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仮想世界は楽しむ所なのじゃ  作者: 灰色野良猫
チュートリアル
16/231

その16 安宿の弊害

また設定の長い説明が入っております。

設定が活用できるのはまだまだ先ですけどねー。

 

「どうか!どうか私達にお恵みを!お仕事を!」


「シゴトクレジャー」


 バシン!


 隣で座りながら、棒読みでやる気なさそうに仕事を求めている黒猫の頭にコノルの平手が綺麗に決まる。




「お仕事をー!わたしゃ頑張るのじゃー!」


 さっきまでとは一転して、渇を入れられた黒猫は必死に声を大にして仕事の募集をする。


「誰か!雇って下さーい!誠心誠意頑張りますので!あ、モンスター退治は勘弁して下さーい!」


 2人は『ギブミー仕事。Noモンスター』と書かれた看板を首に掛けて路上で仕事を募集していた。


 働かざる者食うべからず。ここに滞在したいなら早くここで安定した収入源を手に入れなければならない2人は一生懸命声を出す。


 しかし、通る人全てが全て2人を避ける。なんなら立っているだけで通行人が少なくなってくる程に。


 そんなに裏路地でも小路でもないにも関わらず、道には到頭誰一人として通行人がいなくなる。


 2人は顔を見合わせる。


「諦めるのじゃ」


 真顔のまま、首から下げてる看板を取り外して仕事の募集を諦めようとする黒猫。


「諦めないでよ!!はぁ……もう仕事下さいって依頼でも出す?」


「本末転倒過ぎるのじゃ。釣りアイテムならあるのじゃ」


 そう言ってどこからともかく釣竿を出す黒猫。


「いつの間にそんな物を!?」


「拾ったのじゃ」


「本当は?」


「落ちて……嘘!嘘!嘘じゃ!!盗んだのじゃ!!」


 コノルはまだ嘘を付くのかと言うような鋭い眼光で黒猫を睨み付けると、黒猫は本当の事を白状する。


 まぁ殴っとこう。


 ガンッ!


「本当の事を……言ったのに……何故……なの……じゃあ……」バタン


 黒猫は納得いかない気持ちを全面に押し出すように、その場に大袈裟に倒れ込む。


「はぁ……返しに行かないといけないけど……何処から盗んだのよもう。まぁ返しに行けないなら仕方ない……私達が有効活用しよう!」


 グッと拳を握って開き直り、共犯者の道を選ぶコノル。そこには健やかな悪い顔が。


 ―――


 そして日がしっかり沈む時間帯。


 2人は1本の釣竿で釣りをしていた。


「あ、引いてるのじゃ」


「引き上げてー」


「また釣れたのじゃ。骨魚」


「リリースしてー」


「のじゃ」ポチャン


 コノルは船着き場のビットで暇そうにしながら手に顎を乗せた状態で座っており、黒猫がピチピチ跳ねる骨だけの身が無い魚を持ってくる度に逐一指示を出していた。


 黒猫はその指示に従い、何にも考えないまま活きだけが良い骨の魚を海へと優しく投げ落とす。


 さっきから釣り上げる魚が全て骨しかない外れの部類に入る魚で、2人は身の付いた魚を釣り上げられないでいた。


 それもそうだ。ここら辺は日が沈むと骨魚しか釣れないので、まともな魚を釣りたいなら、場所を変えるか朝日の登った時間帯でないとダメなのだ。


 しかし2人はそんな釣りの知識は皆無なので永遠と無駄な釣りをし続ける。


 そしてお腹の音が大きくなり始めた辺りで釣りを断念した。


「まぁ仕方ない……宿に泊まろう」


「残り金額が9000ゴルドちょいじゃから、魚を食べて節約しないとって話は何処いったのじゃ?」


「仕方ないでしょ?もう食事は抜きね。はぁ……テント拡げても大丈夫そうな場所もまだ見つかんないし。来て早々に路上で野垂れ死にしたくないし」


 1度あった。その時は通行人に蘇生してもらった。嫌な記憶である。


「儘ならぬのじゃ」


「誰のせいよ誰の。噂の安宿に行ってみようかな」


 黒猫を睨み付けながら、コノルは宿へと向かう。


 実は宿のアテはあった。でも話を聞く限りあまり良い噂がない安宿らしいので、本当は行きたくはない。だが背に腹はかえられぬと妥協しての判断だ。




 暫く歩いて安宿がある場所に到着すると、2人は建物を見上げる。


 実際の建物を目の前にすると、宿は建物間の狭い隙間に無理矢理押し込まれたのか?と感じとれるかのような縦に細長い建物だった。


 逆にそれ以外、外見はまともな印象を受ける。


 まぁ、まとも……かな?


 思っていた程じゃないと感じながら、コノルは黒猫を連れて安宿の扉を開けて入っていく。


 中は倉庫と見間違う程見窄らしい内装をしており、受付のカウンターには怠そうに鼻をほじっているオーナーらしき中年のおっさんがいた。


 そのおっさんが2人に気が付くと鼻糞を机に擦り付けて、シャキッとし、ゴマをするような態度になりながら接客してくる。


「へーい。らっしゃーい」


 挨拶……居酒屋かここは。


 どうみても宿屋でする接客の挨拶ではないと呆れるが、口には出さずにコノルはさっさと泊まる手続きを始める。


「あー2人で1部屋、ベッドは1つで、食事は無しでお願いします」


「2000ゴルドだけど!お嬢ちゃん達は特別に1700ゴルドにまけといてあげよう!」


 笑顔でおっさんがそう言った。


 コノルはおっさんの後ろに書いてあるオプションサービスの値段表を見て指を差す。


「あの……そこに1泊1人1000ゴルドで食事やその他サービス込みって書いてありますよね?1000ゴルドの内訳で食事は350ゴルド、ベッド1つ150ゴルド。食事無しのベッド1つなら、2人で1150ゴルドでは?」


 コノルは宿屋の主人を薄目で睨み付ける。


「コノルはお金関係になると怖いのじゃ。素直に従うのじゃお主よ」


「目敏いガキだな。ほら鍵だ。301号。早く行けよ」カシャン


 宿屋の主人は急に雑な案内に変わり、不貞腐れた様に鍵をカウンターに乱雑に投げて渡してくる。


「なんじゃお主喧嘩売っとるのか!?」バンッ!


 黒猫は袖を捲ってカウンターを力強く叩く。


「やーめて。行くわよ」グイ


「ぬ!のがっ!?」


 コノルはそんな黒猫の襟を引っ張って、301号室の部屋へと向かう。


 そこは屋根裏部屋と何ら変わらないかなり狭い部屋だった。


 埃を被り、ベッドは今にも壊れそうで布はなく、日が差さない間取りの癖して窓は小さな嵌め殺し、ギシギシ謎の音が頻繁にする上に、明かりは蝋燭の火だけ。


「これはアカンじゃろ。これはアカンのじゃ。野宿のがまだマシではないかの?」


「あー……噂通りか……少しはマシだと思ってた」


 コノルはここの噂をお昼に食事した場所の店員に聞いていた。まぁまぁ安いが人の住める環境じゃない宿だと。


 大袈裟に言ってるだけだと思ってた……


 頭痛がしてきてコノルは片手で額を抑える。


「あやつ今からでもブチのめすかの?」


 黒猫は拳をこれみよがしに見せながら、宿屋の主人がいるであろう方角を向く。


「まぁこんな所でもシステム上は傷の治りが早くなる仕様があるし、外よりは……」


「自分に言い聞かせてるのかの?」


「言い聞かせてる」


 2人は諦めて部屋を受け入れると、ベッドに寝袋を並べて早々に眠りに付いたのだった。





 実は休憩するには色々と決まりがある。勿論プレイヤーは何処でも寝る事は出来る。しかし決まった場所で眠らないと、謎の外傷を負い、更にはHPにダメージを負うのだ。


 謎仕様過ぎるがこれを防ぐ方法は4つある。


 先ずは【テント】だ。これは簡易休憩所と呼ばれ、【テント】がある場所での睡眠は外傷とHPを回復する。しかもモンスターがいるフィールド内なら何処へでも設置出来るメリットがあるが、寝ている最中モンスターに襲われる可能性と、休息界の街の中には設置出来ないデメリットがある。休息界にも1部設置出来る場所もあったりするが、それは例外中の例外で基本は設置出来ないと思ってよい。


 次に【宿屋】。ある条件をクリアして建てられた【宿屋】は【テント】と同じく外傷とHPが回復出来るが、【テント】と違うのは位置が固定で複数の人を休ませる事が出来る。【宿屋】として運用するには維持する必要があり、主に公共ギルドの人達が建てて運営する為、一個人で【宿屋】を建てる人間はほぼいない。


 その次が【家】だ。この世界では【家】が買える。特定の場所に建てられ、その特定の場所に建てられるだけのスペースがあればモンスターのいるフィールドだろうと休息界だろうと建てられ、【宿屋】と同様に位置は固定されるが【宿屋】同様に休む事が出来る。しかし休息界はほぼ既存の建物が大半を占めているため、休息界に【家】を建てるのは難しい、なので大抵はフィールドの、それも低い界に建てるのが常である。そして【家】に帰る場合、【家】を買った際に一緒に手に入る鍵アイテムがあるのだが、【家】を建てた界に戻らなくてもあらゆる扉の鍵穴にその鍵アイテムを差し込めば自分の【家】へと繋がり休む事ができる。【家】から出ると、最後に鍵を差し込んだ場所から出られる為、界間の移動は考えなくて良くなる。窓から見える風景は建てた場所の風景が投影されている。【家】の中にはモンスターが入れない仕様になっている。


 最後に【ギルドルーム】。【ギルドルーム】は【家】と同様に好きな場所に建てられ【テント】や【宿屋】と同様に休む事が出来る。ただ【家】と違うのは【家】の様な鍵アイテムはない分【ギルドルーム】は移転が可能で、大体が最新界やメンバーのお気に入りの界に置かれている。しかし、移転には過半数メンバーの同意と多額のゴルドが必要となる為、余程余裕が無ければ移転はそんなに行われない。ギルドルームはギルドメンバー以外入れない。勿論モンスターも。


 これらが休憩する際に大切な事。


 これを知らずに路上でHPを0にして死ぬプレイヤーも少なからずいる。


 それが過去の黒猫とコノルだった。


 その日、寝心地の悪い宿で寝ている所為からか、2人は路上で死ぬ悪夢を見て一晩中魘されたのだった。


投稿頻度は週に4回くらいを狙って投稿しています。

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