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第21話 迷子のアンドロイド

「助かる! 感謝する……!」


 ほっとした顔の村長さんと村長の側近さん。私達に謝礼の意味を込めてなのか、深く頭を下げた。


「繊月について分かっていることを教えて貰えますか?」


 少しでも多く繊月についての情報を集めたい。どんなスキルを持っているのかとかね。どんなスキルがあるのか分かれば、対策のしようがあるし。


「繊月は暗殺を得意としていて、ナイフを使いこなしているということくらいしか……」


 村長さんはうーんと、考え込むような仕草をする。繊月についての情報を捻り出してくれているらしい。


「ナイフですか……」


 ナイフってことは近距離物理攻撃型の可能性が高いのかな。遠距離攻撃がないなら、遠くから呪いをかけたり、爆弾投げたりしたら何とかなりそうな気がするけど。近付かれた時は茶々さんの刀に何とかして貰って。


「繊月は魔法とかは使ったりしないんですか?」


 私が代表して、村長さんとやり取りをする。誘いのスライムを実際に倒したのは私なので。


「魔法は使うという話は聞いたことがないな」


 魔法は使ってこないと。魔法を使ってこないなら、まだ楽だ。ナイフを使うだけじゃなくて、魔法まで使ってきたら厄介極まりない。


 それから私には他にも気になることがあった。それは10人の命を何のために貰おうとしているのかだ。誘いのスライムを倒した償いとか言っていたらしいが、それだけとは思えない。


 それにただ欲しいだけなら、力づくで奪えばいいのに、どうして10人の命を差し出せなんて村長さんに言ったんだろう。


「10人の命を差し出させるには何か目的があるのでしょうか?」


「すまぬが、分からぬ……。用件だけ告げて去っていってしまった……」


 村長さんは繊月のことを思い出したのか、体を震わせながら言った。繊月が余程怖かったらしい。これ以上聞いても有力な情報は得られなさそうだ。


「そうですが、分かりました。なんとか倒してみましょう」


「頼む⋯⋯」


 深くお辞儀をする村長さんとその側近に見送られ、私達は部屋を出た。今夜はこの家に泊まっていいと言われたけど、繊月が来る予定の墓場を下見しておきたかった。来るのは明日の夜みたいだし、まだ時間はある。


「ナイフ使いって危険そうな響きだよね」


 村長さんの怯えた顔を見たからか、ルージュちゃんは少し不安そうだ。


「最初に選べる職業で、アサシン(暗殺者)ってあったじゃん。そんな感じなのかな?」


 私達は最初の職業で、アサシンも選べた。アサシンはPVPが強いと言われている職業で、人気職の1つだ。街でもアサシンはよく見かける。


「そんな感じかもね。どうやって倒す? こんな時に備えて、大量の爆弾の用意はあるけど!」


 ルージュちゃんは村長さんの話で怖がっているかと思ったけど、そんなことは全くなかった。むしろやる気は満々みたいだ。目がぎらついている。


 私達は作戦会議をしながら歩く。墓場までは少し距離があった。村の外れにあるから、それなりに歩かなくてはいけない。


「拙者の刀で、敵のナイフを受けきれればいいのですが⋯⋯」


 茶々さんも敵への闘志に燃えていた。


 そんな話をしている時、右手の方には始まりの森が広がっているのだが、その森の茂みが揺れた。それに茂みから人の気配がする。


 繊月かもしれないと一瞬私達は身構えたが、茂みから現れたのは疲れきった顔のプレイヤーの少女だった。種族は多分人間かな。人間ぽい見た目の種族はいくつかあるから断言は出来ないけど。


「人を見つけた……」


 プレイヤーの少女は私達を見ると、もう力尽きたというように地面に倒れ込んだ。え、この子大丈夫?


「どうしたんですか? 大丈夫ですか?」


 私達は慌てて駆け寄る。


「道に迷って、もう2日くらい何も食べてないの……」


  2日も食べてないって相当だ。えっと……、何か食べる物は……。私は慌ててカバンを漁ったが、食べる物系はルージュちゃんが所持していることを思い出して、手を止めた。


「え! これ食べなよ」


 私達が慌てていると、ルージュちゃんはアイテムボックスの中から食べる物を見つけたようだ。ルージュちゃんがたくさん持ってきたサンドウィッチを少女に分けてあげる。少女はサンドウィッチをすごいスピードで食べ始めた。


 試しに少女のステータスを鑑定しようとしたが、私よりレベルが高いのか見ることが出来なかった。


 少女はあっという間に食事を終えると、幸せそうな顔をして言った。


「ありがとう、助かったわ」


「いえいえ、どういたしまして。道に迷ったんだっけ?」


 ルージュちゃんが尋ねる。森は広いから、変な茂みとかを歩いていたら迷うのは無理もないかもしれない。整備された道は街に繋がってるから、整備された道を辿っていけば、街に辿り着けるんだけどね……。


「そうなの。地図が上手く読めなくて。この地図の通りだと、上に行けば街に着くと思ったのだけれど」


 少女は困った顔をして首を傾げる。あ、この子、方向音痴っぽい。私達が来た道を辿れば、アレラム村に辿り着くはずだけど……。何か心配だ。


「墓場にいった後、村にいくつもりだけど、着いてくる?」


 ルージュちゃんも同じことを思ったのか、少女に同行の提案をする。その提案に少女はぱあっと顔を輝かせる。


「いいの?」


「うん、旅は道連れっていうし!」


「ありがとう、自己紹介がまだだったわね。私はマロン。よろしく」


 マロンちゃんはにこりと微笑んだ。この金髪をポニーテールに束ねた少女はマロンちゃんと言うらしい。よく見ると、銃っぽいの持ってるし、アーチャー(弓術士)かな?


「私はルージュ、よろしくね!」


「私はアナスタシアです。よろしくね」


「拙者は茶々です」



 私達も自己紹介をする。その後、パーティリーダーになっている私がマロンちゃんを招待する。マロンちゃんの職業を見ると、やっぱりアーチャーだった。


 それから種族は人間じゃなくて、アンドロイドだった。アンドロイドは見た目はほとんど人間と変わらないから、分からなかったよ。ちなみにアンドロイドは物理攻撃力と物理防御力が3倍になるという職業だ。



「皆はどうしてお墓にいくの?」


 マロンちゃんが不思議そうに首を傾げる。確かにお墓に向かうなんて中々ないよね。1人はゴスロリで、藁人形持ってるし。でも藁人形にお墓って合いそうじゃない?


 私がそんなどうでもいいことを思考している間に、茶々さんがことのあらましを掻い摘んで説明してくれた。


「オンリークエストなのね。面白そうじゃない。私も繊月とかいうのとの戦いに参加してもいいかしら?」


 マロンちゃんは興味津々といった雰囲気だ。未知数の敵だし、戦力が増えるのは大歓迎だ。


「是非ぜひ! マロンちゃんはアーチャーだっけ?」


「そうよ。この銃で敵を倒すの」


 私が尋ねると、銃を見せてくれた。本物の銃……! 初めてこんなに近くで見た。マロンちゃんが持っていたのは小型の片手で持てるタイプのやつ。ハンドガンって言うんだっけ。


 私達は銃が珍しくてまじまじと眺めていた。そんな私達を見て、マロンちゃんはクスクス笑う。


「銃が珍しい? このゲームだとけっこういると思うのだけれど。私からしたらあなたの藁人形が珍しいわ。面白いものを持っているのね」


 マロンちゃんは私の藁人形に興味津々といった感じで、覗き込む。これは私オリジナルの武器だからね。元はアイテムだし。


「これはアイテムを武器に変えたものだから」


「そうだったの」



 私達は少しお互いのことを話し合うと、墓場へ歩くのを再開した。しばらく歩くと、墓場が見えてきた。


 墓場はしーんと静まり帰っていた。たくさんの墓石が置かれていた。これだけの人がここで眠っているのね。


「ここに繊月がやってくるのかあ。墓場ってなんか嫌な感じがするね」


「墓場にはアナちゃんのが合いそうだけどね! 藁人形だし、呪いだし」


藁人形持ってるし、呪いも使うけど、墓場にいた所でなんのご利益もないからね……。


 私達は下見に来たので、一応墓場を散策して、地理なんかを把握する。いざとなった時に隠れたり、不意をつくことが出来る場所を探すために。


 といってもここは墓石が広がっているだけで、他には何もない。隠れるっていっても墓石の影に身を隠すくらいしか出来なそうだ。


 私達は一応逃げ道も確保しておく。最悪敵がこっちからきたら、こっちに逃げようみたいな。マロンちゃんだけは不思議そうな顔をしていた。大丈夫だろうか……?


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