その10 棚からぼた餅
睡眠を行うと、睡眠時間に応じて割合でHPが回復する。そして外傷もある程度は治る。
しかし
空腹と精神的ダメージは戻らない。
2人はお腹の音で、最高に最悪な朝を迎える。
グー……
「「……」」ムクッ
「……死にたいのじゃ」
「……わかる」
コノルはメニュー画面を開くと、あるアイテムを選んで目の前に出現させる。黒猫も同じアイテムを出現させる。
『【歯磨きブラシ】残り使用回数17回。使用すると傷の治りが若干早くなる。清潔感アップ』
2人はテント横に設けられてある水呑場で歯を磨くと、服装を変える。
そして近くの建物へ向かうとコノルはドアを軽く三度叩く。
コンコンコン……
「「……」」
コノルと黒猫は顔を洗ったにも関わらず、眠そうな顔をしながら大人しく待つ。
バタバタバタバタ
「はいはーい」
暫くすると中から女性の声がして扉が開く。それと同時にコノルは眠そうな顔からシャキッとした顔に変わる。その横で黒猫は眠そうに大きな欠伸をしていた。
「あらーコノルちゃんに黒ちゃんじゃないのぉ!久しぶりね~101界に居るんじゃなかったのぉ~?」
出てきたのはパーマをかけたオバサンだった。
「ぱーばぁ~仕事くれなのじゃ~」
「猫さん失礼でしょ。お久しぶりですパバマさん。101界からは、昨日帰ってきたんですよ。早速なんですけどお金がなくて……何か依頼はありませんか?」
「あらー大変ねぇ~でも依頼は無いのよね~ごめんなさいねぇ。最近はここら辺でプレイする方も少なくて、丁度依頼は全部上の界の人に回したのよ~本当にごめんなさいねぇ~。でも久々に会えて良かったわぁ。これ、私からのプレゼント。受け取ってぇ」
コノルはパバマさんから30000ゴルドをもらった。
黒猫はパバマさんから飴玉を30個もらった。
「こんなに!?良いんですか!?」
「こんなに!?良いのか天然パーマ様!?」
「良いのよ~。あとこれは天然じゃなくパーマをかけてるのよ。うふふふふ」
女神の様なパーマをかけたオバサン
名前はパバマさん
彼女は公共ギルド【オーエス依頼!】のメンバーの1人で依頼を見付けたり斡旋する人物だ。
依頼を見付けたり斡旋したりするとは、誰か困ってたら話を聞いて、それを簡素にまとめて依頼にし、依頼人と受注者との間を取り持つ仲介者となり、報酬その他手数料等の様々な事務的仕事をする事を指す。
そうして手間を掛けて出来た依頼を斡旋するのだが、人がいなければ受注されない。つまりいつまでもクリアされない。それは報酬はもとより、信用や苦情の問題にもなるため、たまにこうして人がいる界へと取りまとめた依頼を別の界の人に丸々引き継がせて渡す事等があるのだ。
まぁ引き渡し行為は普通、同じ仲介者に分け前を渡したりして取り分が減る等の金銭的デメリットもあるため、然う然うそんな事は行われないのだが
今回はタイミングが悪く引き渡した後な上、パバマさんが新たな依頼を取りまとめてないので依頼がなかった。
そんな2人を不憫に思いパバマさんは高額なゴルドを渡したのだ。あと飴ちゃんも。
「こ、これだけあれば、宿にも武器の新調も、もしくは上層界に……」ワナワナワナ……
手持ちのゴルドが表示されてる画面を見ながら、コノルは感動に身を震わせていた。黒猫も手から溢れんばかりの飴玉を見ながら同じく身を震わせて感動していた。
「ありがとーなのじゃ!ぱーばぁああ!」
「大事に大事に使わせて頂きます!」
2人は涙を流しながらパバマさんに抱き付く。
2人のあまりの喜び具合にパバマさんは
(若いのに大変なのねぇ……そんな泣いて喜ぶ程の金額でもアイテムでもないんだけどねぇ……)
と少し心配になっていた。