第56話 夜行馬車
ルージュちゃんからのおつかいの品を回収した私は、真っ直ぐに帰還した。一刻も早く怪しげな占い師の話を誰かと共有したい。
この衝撃は私だけで、受け止めきれない。
私は慌ただしく、ルージュちゃんの新しい店のドアを開ける。ルージュちゃんの店はもう完成していた。外観は始まりの街の店とあんまり変わらないので、すぐにルージュちゃんの店だと分かった。
中へ入ると、ルージュちゃんが商品の陳列作業をしていた。
「ルージュちゃん、おつかい済ましてきたよ」
「アナちゃん! おつかいありがと!」
「うん」
私はルージュちゃんにおつかいの品を渡す。
「ねぇ、聞いて。怪しげな占い師と出会った。それと夜の使徒のリーダーってデュアス帝国の皇帝らしいよ」
「え? どゆこと?」
ルージュちゃんはキョトンとした表情を浮かべる。
私は怪しげな占い師と会ったことやデュアス帝国の皇帝が夜の使徒のリーダーだということを詳しく説明する。
ルージュちゃんも口をあんぐりと開けて、私の話を聞く。信じられないって様子だ。
「本当なのかは分かんないんだけどね、怪しげな占い師も何かありそうだし」
「本当に夜の使徒のリーダーがデュアス帝国の皇帝ならすごいことだよ」
「とりあえず夜の使徒のリーダーがデュアス帝国の皇帝だって確証が欲しいよね」
確証なんてどうやって得るのか分からないけど。デュアス帝国に行ってみる? でもデュアス帝国は物騒なプレイヤーが多いっていうし、国自体の治安もあんまり良くないという噂だ。
「うーん、夜の使徒のリーダーがデュアス帝国の皇帝なら、デュアス帝国の皇帝倒せば、エンドの宝石を1つ手に入れられるってことだよね?」
「多分ね。でも夜の使徒のリーダーが持ってるってだけで、倒したところで手に入れられる保証はないよ」
「ならとりあえず倒してみるのもありじゃない?」
夜の使徒のリーダーかもしれない! みたいなノリで、皇帝倒しちゃう? それもありっちゃありなのか。皇帝の私物さえあれば、皇帝倒せるよね……。
問題は皇帝の私物をどうやって手に入れるかだけど。
でも直接殺すよりは私物を手に入れる方がハードルが低いはず。
フェリシモ王国での用事が済んだらそっちに取り掛かるのもいいかもしれない。丁度フェリシモ王国ではNPCキルのスペシャリストと会う予定だし。
皇帝の暗殺とか頼めば協力してくれるのではないだろうか。アラトに会った時に相談してみよう。
「んー、ちょっと考えよ」
「それがよさそう。もうすぐ店の準備終わりそうだから、それが終わったら出発しようね」
「オープンとかは大丈夫なの?」
「NPCを雇うから大丈夫。この店に転移陣置いたから、また港町でもう一軒店をたてて、転移陣セットしたら、すぐに戻って来れるし」
ルージュちゃんはフェリシモ王国への船が出てる港町にも店を建てるつもりらしい。港町に店を建てたら、色々移動が便利だもんね。
「なんか手伝うことある?」
「本当助かる。ならここら辺の店に並べて欲しい」
私の申し出にルージュちゃんは嬉しそうに笑うと、いくつかのアイテムの入った箱を指さす。
「はーい」
私はルージュちゃんの言われた通りに、装飾品をショーケースの中に入れていく。
商品を陳列していく作業はけっこう楽しい。色んな装飾品とか爆弾とかを見れるし。
元々店の準備は終わりかけだったので、二人がかりですると、すぐに終わった。
準備を終えると、私達はすぐにルヴェロに行く夜行馬車の乗り場へと向かう。もうすっかり日が沈んでいて、辺りは薄暗くなっていた。
夜行馬車は20人くらいが乗れそうな大きな馬車だ。あんまり椅子はふかふかとはいえないけれど、仕方ない。徒歩で行くより数倍楽だ。
私達は1番のりで着いたので、後ろの席から詰めて乗り込む。1番後ろの席を4人で座る。私は1番左の窓側に座り、私の隣にルージュちゃん。真ん中を開けて、茶々さん、マロンちゃんと座った。
「なんか寝ようっていう気分にもなれないね。まだ夕方だし」
ルージュちゃんが足をぶらりと投げ出しながらスマホを弄る。
なんか分かるかも。現実世界でも電車とかバスで寝るってことは少なかったし、寝れるかな。
「夜行馬車とかはけっこう揺れるらいし、寝た方が楽そうですよ」
やっぱり揺れる? 昔の馬車とかってすごい揺れたらしいよね。実際にフィアガーデンに行く時に、リーゼロッテちゃんと馬車に乗ったんだけど、それなりに揺れた。
この馬車はあんまりいい馬車じゃなさそうだし、乗り心地は覚悟しないといけないだろう。
「私は寝れそうだわ……」
マロンちゃんは昼間あんなに寝てたのに。マロンちゃんは眠たげに欠伸をする。
私達3人は馬車が出発するまで、話に花を咲かせる。マロンちゃんは出発する前から爆睡していた。
馬車は予定時間になると、出発する。馬車はほとんど席が埋まっていた。プレイヤーもNPCも乗車していて、冒険者ぽい人や旅人ぽい人、商人ぽい人等様々だ。
馬車はそれなりのスピードで進む。体感的には車より遅く、自転車よりは速い。覚悟は出来ていたけど、かなり揺れる。道とかも現代ほど整備されてないからね。森とかはもっと揺れそう。
私は乗り物酔いには強い方だと思うんだけど、酔ったら嫌だな。
馬車は瞬く間に、森の中へ入っていった。森の中へ入ると、馬車は加速した。すごいスピードで木々の隙間を通り抜けていく。
ぼんやりと窓の外を眺めていると、大きな湖が見えた。があっという間に湖も見えなくなる。馬車は車の高速道路並の速度で、走っていた。
森は道がガタガタなので、すごく揺れる。街中は少し整備されていたからか、少しましだったな。
「誰が最後まで寝れないかな?」
「縁起でもないこと言わないでください、ルージュさん」
最後まで起きてるのは嫌だ。私は早く寝るぞ、そう思って目を瞑る。丁度街の外の景色も見飽きたところだ。
「私はアナちゃんと茶々さんより先に早く寝てみせるからね」
「え、私も負けないよ!」
「拙者もです」
私は2人に対抗するようにぎゅっと力強く目を閉じる。こういう時って寝ようと思えば思う程、寝れないのよね。
寝ようと思いつつも、頭では全く関係ないことを考えていた。次の街、どんなところなんだろう。ルヴェロの街……。
そんなことを考えていると、頭がぼんやりとしていく。そしていつの間にか思考は奥深くに沈んでいった。
そして次の日、馬車の中が賑わう声で目が覚めた。目覚めると、馬車はゆっくりと街の中を走っていた。ここがルヴェロの街か。
ルヴェロの街の規模は始まりの街と同じくらいだろうか。街の雰囲気としては落ちついているように思われるが、始まりの街やミシェラの街とそこまで変わらない。
茶々さんとルージュちゃんは既に起きて、窓の外を眺めていた。
マロンちゃんはぐっすりだ。こっちは相変わらずって感じだね。
少し街を走ると、停留所のようなところで、馬車が停車する。私達はまだ寝ているマロンちゃんを起こし、料金を払うと、馬車を降りた。
時間は昼前。太陽がギラギラと輝いていて眩しい。私達は太陽の元を軽やかな足取りで歩く。
「ここがルヴェロの街ですか!」
「思ったよりこじんまりした街だわ」
私達は思い思いに感想を述べながら、はしゃぐ。
「ステラさんからの情報だと、毎朝馬車が出てるらしいよ。ミシェラの街からルヴェロの街に行くのにさっき乗ったような烏合馬車が出てるよ。ゆっくり進むから、時間はかかるけど」
「なら明日の朝まで、この街で過ごすことになりそうですね」
「そういえば、マロンちゃんとルージュちゃんは冒険者ギルドまだ行ってないよね? Dランクの冒険者カードに更新してもらえるやつ」
「ルヴェロの街の冒険者ギルド、1回行ってみようよ。もう来ることないかもしれないし」
ルヴェロの街は落ち着いた街だ。冒険者ギルドもそんな街の雰囲気のせいか、和やかな雰囲気だった。
私達が冒険者ギルド支部に行くと、受付嬢のお姉さんが和やかに歓迎し、ルージュちゃんとマロンちゃんの冒険者カードをDランクに更新する。これで私達4人はDランクになったというわけだ。




