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第20話 アレラム村

 次の日の朝、私とルージュちゃんはアレラム村に向かうため、始まりの森を歩いていた。周りの魔物はそんなに強くないので、多少は周囲を警戒しながら歩いているが、基本的には和やかな雰囲気だ。


 魔物に出会うと、ルージュちゃんは新しいSSRの【殺意の爪】スキルを試し打ちしていた。そのスキル強いね。獣人に合ってるスキルだ。


 寄ってくる魔物をたまに蹴散らしながら、私達は全然関係ない雑談で盛り上がっていた。



「アナちゃんはお餅はどうやって食べる? 私は磯辺巻きにして醤油をかけて食べるのが好きなんだよね」


「私はぽん酢につけて食べてる。ぽん酢とお餅は会うよ」


「そうきたか! ぽん酢派は初めて聞いた」


「誰にも共感して貰えないんだよね、お餅をぽん酢で食べるのは私だけ?」


 そんなどうでもいい話で盛り上がっていた。なんでお餅の話になったんだっけ……。そうだ、思い出した。スライムを倒して、スライムがお餅みたいって所から話が飛躍したんだ。


「なんでぽん酢?」


「ぽん酢は何にでもあうよ! 豆腐とかにかけても美味しいし」


「え、豆腐は醤油だよ!」


 そんな話をしていた時、見覚えのある後ろ姿を見かけた。あの和服に黒髪にあの刀……。茶々さんじゃない?


「どうしたの? あの人と知り合い?」


 私が茶々さんのことを見詰めていると、ルージュちゃんが不思議そうに私の顔を覗き込んでくる。


「茶々さんだと思う」


「あの、居合道習ってる刀がすごい人?」


「そうそう」


 私の声が聞こえたのか茶々さんは振り返って、こっちの方を見る。そして私に気付くと驚いた顔をした。私は少し迷った後、こちらから声をかけることにする。


「茶々さん久しぶりです。2日ぶりですか?」


「アナスタシアさん! こんなところで会うとはびっくりしました」


「初めまして! 私はルージュで、アナちゃんのパーティメンバーです」


 ルージュちゃんはぺこりと茶々さんに挨拶する。


 ルージュちゃんと茶々さんは初対面だもんね。ルージュちゃんには茶々さんのことを色々話したけど、会うのは初めてだ。


「拙者は茶々と言います。お見知り置きを。2人はどちらへ?」


 茶々さんはルージュちゃんの挨拶に丁寧に返して、私達の行き先を尋ねる。


「私達はアレラム村に行く途中です」


「拙者もアレラム村に行くつもりでした。同行してもいいですか?」


 同行者が増えるのは大歓迎だ。ルージュちゃんも茶々さんに興味持ってたし、歓迎ムードっぽい。


「是非一緒に行きましょ!」


「いこいこ!」


 こうして同行者を増やした私達は、のんびりと歩みを再開する。ルージュちゃんと茶々さんは初対面なので、自己紹介し合っていた。


「え、ルージュさんはトレーダーだったんですか?」


 茶々さんをパーティメンバーに招待すると、ルージュちゃんの職業の所を見て、茶々さんは驚いていた。トレーダーが戦うってけっこう珍しいもんね。


「うん、戦えるトレーダーだよ」


 ルージュちゃんが笑顔で答える。


 ルージュちゃんと茶々さんも打ち解けたみたい。ルージュちゃんは砕けた口調で話している。茶々さんはキャラ的に敬語を維持していたいらしく、敬語のままだ。


 これがくのいちの話し方だと言っていた。私にはそのくのいちの話し方とやらがよく分からない。でも本人がそれでいいならそれでいいと思う。


「トレーダーとエンチャンターのパーティなんて初めて見ました」


「中々レアだよね」


 戦うトレーダー自体レアだし、エンチャンターも職業人口は少ない方なので、トレーダーとエンチャンターの2人パーティはかなりレアだろう。トレーダーとエンチャンターはバランスがいいかと言われると微妙なところだし。


 ルージュちゃんと私は爆弾と呪いって感じで、それなりにバランスは取れてたと思うけど。


「くのいちが加わったらバランスかなりいい感じじゃない?」


「茶々さんの刀とアナちゃんの呪い、それから私の爆弾でいい感じかも」


「確かにそうですね」


 近接物理の刀と、遠距離物理の爆弾、遠距離魔法系の呪いはかなりバランス取れてると思う。ルージュちゃんは爪があるから、近距離も出来るし。



 そんな風に話していると、スライムがやってきた。相変わらず気持ち悪いね……。リクさんのスライム以外で可愛いスライムを見たことがない。リクさんのあれは特殊なスライムらしいけど。


「3人での連携を試してみない?」


 ルージュちゃんが提案した。いいね、3人での連携を試したい!


「いいですね。まず拙者が切りかかるので援護をお願いします」


「おっけーー」


 茶々さんが刀でスライムに切りかかる。茶々さんが切りかかったら援護を、と思っていたが、ここで問題が発生した。スライムが弱すぎた。そして茶々さんが強かった。


「「「……」」」


 一瞬シーンってなる。連携の練習は始まりの森の魔物じゃ無理そうだね。


「また強い魔物が現れたらやろっか」


「そうだね」


「ですね……」


 私達はその後も森を歩き続けたが、アレラム村に着くまで強い魔物とは出会わなかった。


 アレラム村はまさに物語に出てきそうな昔の村って感じだった。農地があって、村の人が暮らす小さな家があって、広場なんかもある。小さな村だった。


 小さな村だけど、何だか慌ただしい。何かあったのかな。村人達はピリピリした雰囲気だ。


 私は見知った顔のNPCーークルーシャを見かけたので、声を掛けてみた。


「クルーシャさんお久しぶりです」


「この間村を救っていただけた冒険者の方ではありませんか!」


 クルーシャさんが大きな声で、私に挨拶して、ぺこりと頭を下げる。すると他の村人達もざわざわし始めた。何か視線を感じる。私達は注目されてるようだ。


「お主たちが誘いのスライムを倒してくれたものか。礼を言う」


 騒ぎを聞きつけたのか、村人達の間を掻き分けて、村人達の中でも偉そうなお爺さんが現れた。そしてその村人の代表ぽいお爺さんが頭を下げる。他の人達よりいい服を来てるから、それなりの地位の人だと思う。この世界のそこら辺の事情はよく分からないけど。


「どういたしまして」


「お礼をしたいから、わしの家に来てくれないか。わしはラギ。この村の村長をしている」


「じゃあお邪魔させてもらいます」


 お礼をしてくれるというなら、特に断る理由もない。私は一応この村を救ったわけだしね。


 村長さんと村長の付き添いの人の案内の元、村長さん宅に向かう。少し歩いた所に村長さんの家があった。村長さんの家は他の村人の家に比べると大きくて、豪華だった。豪華っていっても、始まりの街の家とか店と比べると地味だけどね。


 中にお邪魔すると、客間のような所に通された。椅子を勧められたので、私達は座る。向かいに村長さんも座った。


「まずこれは誘いのスライムを倒してくれたお礼じゃ。受け取ってくれ」


 村長さんの付き添いの人がお金の入った袋と豪華な装飾品を置いた。え、こんなにいいの? 村長さん太っ腹! 私は村長さんは気前の良さに感心していた。


 驚いた顔の私達に村長さんは満足顔。そして村長さんは言葉を続ける。


「そしてお願いがあるのじゃ……。この村に現れた夜の使徒の一味である繊月という男を倒して欲しい」


 あ、前言撤回。ただお礼をくれるだけじゃなかったね。このお金と装飾品はお願いごとを聞いてもらうためってことだ。


 夜の使徒かあ。私が前倒した誘いのスライムは夜の使徒の一員である十六夜の元ペットだったはず。十六夜に捨てられたんだっけ。何か関係あるのかな、やっぱり。


「その繊月って人は、前の誘いのスライムと何か関係があるんですか?」


「繊月は十六夜の部下だっていうことくらいしか……。誘いのスライムとの関係は分からない」


「どうして繊月を倒してほしいと?」


「実は昨夜村に繊月が現れてな。誘いのスライムを倒してしまったお詫びとして、村にいる10人の命を差し出せと言ってきたんじゃ」


 村にいる10人の命を差し出せ……か。この村を洗脳していたスライムを倒したら、お詫びをしろって無茶苦茶な……。それで今日村はあんなにぴりぴりしていたのね。


「繊月は明日の夜、村の奥にある墓に現れるらしい。頼む。そこで繊月を倒してくれないか?」


ーーオンリークエスト「繊月の討伐」を受けますか?


ーーYes or No?



 繊月を倒して欲しい……か。私達はゲームが始まってそれなりに強くなっていると思う。それにアレラム村は始まりの街から近い。ゲームが始まってから1週間で到達する距離だ。そんなにクリア出来ないほど難しい難易度じゃないはず。最悪、逃げるなり破棄するなりすればいい。


 茶々さんとルージュちゃんに視線を送ると、2人とも力強く頷く。


「繊月の討伐を引き受けましょう」


ーーオンリークエスト「繊月の討伐」を受注しました。


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