第59話 フードの男(下)
「来るわ」
「拙者が抑えますから、3人は援護をお願いします」
「了解!」
私は小声で返事をして、茶々さんの援護に回る。
敵のロボットはよく分からないいくつかの機械を体につけていて、その機械のうちの1つからミサイルのようなのが発射される。
私はなんとか躱そうとしたが、逃げ遅れて、少し体が吹き飛ぶ。
「痛った……」
私は地面に転がり込んだものの、全ての物理攻撃ダメージと魔法攻撃ダメージを半分にする【女神の微笑み】のおかげで、そこまでHPは減らなかった。
「【アラウンドヒール】」
私は自分のHPを回復する。
「【カルタフィルスの呪い】」
そして呪いスキルを発動する。運が良ければ、敵のHPを0に出来る。が私は20%を外したようだ。敵のHPを削れなかった。
「『呪い精霊召喚』【呪い】」
私の召喚した精霊は呪いスキルで、フードの男に対抗する。
「【反転(呪)】」
けっこうHPを削れたので、ここで反転を使っておく。予感というかなんというか、そろそろ敵は回復を使ってくるんじゃないかと。
ヒーラーがいなくても、ポーションを飲んだらHPを回復出来るし。ポーションの回復力はヒーラーほど高くないけどね。
私達はしばらく攻撃を続ける。
「くそ! 死ねよお前ら」
男は上手くいかないのにかなり苛立っているようだ。かなり攻撃が大雑把になっていく。
「【呪い】」
「【珠魔連打】撃ち殺すわよ」
「【蓮魔切り】」
「【アイビーム】」
ルージュちゃんは近未来都市の宝探しで手に入れたアイビームをすっかり使いこなしていた。目からビームが出て、周囲をシュゴォと破壊する。
フードの男に少し掠っただけで、それなりにダメージを与えられていた。それだけでなく、周囲の木々もかなり破壊されていた。
「俺はこんなところでは終わらねぇんだよ。俺は全てを破壊するんだ……」
フードの男はそろそろHPがやばいと思ったのか、HPポーションを使う。しかし私の反転の効果で自滅して、フードの男は死んだ。
レベルが高かったのかかなり経験値を持っていたので、私のレベルは57に上がった。
「経験値はけっこう手に入りましたね」
「なんか疲れたわね……」
ルージュちゃんは近くの木に持たれかかる。ルージュちゃんは男の落としたドロップアイテムを熱心に回収していた。
「お、これマロンちゃんの魔法銃に使えるんじゃない?」
ルージュちゃんはマロンちゃんの隣に膝をつけると、アイテムを見せる。
「これはいいかもしれないわね」
今回の敵はロボットなだけあって、機械的なアイテムを多くドロップした。私は使い道がないので、2人で分けてって感じだ。
「そろそろ行こっか」
狩りをしたり、フードの男と戦闘したりでけっこう時間を食ってしまった。空はもう日が沈みかけている。明日の朝1番に出発する予定なので、今夜は早めに寝た方がいいだろう。
私達は薄暗い夕暮れ時の森を歩く。道はそれなりに整備されているので、そこまで歩くのは苦じゃない。ここは中級の冒険者向けの狩場らしく、冒険者が狩をしやすいように道が整えられたと聞いている。
「やっぱり夜の使徒のリーダーはデュアス帝国の皇帝説は濃厚そうですね」
「夜の使徒の女が止めたっていうなら、その夜の使徒の女は、夜の使徒の中でもけっこう高い地位なんじゃない? フードの男は夜の使徒のリーダーがデュアス帝国の皇帝ってこと、知らないっぽかったし」
私は頭の中で分析していたことを言う。
「何にせよ、デュアス帝国には行ってみたいわね」
とマロンちゃん。好戦的なマロンちゃんは、私達の中で1番夜の使徒のリーダー倒しに乗り気だ。
私も倒すかはともかく実際に行って色々と確かめたいから、今日のフードの男との会話を思い出しても、行くという気持ちにブレはない。デュアス帝国は治安が悪いらしいので、若干不安はあるが……。
私達はこれからの重要そうなことから、今日の夕飯等どうでもいい話に花を咲かせていた。
「そう言えば、リアルの話とかあんまりしないよね、皆どんな感じなの?」
ルージュちゃんは唐突に言った。ルージュちゃんの言う通り、あまり私達は自分のリアルのことについての話をしたことがなかった。
「どんな感じって言われてもなあ。ゲームの私とあんまり変わんない気がする」
「そうなの? アナちゃんはリアル絶対可愛いよね。ゲームの中も可愛けど!リア充か」
「私はリア充じゃないよ、ずっとゲームしてばっかだもん」
私は友達はそんなに多い方ではないし、はしゃいでるキャラでもない。交友関係はどちらかというと、深く狭くって感じだ。学校から帰ったら家ではずっとゲーム三昧である。
「部活とかは何やってたの?」
「茶道部だよ。お菓子目当て」
「私もお菓子目当てで茶道部だよ」
和菓子美味しいよね。茶道の作法通りにはしないといけないけど、友達と話してお菓子を食べれる部活ってすばらしいと思う。
「マロンちゃんは?」
あんまり私のリアル事情を掘り下げられるのもあれなので、マロンちゃんに尋ねる。
「私? 私は趣味がサバゲーとMMORPGで、モデルガンを集めていたわ」
なんか想像つくね。マロンちゃんが嬉嬉としてサバゲーしてるところ。
「茶々さんはどうなの?」
ルージュちゃんが興味津々といった様子で尋ねる。
「拙者は居合道一筋でしたね、拙者の家が道場で、部活とかは特にやらずに、家で稽古ばかりしてました。後ゲームも好きでよくしてましたね!」
「実家が道場ってすごいね」
ルージュちゃんの言葉に茶々さんは照れ臭そうに笑う。
「あ、街が見えてきたわ」
マロンちゃんが嬉しそうに声を上げる。
「本当だ。やっと着いた」
思わず私の口から声が漏れる。ようやく森の出口が近付き、街の入り口が見えてきた。
ルヴェロの街に戻ると、予め決めていた宿へと泊まる。今度は何の変哲もない普通の宿である。それなりに綺麗で、寝るベッドがあるだけの部屋を取った。
明日の朝は早いので、すぐに眠りにつく。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
そして次の日の朝、私達は馬車の予定時刻よりかなり早く起床し、のんびりした朝を過ごす。
そして時間が来ると、馬車に乗り込む。この馬車は少し高いけど、前の夜行馬車より綺麗だし、椅子もふかふかそう。
20人くらい乗れそうな馬車の1番後ろに乗り込む。後ろの席は1番最初に着いた特権だ。
私は1番窓側にどんと座り込む。思った通り、椅子はけっこうふかふかだ。スペースもそれなりに広い。
「港町までは2日半くらいかかるそうです。着くのは明後日の昼くらいですかね」
「フェリシモ王国のイベントはまだみだいだし、丁度いい期間じゃない? 長旅を楽しも!」
「港町に着いたら、私の店もまた建てたいな。移動が楽になるし、マルも稼げるようになるし」
私達がそれぞれ長旅へのわくわく感に思いを馳せていると、馬車が出発する。窓から景色が見えるので、景色も楽しむ。見ると街の人達が何人か手を振ってくれていたので、私も手を振り返す。
馬車はガタゴトと進む。心地よいリズムで小刻みに揺れる馬車は、中々に乗り心地がよい。
隣を見ると、ルージュちゃんとマロンちゃんがうつらうつらしていた。
私は特に眠気も襲ってこなかったので、静かに窓の外を眺めていた。
見れば見る程、街は精巧に出来てるな、なんて考えていた。匂いも味も触った感触もこの世界にはきちんとある。このゲームの世界はどこにあるんだろう。
私の思考は奥深くに沈んでいく。そうしているうちにけっこうな時間が流れた気がした。
「アナちゃん! アナちゃん! どうしたの? ぼーってして」
「ちょっと考え事」
1度考え事をすると、ぼーっとして周囲が見えなくなるのは私の悪い癖だ。
「もう昼休憩だよ」
ルージュちゃんに言われて馬車の外を見ると、森の中の小屋の前で止まっていた。この馬車では乗客の負担を考え、休憩所で休憩を挟みながら行く。夜とかもどこかの小屋に泊まることになるのだろう。




