第22話 繊月現る
下見を終えた私達は、4人での戦闘の練習をしようとなった。この辺りにそんなに強い魔物はいないので、アレラム村より奥の方の森に行くことにした。その奥の方もそんなに強い魔物はいないけど、しょうがない。
アーチャーの戦いを見るのは初めてなので、マロンちゃんの戦いを見せてもらう。マロンちゃんは魔法銃を使っているらしく、銃を打つと、光の弾丸が銃口から飛び出す。バンという音が響き渡った。サイレンサーを使ってるらしいが、完全に音は消えないようだ。
天の邪鬼な私は銃を間近で見て、銃もかっこいいなあなんて思っていた。残りの2人も銃に見とれていた。マロンちゃんはというと茶々さんの刀さばきを見て、感動していた。茶々さんの刀の腕前はすごいよね……!
私達の隊形については、茶々さんとルージュちゃんを前衛に、私とマロンちゃんが後衛かなという話になった。私やマロンちゃんは後衛職だし、茶々さんは前衛職だもんね。
ルージュちゃんは爆弾のイメージが強いけど、強い爪のスキルを持ってるし、装備は爪がでるグローブだもんね。職業は獣人だし、バリバリの前衛だ。獣人は確かHPと物理攻撃力と物理防御力が2倍になる種族だったはず。
私達の対繊月戦は、まず茶々さんの刀で敵の注意を引き付けつつ、ルージュちゃんが爪で攻撃したり、爆弾を投げたりする。ルージュちゃんは自分とパーティメンバーに爆弾無効効果を付与するギフトを持っているから、私達に被弾しても安心だ。
マロンちゃんは魔法銃で援護。で、私が呪いとか防御力下げたり、回復とかする。こんな感じでやるつもりだ。
そこまで具体的じゃないけど、私達は皆女子高生で、戦闘経験豊富なわけじゃない。こんなもんだろう。ゲームのボス戦とかでもそこまで繊密な作戦を立てたことはないし。
4人もいたら、何とかなる気がしてきた。作戦もバッチリ立てたしね。この作戦に基づいて、近づいてくる狼やスライムで、シュミレーションした。
この辺りの狼やスライムはそんなに強くないので、あんまり作戦を活かせなかったけどね。私達が援護する前に茶々さんが倒しちゃったり、マロンちゃんの魔法銃で瞬殺しちゃったりとかしてね。
でも狼の群れが現れた時は、私達の作戦を活かして、連携を取りながら戦えたと思う。中々いいコンビネーションだったんじゃないかな。
シュミレーションを終えた私達は村長さん宅に帰還した。泊めてもらうためだ。部屋はあまりないらしく、4人1部屋となったが、ベッドは1人1つあるし、それなりに広いので不満はない。
部屋で寛いでいると、村長さん宅のお手伝いさんが夕飯を運んできてくれたので、4人で頂く。
何だか修学旅行にでも来た気分だ。ちょっと楽しいかも、なんて思ったりした。
「明日の夜かあ、私はオンリークエスト初めてなんだよね。繊月との戦いドキドキしてきた」
「私も。魔物とは戦ってきたけど、NPCとはいえ人との戦いは初めてだなあ」
私達は明日の戦いを前にそわそわする気持ちがあった。これから人を倒すとはいえ、向こうはNPCだし、犯罪者みたいなやつなので罪悪感はない。
「人との戦いは経験あるわ。前に盗賊を倒したことがあるの」
「盗賊? 依頼かなにか?」
私はパンを頬張りながら、疑問を口に出す。
「いいえ、道に迷っていた時に出くわしたの。初日だったかしら」
マロンちゃんはよく道に迷っているようだ。私達は何と返していいのか分からず、一瞬シーンとなったが、すぐにフォローを入れる。
「そういうこともあるよね……」
私のはよく分からないフォローになってしまった。
まだ日が浅いので、迷うことに関してはどう突っ込んでいいのか分からない……。
「明日はどうする?」
明日は戦いに備えてまったりしたいかも。
「戦いに備えてゆっくり寝る!」
「それがいいかしら」
「今日は疲れましたし、拙者もゆっくり寝たいです」
睡眠は大事だよね。ゆっくり寝て備えたい。私の意見に3人とも賛同してくれた。
私達は食事を終えると、すぐに就寝する。ゆっくり寝て、HPとMPを万全の状態にするのだ。HPとかMPとかはポーションを飲む以外にも、寝たりリラックスしたりすると回復するからね。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
そして次の日の晩、私達は不安そうな顔の村人達に見送られ、繊月が現れるという墓場に来ていた。この日は昼くらいまで寝て、その後は昼ごはんを食べて、準備運動もしたし、コンディションはばっちりだ。
そろそろ約束の時間のはずだけど、繊月の姿は見えない。私達はどこかに隠れているかもしれない、と周囲を警戒する。
「約束の人数より少ないようだね」
そんな時、音も無く現れたのは、黒い外套を来た男の人。フードを被っているから顔はよく見えないが、この人がおそらく繊月だろう。念の為鑑定を使ったが、私よりレベルが高いためか、鑑定出来なかった。
この人がここまで来るのに足音も聞こえなかったし、気配も全くなかった。それにレベルも高い。繊月は今まで戦ってきた魔物よりも遥かに強い、そう確信する。
「10人の命を差し出せって言ったみたいだけど、あなたなら村人達を殺すことくらい出来るでしょ。何が狙いなの?」
私は戦う前に、気になることを尋ねた。答えてくれたらいいな、くらいのつもりで。
「村人達は皆殺しにするつもりだよ。10人の命を差し出しても差し出さなくてもね。僕は村人達が誰を生贄にするのか争う醜い姿を見たかっただけさ」
繊月はククって笑った後、そう答えた。繊月の解答に私はある意味納得した。夜の使徒は狂った人が多いと言う。そして狂人揃いの夜の使徒に関わったものは皆殺しにされるとも言われている。
村人達を皆殺しにするのではなく、何故10人の命だけを差し出させるようなーーそんなまどろっこしいことをするのか不思議だった。けれどそれには理由があった。村人達が争う姿をみたいという正気じゃない夜の使徒の一員らしい理由が。
繊月はフードの下から、狂気に満ちた瞳でこちらを見つめていた。やっぱり狂ったやつだったのね。それならこっちも遠慮しなくていい。
私達は頷きあうと、茶々さんが刀を抜いて、飛びかかる。すると繊月はナイフで、茶々さんの刀を防ぐ。私達3人も援護する。
「【破滅の旋律】」
私は呪いのスキルを発動した。地面から音符から浮かび上がり、繊月に命中する。繊月のHPバーを見ると、呪いダメージでHPが減っていっているのが分かる。良かった、呪いはちゃんと聞いてるみたい。私は少し安心した。が、一息ついている暇はない。私はデバフをかける。
「『防御力デバフのプレゼント』」
マロンちゃんは銃で援護する。たくさんの弾丸が繊月に向けて放たれた。バンバンと銃声が響き渡る。
ルージュちゃんも爆弾を投げる。ドカーーンと大きな音を立てて、爆発する。爆風がすごい。
爆風が収まってから繊月達の方を見ると、繊月が茶々さんを押していた。繊月のナイフの技量は茶々さんの刀の技量を上回っている。繊月は銃や爆弾を器用に避けながら、茶々さんとナイフで撃ち合っている。すごい腕前だ。
私達は繊月だけを狙って攻撃するが、繊月には全然あたらないし、余裕そうだ。私も通常攻撃魔法を打つが、繊月の動きが早いので、あたらない。4対1でこれだっていうの? 繊月は私の【破滅の旋律】以外のダメージは受けていない。
「【呪い】」
私は【破滅の旋律】の効果が切れたところで、次の呪いスキルを発動した。これは1度でも自分がダメージを与えた敵なら確実に、1分半呪いをかけられるスキルだ。攻撃があたらないなら、地道に呪いを掛け続けて殺すしかない?
後繊月のHPは半分。時間を稼ぎながら、ちびちび呪いをかければいけるかもしれない。【呪い】スキルはクールタイムが3分あるので、途方もない時間がかかりそうだけど。
そう思っていたら、繊月の方も新たな動きが出た。茶々さんじゃなくて、後衛から殺すことにしたらしい。ルージュちゃんに襲いかかろうとかした。
「【殺意の爪】」
ルージュちゃんは新しい爪スキルで、対抗しようとしたが、繊月はまずいと判断したのか引いた。
「中々やるね。面白くなってきた。君達のようなものが絶望に染まる顔……、楽しみだよ」
繊月は楽しそうに嗤う。そして後ろに引いて、息を整え、ナイフを振り上げる。
「『真蓮斬』」
その刹那、飛ぶ無数の斬撃が私達を襲う。早くて、全部は避けきれない。いくつか攻撃を食らって、ダメージを受けた。
「『アラウンドヒール』」
私はスキルで、自分と味方のHPを回復する。