唇を噛みながら悔しそうな顔で唸る。
仕方ないって気持ちと納得いかないって気持ちがせめぎ合っていた。
身体をプルプル奮わせる黒猫を少し哀れに感じてると、黒猫はパバナさんからもらった飴玉を食べて空腹を紛らわし始める。
「…………不甲斐なくてごめんね」
「…………飴玉ウマいのじゃ」
2人は集合時間まで掲示板の横でボーッと時間を潰すのであった。