第23話 繊月戦決着
「中々しぶといなあ。なら回復役の君から殺そうかな」
繊月は狂ってはいるが、回復役から倒そうとかいう考えはあるらしい。狙いを私に変えてきた。暗殺者は動きがすばやい。一気に距離を詰めてくるが、茶々さんが繊月のナイフを刀で受け止める。ありがとう、茶々さん。
「あなたの相手は拙者ですよ」
「【呪い】『ダークアラウンド』」
クールタイムが切れたので、呪いをかける。暗闇状態にしようとしたが、『ダークアラウンド』は避けられてしまった。繊月は後ろに下がる。
「ならこうしよう」
茶々さんは後ろに下がった繊月を追いかけ、刀で攻撃する。すると繊月はナイフで刀を受け止め、ナイフを持つのとは逆の手で、針のようなものを取り出して、茶々さんを刺した。
「うっ……」
「どうかな?ロイサソリの毒は」
繊月は茶々さんを刺した毒針を手で弄ぶ。毒を受けると、毒状態となり、毒のダメージを受ける。受けるダメージの量や効果時間等、細かいことは毒によって変わるが。毒を食らってから茶々さんのHPは10秒毎に50のダメージを受けている。
繊月は毒状態の茶々さんに、さらにダメージを与えようとする。が、そんなことはさせない。
「『闇精霊の導き』」
私の呼び出した闇精霊が闇属性の魔法で攻撃する。
「ちっ。次から次へと邪魔ばかり」
私の精霊達の攻撃に繊月は鬱陶しそうに苛立った声で言った。注意がこっちに向いてくれるならいい。この策が上手くいくといいんだけど。
私は繊月の左手目掛けて、通常魔法攻撃を連発する。繊月はそれを全て躱したが、毒針を下に落とした。
「この毒針が怖い? 毒針ならいくらでも予備があるよ。僕の毒をたっぷり味わってね」
繊月は嘲笑いながら私を見る。
「マロンちゃん、茶々さんをお願い」
「分かったわ」
今茶々さんの1番近くにいるマロンちゃんに茶々さんをお願いする。
2人が撤退出来るように私は魔法攻撃を何発か打つ。すると案の定、繊月は狙いを私に変えてきたので、私は繊月が近付く寸前に自分の近くに爆弾を投げる。
爆風で前が見えなくなるが、一気に走る。さっき繊月がいた場所まで。確かこの辺りのはず……。あった! 私は目当てのものーー繊月の落とした毒針を拾った。
「小賢しいまねをしているようだけど、これで終わ……」
繊月が私へと一気に距離を詰めようとしたが、動きが止まった。私が藁人形のポケットに繊月の毒針を入れ、五寸釘をかなづちで打ったからだ。繊月は物理攻撃力が高いから、それなりのダメージになるはず。私は何回も何回もかなづちで打つ。
「何をした……」
繊月のダメージはどんどん減っていってる。私は繊月の言葉を無視し、藁人形を打ち続ける。
繊月は藁人形の痛みに耐え、私に襲いかかろうとかしたが、ルージュちゃんが爆弾を投げて阻止してくれた。ナイスアシスト。
藁人形は敵の体の1部か持ち物があれば、敵に呪いダメージを与えられる。さすがにあのナイフを手放させるのは無理だと思ったけど、毒針くらいなら落としてくれると思ったのだ。
藁人形を打ち続けると、繊月のHPは残り僅かになっていた。
「このようなことで……。夢魔様……僕はあなたに永遠に……」
繊月は何やら小声で呟いていた。が、やがてHPが0になり、経験値とアイテムを落として消滅した。経験値が多かったので、レベルが一気に25になった。
ーーオンリークエスト「繊月の討伐」をクリアしました。
戦闘を終えた私達は慌てて茶々さんに駆け寄る。
「大丈夫!?」
「もう毒の効果は切れていますよ」
良かった。もう毒の効果は切れたのね。茶々さんのHPは残り3分の1くらいになっていたので、私は何回か【アラウンドヒール】をかけた。
「回復ありがとうございます」
「いえいえ、敵を引き付けてくれてありがと」
「アナちゃんの藁人形凄かったよ」
「繊月が毒針を落としてくれて良かったよ」
繊月が毒針を落としてくれなかったら、危なかったかもしれない。
「アナの藁人形はすごいのね」
マロンちゃんが私の藁人形をまじまじと眺める。
藁人形の頭をポンポンと撫でた。今日のMVPは君だよ……。藁人形の破格の性能を改めて実感した。繊月は間違いなく格上の相手だったけど、藁人形で打ったら楽に倒せちゃったからね。
「それにしても……、墓場をめちゃくちゃにしちゃったね……」
ルージュちゃんが墓場を見回しながら言った。今回の戦闘で墓石はいくつか破壊されてしまった。ごめんよ、村の先祖達。この村を外敵から守ったから許してね……。
「不可抗力だよね……」
「まあそういうこともあるわ。戦闘に破壊は伴うものよ」
墓場なんてどうでも良さそうな顔のマロンちゃん。なかなかに鋼のメンタルをしていた。墓場を荒らすとバチが当たるとかよく言われるけど、迷信とか信じないタイプなのだろうか。私はちょっと信じちゃうんだよね。
「こればっかりは仕方ないですね。ドロップ品はどうします?」
「村長さんの家の部屋で話そうよ」
ルージュちゃんが疲れた顔で言った。私もちょっと疲れたし、楽な体勢になりたい。
「疲れたし、座りたいよね」
「そうね」
私達は全会一致で、まったりしながら話し合いをしようとなった。墓場に長居なんてしたくないもんね。
私達が村へ引き返すと、家の中に引きこもっていた村人達が家から次々と出てきた。
「繊月を倒してくれたのか!?」
「あ、はい。繊月はもう倒したので安心してください」
すごい勢いの村人達に迫られ、しどろもどろになりながら答える。こんなに大勢の人に話しかけられる経験はあまりないので、びっくりしてしまったのだ。
「ありがとうございます!」
「ありがとう、冒険者達」
村の人達が次から次へと感謝の気持ちを口にする。どういたしまして。こんな風にお礼を言われると、照れくさいというかむず痒いというかなんというか。けっこう嬉しいかも。
「良かったらこれ貰ってください」
「これもどうぞ」
村人達がお礼にと食料や花や布といったものを差し出してくる。せっかくなので私達も有難く受け取る。
「冒険者殿、なんとお礼を言ったらよいか……。感謝する」
人の山を掻き分けて、やってきたのは村長さんだった。村長さんは丁寧に頭を下げて、お礼を言った。
「どういたしまして」
「村人達からのお礼を受けてくれ。それからわしからもお礼がある。今晩もわしの家に泊まっていくだろう?」
「そのつもりです」
「なら今夜は遅い。明日改めてお礼をしよう」
村長さんのその言葉を仕切りに、村人達からのお礼の品の配布が再開された。手に山のように物が乗っけられてきた。中には何なのか分からないものもあった。
村人達のお礼コールを終えると、村長宅に帰宅する。私達はげっそりしていた。あんなに大勢の人に囲まれるのに慣れていないので、疲れた。
「ドロップ品を分けましょう!」
疲れているけど、ドロップ品は今日分ける。ガチャチケットとかもあるし、ドロップ品のために繊月の討伐を頑張ったってのもあるからね。
「まずは、称号ですね。【夜の使徒に抗うもの】は4つありますし、1人1つずつで良さそうですね」
他にも4つドロップしたものは1人1つずつ分けた。村人達にもらった食料とか布系はよく分からなかったので、トレーダーのルージュちゃんにとりあえず預ける。
後残っているのは、1つしかドロップしなかったスキルやアイテム等などだ。これについての話合いをする。
「あ、私このSR【毒爪】欲しい」
ルージュちゃんが欲しがったのは【毒爪】スキル。他に欲しがる人がいなかったので、ルージュちゃんにあげることになった。
「私はこのUR【呪浄化】が欲しい!」
このスキルは呪いスキル持ちの私にぴったりの効果のスキルだ。これも異論が出なかったので、私が貰う。
スキルUR【呪浄化】
呪い状態のアンデッド系の敵を浄化することが出来る。
MP+100のステータス補正が付くし、アンデッド系に有効なスキルだ。始まりの街に帰ったら、アンデッド系の魔物にチャレンジするのもいいかもしれないと考えていた。
「私はこのSSRの【夜の指輪】が欲しいわ」
「それは拙者も気になっていました」
欲しいのが被ったので、2人はじゃんけんをしていた。じゃんけんで勝ったのはマロンちゃん。茶々さんは少ししょんぼりしていた。
その後も、私達のドロップ品争奪戦じゃんけん大会は夜中まで続いたのだった。
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