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毒役令嬢  作者: まさかの
毒薬令嬢
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王子の護衛騎士ゼグ

これからわたしが断罪されればこの子たちは一気に底辺まで堕ちるだろう。

もう断罪は決まっているため、この子たちが不憫でならない。


「どうかしましたか?」


黄色のドレスを着たベガがわたしが返事をしないことに気が付いたようだ。


「いいえ、ただ考えることがありまして」


わたしが天を仰ぐと、赤のドレスを着たアルタイルが感激に手を合わせる。


「まあ、あのような平民に同情してあげるなんて、ローラ様はなんてお優しい!」


……貴女達の将来よ。


アルタイルの言葉に残りの二人も感激している。

まだ誰もこの計画が失敗していることを知らないため、自分はもっと上に上がれると信じているに違いない。

わたしが助けるしかないのだ。



「皆さん、これまでわたしに付き従ってくれて本当にありがとうございます」

「そんな、お礼だなんて」


青のドレスを着たデネブが感激に目を潤す。


「でもあまり人を悪く言うものではありません。わたしたちは国を背負って立つのですから、それに見合った器を身に付けなければなりません。どうかこれからは自分を見つめ直しましょう。わたしも貴女達も」


トリオは呆けてわたしを見ていた。

今のままでは分からないだろうが、一応これまでこのローラのために頑張ったので、少しでも彼女たちが変われることを祈ろう。


「わたしは少し風に当たりたいので失礼しますね」


そそくさとその場を離れた。


「おい」


急いでいるのに何よ、と思ったが無視するわけにはいかない。

声の主に振り返ると、目が本当にハートマークになった気がした。

ミルディン王子の護衛をするゼグだ。

わたしが一番好きなキャラだ。

ぶっきらぼうだが心が熱く、王子との喧嘩は名イベントの一つだ。

しかし今はわたしを敵と認識しているためか、睨みつけるようにわたしを見ていた。


ゴクリと喉を鳴らす。


これが殺気?

背中に汗が伝ってくる。

恐怖のためか体の底が冷えている気がしてきた。



「今日でお前のーーおい、泣くな!」



ゼグはわたしがポロポロと涙を流すことに気が付いてか、わたしの腕を引っ張って誰にも気が付かれることなく外へ出た。

わたしはあまりにも恐くなって涙が出てしまい、ゼグもこのようなわたしに殺気を向けることが出来ずにただわたしにハンカチを渡してきた。


「調子が狂うな。普段のお前らしくないな」

「だって……恐かったですもん」



日本に住んでいて、女性を付け狙うような屑はいるとしても、ゼグのような青年が容赦なく殺意を向けてくることなどあり得ない。

足が竦み、自分の首がいつ飛ぶのかをただ黙っているしかない。

わたしはローラに成り代わって記憶も引き継いでいるが、性格までもローラになったわけではない。

どうにか少しずつ気持ちが落ち着いてきた。


「ご迷惑をおかけしました」


素直に謝罪をした。

ゼグは心底意外そうな顔をしていた。


「一体どうしたんだ? いつもなら俺に謝るなんてことはしないのに。熱でもあるのか」

「えっ、そうですよね……えっと」


ローラの記憶を探って普段の言動を思い出す。

ゼグのことはただ従者と思っており、ミルディン王子と結婚するのだから無条件で自分にも優しくしろと思っているのだ。

普段から見下した態度を取っているので、ゼグとは仲が悪い。

それならなるべくローラっぽく、そして嫌味すぎないように言うべきだろう。



「苦しゅうない」

「はぁああ?」


大きな声で詰め寄られてまた涙目になる。

それを見てゼグはまた言葉を失った。


「なんだ急にいつも通りになったり、しおらしくなったり」

「そ、そんなことは……ありません」


ローラほどの胆力はないので、わたしは自信が無くなっていく。


「なんだかいつもと違うから聞いてみるが、どうしてあいつを害しようとしているんだ?」


ゼグの目がわたしを強く捉える。

おそらくこのゲーム世界の主人公のことを言っているのだろう。

メインキャラたちから好かれる彼女を守ろうとする意思が、自分の心を見透かそうとしてくる。


……わたしが殺そうとしているけど、わたしじゃないんです!


心の中で思ったことを言えるはずがない。

すべて転生前の自分が画策したと言っても、言い逃れするために多重人格を装っているだけと言われるだろう。

だからこれ以上心情を悪くしないように言葉を選ぶ。


「羨ましかったです。ミルディンさまの愛が独り占めできなくなるのが」


真面目な顔で空を見上げてみた。

しかし内情は恥ずかしすぎて死にそう。

キャラに成り切るのはこれほど恥ずかしいとは知らなかった。

どうにか話を切り上げたいので、あまり深い話はせずにこの場を去ろう。


「まあこれ以上無駄ですけどね。わたしは手を引こうかと思っています。わたしは邪魔者みたいですから」


困ったような顔を浮かべて見せた。

少しばかり良い人間ぽくなりすぎたかもしれないが、もうわたしはミルディン王子との結婚はしなくてもいいと間接的にも伝えれば少しはこのバッドエンドも変わるかもしれない。

だがゼグは気にも留めていないのかすぐに背中を見せた。


「あまりにも長話をしたな。主賓が長い間いないのは問題だろう。俺は王子の元へ戻る」


わたしはまだゼグのハンカチを持っていることに気付いた。

流石にわたしの涙で汚れたものを返すのは悪いので、生きていたら返そう。


……少しだけ匂い嗅いでおこう。

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