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毒役令嬢  作者: まさかの
毒薬令嬢
6/29

可愛い癒し系のハルくん登場

 ふとした時に思い出すのは前世の記憶。

 春の桜並木を自転車で通り過ぎ、長い坂を登っていくと学校に着く。

 友達と普通の会話をして、たまに新作のゲームが出たらその感想を言い合う。

 誰が良かった、実はこの子の裏設定がーー、などとどうでもいい話をしていた。

 今思い出すと、そのくだらない毎日が本当に楽しかった。

 自分が毒殺犯になることもないし、殺気を向けられることもない。

 ましてや、自分で毒を服用するなんてもってのほかだ。

 だが、この世界でまだマシなのは悪役顔だが可愛い顔と乙女ゲーで登場するイケメンたち。

 そしてわたしはそのイケメンに愛を囁かれているのだった。


「マイハニー、待ってくれ!」


 タキシードを着こなす彼はカッコよく、すらりと長い足はあっちの世界のモデルを思い出させる。

 顔も財力もある彼はおそらく誰もが好意以上のものを持ってしまうだろう。

 そして、わたしはーー。



「イヤァァァ!」


 絶賛悲鳴をあげながら走り回っていた。

 わたし、ヒメノ スズランは乙女ゲーム世界のローラという黒幕に転生していた。

 最後に主人公たちによって断罪され、哀れな最後を迎える少し手前で記憶を取り戻した。

 もう引き返すこともできず、一生懸命策を考えたが思い付かず、流れで毒入りの料理を自分で食べて第二の人生も終えようとした。

 しかし、何故か生きておりヴァルコ王子が看病していたのだ。

 イケメンに看病されるのに、何で逃げるかって?

 それはーー。


「約束通り、君は僕のものだ。その血を味わせて!」

「ぜーーったいに嫌!」



 吸血鬼にとって血は御馳走だ。

 血なんて簡単に取れると思われがちだが、人間との協定があるので、手に入りづらいらしい。

 もちろんわたしだって献血のようにあげるなら何とも思わない。

 しかし彼は噛みつこうとしてくるのだ。

 痛いのが好きではないわたしは城の廊下を駆け回る。


「どうして逃げるんだい?」

「吸われたくないからよ!」



 このゲームの設定でローラとヴァルコ王子が愛し合うルートなんて存在しない。

 それはどのルートでもローラは黒幕で死んでしまうからだ。


「どうしてわたしなのよ……」


 貴族令嬢であり、王子と結婚間近でもあったので、よく知りもしない者からも美人だと思われるし、実際に美人だ。

 しかしお世辞にも性格が良いわけではないので、体目的以外なら絶対選びたくないと思うはずだ。


「美人も大変なのね」


 初めて美人という存在に同情する。

 だが、ローラ自身も周りから嫌われる性格をしているので素直に同情できないが。

 しばらく走っていると体力がほとんどなくなってしまい、どこかに隠れないと捕まってしまう。

 わたしはその辺に置いてある空の樽の中に入った。


「おーい、ローラ嬢? どこいったんだ。あっちかな?」


 ヴァルコ王子の足音がどんどん遠ざかっていく。

 完全に足音が聞こえなくなり、わたしは樽から顔を出す。


「ーー!?」


 ちょうど顔を出しところで、小さな色白の少年が樽の前を通っており、わたしが急に現れたことに驚き固まってしまっている。

 ここで働いているのかと思ったが、すぐにその顔に見覚えがあったことに気付いた。


「ハルくん!」


 誰であるかすぐに気付いたわたしはすぐに樽から出てその少年に抱き付いた。


「う、うわっ!? や、やめろ!」



 わたしが急に抱きついたので慌てて引き剥がそうとする。

 しかし離しはしない。

 このハルという少年はハルバードという名前であり、ヴァルコ王子の弟だ。

 病弱という設定があるが、ヴァルコ王子と仲良くなるにつれて彼も物語の中枢に入ってくる。

 性格も可愛らしく、仲良くなれば甘えてくるのでそこがまたいい!

 小さな体と可愛らしい犬歯が特徴的だ。

 わたしの興奮のボルテージはどんどん上がっていく。


「本物のハルくんだー」

「ひいい!」


 ハルくんはジタバタしてわたしから無理矢理離れていく。

 予想以上に怯えてしまっており、これはやってしまったと今更ながらに気付いた。

 だがもう時は遅し。

 ハルくんはもう廊下の角を曲がって居なくなってしまった。


「ハァァァ」


 大きな溜息が漏れた。

 せっかくこの世界で初めての癒しを堪能できるところだったのに、自分でそのチャンスを不意にしてしまうなんて。

 自分の軽率な行動のせいで、せっかくの楽しいイベントが今後発生しないかもしれないのだ。

 ピクニックに行ったり、一緒にお料理したりなど、それが全て出来なくなるのなら、もう死んでもいいかもしれない。


「はぁ、死のぉぉぉうん?」



 なにかいい匂いがする。

 野菜が煮込まれたスープの匂いが空腹を刺激する。


「この樽って厨房のだったのね」


 樽の真後ろが厨房になっており、入り口からこそっと顔を覗かせる。

 料理をしている者は数人だ。

 今行けば見つかってしまう。

 そうなると誰もが注意を引き付けられているうちに入ってご飯を取ってくるしかない。


「さて、でもどうすれば……」



 そこでわたしは一個大事なことを思い出した。


「わたしって魔法が使えるじゃない!」



 なんて天才なんだ。

 初めてわたしは自分のことを頭がいいと思った。

 さっそく使おうとした。


「ババっと魔法を……どうやって使うの?」


 ゲームではただ魔法を押せばそれっぽいエフェクトが出てきたが、現実となった今ではどうやるのか。

 一応ローラとしての記憶もあるので探ってみよう。

 すると、色々な魔法の使い方が出てきた。

 どうやら、魔力を体に込めると出るらしい。


「えっと、どうやって魔力を体に込めるんだろう?」


 感覚的な部分らしく、どんなに力を入れても魔法が出せる気がしない。

 ローラは簡単にやってたのにおかしいなぁと思ったが、どうやら最初のコツを身につけるのが難しいようだ。


「まるで自転車みたいね」


 自転車は一度乗れればもう乗れなくなることはないというし、わたしは子供と同じところで躓いているようだ。

 その時、ちょうどコックたちが荷物を運び一斉に外に出た。

 しめしめ、とわたしは厨房に入り、何か食べ物がないか探す。


「何か変な食材ばっかりね」


 赤いごぼうみたいなものや動く木製の何か。

 得体が知れないため、食べるのを躊躇させる。



「わたしの知っている食材は……りんご!」


 赤い見慣れた果物が見えたのでわたしは手に取った。



「盗んでごめんなさい、悪いのはこの世界に連れてきた神様なんです。弱いわたくしをお許しください」



 神への懺悔?も済んだので空腹を満たすためにリンゴを口へ運ぶのだった。



「いただきます! ムグムグゥ……何これ」


 りんごだと思って食べたが全く違う。

 苦く、中身が柔らかすぎる。

 腐っているとかではなく、中身も真っ赤だ。


「おい、なにをしている!」



 大声で叫ばれてわたしはビクッと飛び上がった。

 コックたちがちょうど戻ってきてしまった。

 やばい、顔が青ざめる。

 逃げようとしたとき、体がガクンとなった。

 体に力が入らず、体が一気に寒くなる。


「おい、ゴンリをローラさまが食ってしまっているぞ!」

「人間には毒だぞ! 早く医者を呼べ! 王子にも至急連絡だ!」



 周りのコックたちが一斉に動き出した。

 だがわたしは悪寒が酷過ぎてもう何も考えられない。

 あまりのキツさにまたもやわたしの意識はなくなってしまった。


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