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仮想世界は楽しむ所なのじゃ  作者: 灰色野良猫
チュートリアル
17/231

その17 掲示板

のんびり気楽に見ていって下さいな

 朝、2人はしっかり寝たにも関わらず、目に隈を作りながら目覚める。


「……」


「……のじゃ」


 バターンッ!


 黒猫は再びベッドに寝転ぶと、ベッドから寝袋ごと転げ落ちる。


「……」


「……」グー…


 真横で騒がしく二度寝を始める黒猫に目もくれず、コノルは暫く上半身を起こしてボーッとする。


 …………


 何も考えない時間を数分間堪能すると、コノルは再起動するかの如く動き出す。


 トイレの手洗い場で顔を洗い、服を着替え、メニュー欄を開き、アイテムを整理し、目的をメモに記録する。


 あとは朝ご飯。時間は丁度朝の8時。


「ぐー……んぐっ……ぐー……」


「猫さーん。起きてー」


 コノルは未だに床で2度寝している黒猫の頭をポンポンと叩いて起こす。


「んっ……のじゃぁ?朝かぁ?」


「とっくに朝よ。はい着替えて」パンパン


 コノルは手を叩いて催促する。


 黒猫は渋々起き上がると着替えて外へ出る準備をする。大きな欠伸をしながら。


 そして準備を終えて外に出る時、コノルと黒猫は宿屋の主人にツーンとした態度を取りながら雑に鍵を投げ渡して返す。


 これで昨日の宿屋の主人がしてきた横暴な態度に対して少しは気が晴れた。


 凄い睨まれたが。


 ……もう彼処には泊まれないわね。二度と行かないからいいけど。


 後悔もなく、2人は人通りが少ない道をのんびりと歩く。


 すると黒猫のお腹がなり始める。


「お腹空いたのじゃ」グー……


「そうね。昨日はお昼しか……といか最近まともなご飯はお昼しか食べてない気がする……」


 思い返してみると、ここ最近1度もまともに事が進んだ気がしない。


 また何か行動を起こして失敗し、食べ物にありつけなくなる前に確実に食べ物は確保しようと思い、コノルは周りを見渡す。


 するとパン屋が見えた。


 ここでいいや。思いの外安いし。


 コノルと黒猫はお店で安いが大きなパンを買うと、歩きながら食べる。


「モグモグのじゃ。コノルよモグモグのモグモグでモグモグじゃった。ぬははははモグモグ」


「話すか食べるか黙るかして」


「……」


「ごめん。黙る選択肢は選ばないで。せめて食べてて」


「モグモグ」


「……はぁ」


 まるでポンコツAIを相手にしている様な気分になり、コノルは溜息を付く。


 今2人が向かっている場所は広場だ。それもドデカい掲示板が掲げられている広場でそこには色々な依頼が古紙で貼られている。


 それに書かれている内容は、『モンスター退治』『家の清掃』『山菜採りの手伝い』等、様々だ。


 4界でパバナさんから依頼を受けようとしたように、掲示板でも依頼が受けられる。勿論依頼を出しているのは公共ギルドのパバナさんのような方だ。


 内容はバラバラで難易度も依頼主の予想で設定されており、難易度が低いからといって簡単ではない場合も多々ある。しかし難易度が高く設定されている程報酬は良く、運が良ければ高い難易度の割に呆気なく達成でき報酬をたっぷり貰える場合もある。


 難易度の波が激しいのが依頼という訳だ。因みに依頼は全てプレイヤーが出している。


 ここで【依頼】、【クエスト】、【商売】の違いについて説明しよう。


 先程言った様に依頼主がプレイヤーで、難易度の波が激しく報酬も上下するのが【依頼】。


【クエスト】はNPCが出しているもの。NPCとはノンプレイキャラクターの略で、詰まる所プレイヤーでないがプレイヤーに似せて作られたシステムの一部だ。人の姿であり、話す内容は限られていて同じ事しか話さない。名前はプレイヤーと違って緑色で表示されている。

 話を戻すが【クエスト】はプレイヤーが出したものではないので、難易度設定は概ね正しく、【依頼】と違って同じ内容のものしかない。しかし、クリアしてまた同じ【クエスト】を受ける場合、1日待たないとその【クエスト】は受注出来ない。しかも同じ【クエスト】を受けれる人数は1日10人までなので10人が受けた時点で全てのプレイヤーがその日その【クエスト】を受注出来なくなる。なので【クエスト】でのお金稼ぎはあまり効率良くはない。受けれたらラッキーみたいなもの。受注方法はNPCに話しかけるか掲示板。


 次に【商売】。早い話がお店の経営や、アイテムの売買、アイテムの収集、畑の管理、バイトなどの事。

【依頼】や【クエスト】と違うのは、安全で安定して報酬を得る事が出来るこの一点に尽きる。ちなみに黒猫やコノルが良くやっている。しかし大体黒猫が何かやらかしてクビになる。


 そう、2人は安全安定を捨てて、ギャンブルみたいな依頼を受けようとしているのだ。


 掲示板の前には人集りが出来ており、2人はそれを掻き分けて掲示板の前までくる。


「おっとっと、やっぱり人多いなぁ」


「おっと!危ないのじゃ。今押したの誰じゃ?痛っ!?誰じゃ今抓った奴は!?」


 人混みに押されたり揉まれたりしながら2人は依頼を吟味する。そして黒猫が先に依頼の古紙、つまり依頼書を手に取った。


「こっれじゃああ!」


「内容は?」


「うむ?12万ゴルドじゃ」


「報酬の内容じゃなく!依頼内容を言って!というか報酬たっか!?」


「うむふむ。『【急募】難易度★★★★★ ブルードラゴン一体がレイドボスとして67界に出現して家の前に居座ってます。更に周囲にブルーライトアイズを複数召喚されました。早急に退治して下さい。景色が台無しだわ。67界の最初のポータル前で待っています。そこで詳しく説明します。報酬は12万ゴルド』」


「論外だわ。掲示板に戻して」


「倒せばお金持ちじゃが?」


「万が一も、いや億が一も勝てないわよ。宝くじのがまだマシよ。確率が0じゃないし死なないもの」


「何を言ってるのか分からんのじゃ。これはどうじゃ?『【普通】難易度★☆☆☆☆英雄ライトさん。ファンです。これを見たら57界に来てください。待っています。報酬無し』」


「依頼じゃなく個人への呼び出しじゃない!?報酬すら無いし……破り捨てれたら捨てたいわ。戻して」


「ならばこれは?『【いつでも】難易度★★★★☆ 11界ボスのアイアンハインドを討伐して下さい。新しい界を見てみたいです。報酬は2万ゴルド』」


「……いつの依頼よ。依頼削除要請出しといて」


「のじゃ」ピッピッピッ……ポンッ!


 黒猫の目の前で依頼が消失した。


「猫さんチョイスは外れが多すぎ。うーん『【掃除】難易度★☆☆☆☆47界でドリルジャッカルが―――』ダメね。界移動しなくていい依頼書を検索」


 コノルが掲示板の下に何個も付いてある、スマホ画面の様な形をしたメッセージ入力機能に声を掛けて使用すると、コノルの意に沿った依頼書が白く光る。


 その白く光る依頼書を手に取る


「『【掃除】難易度★★☆☆☆ 151界にある町外れの墓場を掃除して下さい。夜になるとアンデットが出ますのでそれまでに掃除を。2の島の浜辺で待っています。報酬は3000ゴルド』……これしか無いわ」


「2の島はここじゃないのじゃ。隣の島なのじゃ。海はどう渡るのじゃ?泳ぐのかの?」


 黒猫の言葉を聞くとコノルは静かに依頼書を戻す。


「…………やっぱり私達には掲示板は無理なのよ!お金なんか一生手に入らないんだわ!うええええんー」


 コノルは涙目で上を見上げながら、薄々感じていた胸の内を叫んで、とうとう大泣きする。


「このりゅううう……」


 黒猫はそんなコノルに抱き着いて同じく涙目になる。


 掲示板の前で抱き合って号泣する2人。そんな2人に周りは同情したのか、はたまた近付いてはイケない部類の人間だと思ったのか、距離を空けて掲示板から離れ始める。


 すると、そんな公衆の面前で号泣する2人に声を掛けてくる人物が現れる。


悲しいけど、これが現実なんよね

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