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仮想世界は楽しむ所なのじゃ  作者: 灰色野良猫
チュートリアル
11/231

その11 死亡

 パバマさんの配給イベントが終わると、二人は早速旅立つ準備をはじめる。


「暫くここで資金稼ぎしようと思ってたけど……猫さん。151界の休息界へ行こう」


 2人がテントの片付けを行っている最中、唐突にコノルが101界よりもレベルが上の界へ行こうと言い始める。


「……コノルがトチ狂ったのじゃ。嫌なのじゃ。死にとうない」


 忘れたのかと言った具合にコノルを薄目で睨む黒猫は、昨日101界でレウガルに助けてもらわなければ死んでいた事を思い出して即断る。


「露店居酒屋『蟻地獄』もあるし、まだ私達にとって未知の領域だよ?見たくない?」


「死にたくないのじゃ」


「朝は死にたいって言ってた」


「言葉の竿じゃ」


「言葉の綾ね。それで何釣り上げる気よ?……猫さん……151界には……ピザやパエリアがあるんだって」


「膝やハエ嫌?わたしゃもハエは嫌じゃ。殺されかけたのじゃ……」


 遠い目で空を眺めて悲壮感を漂わせながら、何故か自分の横腹を擦る黒猫。


「ちっがうわよ!ピザ!と!パエリア!……食べ物よ。チーズがたっぷり乗った…………パンよ。あとパエリアは……海鮮チャーハンよ」


 黒猫の聞き間違いに声を荒げつつ、にわか知識を衒うコノル。


「なぬ!?行くのじゃ!」


 食べ物のワードが出た瞬間、黒猫の中で否定的な考えは飛散して消える。


 ちょろい。


 そんなコノルの曖昧な説明で釣れる黒猫。食べ物ならば何でもいいのだろうと感じざる得ない。


 そんな事を思っているコノルはテントを片付けながら「あ、言葉の竿ってこれの事かな?」とポツリと溢しつつ、真横にいる釣れた魚……もとい黒猫の顔を見ると、黒猫はヨダレを垂らしながら「チーズチャーハン……旨そうじゃな……」とか呟いていた。


 ……誤った情報が……合体してる……


 面倒臭いのでそのまま訂正せずに放置して、コノルは自分の寝袋の片付けを黙々と行う。




 そんなこんなで、片付けの序でに2人は次の目的地を151界の未知の領域と定めた。


 これまでの流れから考えるに、休息界だとしてもモンスターとの戦闘は転移素材を集める際に避けては通れない関門なので、行くこと事態2人にとって、そこに永遠に留まり続けるか、転移素材を集めようとしてモンスターに殺されるかの二択であるが。


 まぁどうとでもなるだろうと楽観的思考で、2人共辿り着いた後の事は微塵も考えていなかった。


 行動全てが行き当たりばったりである。




 コノルと黒猫はテントをメニュー画面のアイテム欄に仲良く戻して片付けを完了した後、一緒に【始まりの集落】の中にある(ポータル)へ向かい転移の準備を進める。


 ピッピッピ……とコノルはまたメニュー画面を操作する。


 その横で黒猫は貰った飴玉を口の中で転がし、コノルの様子をしゃがみ込んで観察していた。


「手間なのじゃ」


 そんな一人言を言う黒猫は置いといて、何故コノルが唐突に151界に行きたいと言ったかというと、臨時の資金が手に入ったのもそうだが、151界の噂を前に自分達が滞在していた101界の住人から聞いていたからだ。


 151界はイタリアをモチーフにした都市で、海に囲まれ南国を思わせるような休憩界だと。


 それが本当ならば、そこに行くという事は素晴らしい景色を見放題、味わい放題、毎日が海外旅行気分になれるというもの。そんな場所ならば界移動が困難になっても暫く滞在するには悪くない。


 これまで見慣れた場所ばかりしか行かなかった為、コノルは景色に飢えていた。そこに151界の情報。目の保養にも気分向上にももってこいだ。


 行かざる得ない!いや!絶対行く!となるのも無理は無いだろう。


 その第一歩を今まさに踏み出そうとしていた。


「素材は【木の枝】×147と【蜂の蜜】×147と……14700ゴルド……高いなぁ……」


 言い忘れてたが転移にもお金は掛かる。上の界に行く場合だけだが。それは行こうとしている界から今いる界の数値を引いた値段だ。素材も、上に行く場合のみ似たような計算式になる。


「分かってると思うけど」


「うむ」


「素材が足りんのじゃな?」

「素材が足りないの」


 2人は分かりきっていた情報を顔を見合わせながらハモる。


 いつもの事だ。


 だが101界よりも救いなのはここが4界な事。休息界ではないが101界の休息界よりも敵が非常に弱い。


 今回は敵が弱いので黒猫も戦力になる。それ程素材集めには苦労はしない筈。



 だった。



 ―――4界  草原の広がるエリア―――


「のじゃあああ!?コノリュうううう!?たすけてじゃあああああ!?」


 黒猫は30体もの木の姿をしたモンスターに追われていた。


「バカなの?」


 コノルは三角座りをしながら追われている光景を悠長に遠くで眺めていた。


 黒猫が『敵を集めて一網打尽じゃな。作戦通り集めてくるから待ってるのじゃ』といい10分後にこれである。


 集めるにしても限度がある。


 黒猫は泣きながら手に終えない数のモンスターから全力で逃げていた。


 そろそろ危ないかな?と思ったコノルは「よっこいしょ」と年寄りの様にゆっくり立ち上がると、魔法の詠唱を始める。


「罪には罰を、罰には戒めを、天空別つ平等の業火よ降り注げ、【ファイヤーレイン】」


 そこそこ長い詠唱を終えると敵のモンスターの頭上から大量の火の玉が降り注ぐ。


「猫さーん、あの傘使ってー」


 コノルは両手を口の前に添えると黒猫に向かって大声で、あるアイテムを使うように促す。


「ぬ!忘れてたのじゃ!」


 そう言うと黒猫は手を前に出す。


 すると、シュンッ!と何処からともなく黒猫の手に灰色の傘が現れる。


『【鉄の傘】片手混 打 攻撃力+15 追加効果 火耐性+80% AG-50%』


 猫はその傘を上に開いて、コノルが出した降り注ぐ火の玉を防ぐ。


 ガン!ガン!ガン!ガン!


 火の玉が傘に当たる度に大きな音が鳴り響く。


「のじゃああ!?思ったより重いのじゃ!?衝撃で腕も痛いのじゃ!?」


 目を見開いて必死に衝撃に耐える黒猫。それと同時に周りにいる火の玉を諸に受けた木のモンスターは順調に倒されていく。



 さてここで、今2人がやっている事を説明しよう。


[作戦名 火の雨大作戦]

 概要は紙に書いてあるので見てみる事にしよう。


 1.黒猫が敵を惹き付ける。

 2.コノルが詠唱とRTの長い強力な火の魔法で火の玉を降らせる。

 3.黒猫は巻き込まれないように鉄の傘を使う。

 4.やったー素材じゃー。


 これが紙に書かれている内容。4番以外はコノルが考えた。言うまでもないが何故メモした?とも思える別に画期的でもなんでもない誰でも思い付く単純で普通の作戦だが、彼女達にとって普通の作戦は及第点どころか満点拍手大喝采レベルだ。なので、コノルはこの作戦に絶対の自信を持っていた。


 これなら無傷で倒せる!どう!私達もやればできるのよ!


 誰に向けての心の声なのかは謎だが、コノルはキメ顔で木のモンスターが倒されていく光景を小さくガッツポーズをしながら見る。


 作戦は順調で滞りなく進んでいく。


 辺り一面が巻き上げられた砂鉾で視界が少し悪くなり始め、敵も粗方掃討された頃に最後の火の玉が降り注ぐ。


 終幕の音の様に、最後の火の玉が大きく地面を穿つ音を鳴り響かせると、そこには多くの素材と



 HP0状態で倒れた黒猫の姿があった。



「え?……猫さああああああん!?」


 まさかの光景に驚愕する。


 黒猫は火耐性の武器で火の玉を防いでいたが、火耐性80%ということは完全に火に耐性が持てる訳ではなく、残り20%は通るという事。その低ダメージで黒猫は死んだのだ。


 プスプスと煙を上げながら俯せに倒れる黒猫の身体の上にはカウントが表示されていた。その数字は600から始まり1秒度にドンドン減っていく。


 コノルは急いで駆け寄ると、黒猫に蘇生アイテムを使う。


「猫さん!蘇れええええ!!」



『【蘇生神札】蘇生アイテム HP0のプレイヤーの体力を25%回復させる』



 コノルは御札の形をしたアイテムを黒猫の心臓部辺りに心臓マッサージをする様に押し当てる。


 すると札が黒猫の中へと呑み込まれていき、黒猫の身体が薄く光を放つと、黒猫のHPバーが上昇して復活する。


「ぬ!?……危なかったのじゃ……またあの世に行くところじゃった……ありがとーなのじゃコノル!」


 復活した黒猫は目玉が飛び出る位目を見開いたかと思うと、上半身だけ飛び起こさせて、心配そうな顔で隣に座っているコノルに笑顔を向ける。その頭からは引き続き煙が上がっていた。


「ごめんなさい……盲点だったわ……普通なら火耐性+魔法防御でほぼ無傷で倒せる算段だったの……でも猫さんのステータスが予想を遥かに下回ってたのを計算に入れてなかった……本当にごめんなさい……」


 コノルは自分の作戦で黒猫が死んでしまい申し訳ない気持ちで一杯になっていた。


 気落ちして黒猫の顔をまともに見れないコノルは俯いて地面ばかりを見る。


「……これは分かるのじゃ。皮肉じゃな?」


 しかしそんなコノルの心境を微塵も察しない黒猫。どう考えても皮肉が言える場面ではないのに皮肉と捉えてコノルを薄目で睨んでくる。


「違うわよ!?確かに言い方悪かったけど!本当に反省はしてます!ごめんね猫さん!」


 自棄糞交じりの謝罪である。


 黒猫のデリカシー皆無の天然思考のおかげで、コノルの暗い気持ちは吹っ飛んだ。


「まぁ助かったからいいのじゃ……それより……この作戦……まだやるのかの?」


「やらない」


 上半身を起こし、怯えきった声で続けるのか聞いてくる黒猫に、座りながら負い目を感じてるコノルは即答した。


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