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転生悪役令嬢の弟

作者: 桂木真依

 僕には姉が1人いる。幼い頃に自分は悪役令嬢なのだと言い出した少し変わり者の姉が。

「リリアナ!お前との婚約を破棄する!」

「婚約破棄には異論はございませんが、理由を伺っても?」

 せっかくの卒業パーティーで婚約破棄などと言い出した婚約者であるトマス殿下に対し、少し変わり者の姉ではあるが極めて冷静に対応している。

 それがバカ・・・激しやすい王子達の癇に障ったらしく彼らは、いよいよ激高した。

「決まっている!お前が我が愛しのナターシャに嫌がらせをしたからだ!」

 姉が幼いころから言っていた悪役令嬢と言う言葉は、どうして悪役と令嬢が結びつくのか不思議だったけど、なるほど、こういうことだったんだな。感情のままに大声を張り上げているトマス殿下を見て、納得した。「真実の恋に落ちた」恋人達に悪役扱いされる令嬢だったのか。

「まあ、嫌がらせ?私がしたのは、婚約者のいる殿方達に色目を使ってまわっていらっしゃることを注意したことだけですわ」

いっそ楽し気に姉は、側近を引き連れたトマス殿下を煽る。楽しんでいるな、悪役を。

「ナターシャを悪く言うな!」

あ、脳筋が切れた。騎士団長の後継ぎであるはずのデクスターが腰の剣に手をやっている。

「婚約者のいる殿方達とあるまじき距離で接した挙句体に触れたり、2人きりで過ごされていることを他にどう言えと?」

 何故この場で帯剣しているのか、それだけで処罰の対象だと僕が思っていたその剣を、デクスターはあろうことか抜き放ち、姉に向かってきた。

「許さん!」

が、数歩進んだところで、

「グワッ」

詠唱不要で魔力を駆使する姉に吹き飛ばされる。

 それを見て、

「デクスター!おのれ……!」

魔術師団長の跡を継ぐはずのエグバートがよせばいいのに詠唱を始める。

 なぜだか詠唱を唱え終えるのを待っていた姉は、エグバートが放った魔力をいったん受け止めると、自らの魔力も加えてエグバートに投げ返した。……悪魔か。当然デクスターに続いてエグバートも吹き飛んだ。

「今の私、映画のクライマックスに登場して主人公達を追い詰めるラスボスみたいじゃなかったかしら」

 またわけのわからない言葉を使いだした姉は、

「私もここまではしたくなかったわ……」

としんみりと続けた。

 嘘だ、絶対にしたかったんだ。

 というか、

「姉上、トマス殿下は戦意を喪失しています」

さらに魔力を使おうとするのは止めてください。

「あら」

戦力として頼みにしていた側近達が一撃のもとに退けられ、トマス殿下は真っ青になって震えている。

 知らなかったんだな、トマス殿下は。幼いころに王太子妃に決められ、勉学や礼儀作法をたたき込まれた姉が、そのストレスを我が家の兵士達にぶつけ……兵士達と訓練することで発散してきていたのを。

「理由は認められませんが、先ほど申し上げたとおり婚約破棄には異論ございませんわ」

姉が話をたたみにかかる。

「それでは、皆さま、卒業パーティーを台無しにして申し訳ありませんでしたけれど、私たちは退場いたしますので、どうか再開なさってください」

……いやこの後でパーティーとかできないだろう。

 内心で突っ込みつつ、王子妃教育の賜物なのか素晴らしいカーテシーを披露した姉に続き、礼をして僕も会場の出口へと向かう。

「やったわ!これで自由ね!」

会場を後にしながら、姉は嬉し気な様子だが、後に残してきたトマス殿下たちはこれから大変だろう。

「準備は万端ね?」

「もちろん。父上と母上も出立の準備をして待ってるはずだよ。一緒に来る皆も」

 これから我がアークライト家は、仕えてくれている人達と一緒にこの国を出る。元々勇者だった父と聖女だった母が国を出ることを防ぐために貴族の地位を与え、それでも出て行こうとした父を引き留めるために、国王が決めたのがこの婚約だったのに。

 王家としては妃とする名誉を与えてやったら十分と思っていたようだが、そんなわけはない。姉を大切にしてくれない王家に、父はとっくにこの国を出て行くと決めていた。今日のあのバカげた婚約破棄がなくても。

「あなたは準備が簡単だったからいいわね!」

「まあね」

 そのとおり。姉の卒業を待ってこの国を出ると決めてたから、年下の僕は元々これから向かう隣国に留学している。既に生活の拠点はあちらだ。

 隣国は元勇者と元聖女の一家が部下達を連れてくることを歓迎しているし、あちらの国王は、この国の国王より柔軟だから、我が家に自由を約束してくれた。

 柔軟性を欠き、自分達の与える栄誉を皆が喜ぶと傲慢にも思っていた国王一家はこれからその報いを受けるだろう。元勇者と元聖女とその部下達で戦ってきた魔獣との戦いにせいぜい勤しんでほしい。魔獣との戦いを押し付けたうえに姉を奪い、抑圧していた王家には。

「何だか悪い顔をしているわよ。あなたも怒っていたのね」

「何をいまさら」

 当たり前じゃないか。家族をないがしろにされて怒っていないはずがない。

 だけど、

「でももうすべて終わりよ!」

そう言って、心から幸せそうに笑う姉を見たら、それももう終わっていくのだと思えた。過去は変わらないけど。姉がそう言うなら。

「それでは、新しい生活へ向けて」

 すっかり長距離用に整えられた我が家の馬車まできたから、僕は、馬車に乗る姉に手を貸すためにすっと手を差し伸べた。

「ええ、新しい未来へ!」

姉は僕の手を取って軽いステップで馬車に乗り込む。

 このまま隣国へ向かう馬車へ僕も乗り込んで、一瞬窓から覗くと、後にしてきた卒業パーティーの会場のほうから慌てて駆け寄ろうとする人達の姿が見えた。

 だけど、それ以上はもう振り向かずに、僕たちは新天地に旅立つ。

「これで自由に魔獣との闘いに明け暮れられるわね!」

「・・・そう、それが姉上のしたいことだったの・・・」

 王子の失態に慌てた国王の追手が到底追いつけないスピードで隣国に逃れた僕たち一家は、約束されたとおり自由を与えられて、国中の魔獣を狩ってまわることになり、その間に僕たちのいた国は、魔獣退治に力を取られ、国力を急激に落としていくことになるんだけれど。

それはまた別のお話だ。

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