第19話 ギルド勧誘
私達は2人並んで店を出る。
次に行くのはルージュちゃんおすすめのプレイヤーショップだ。この店のトレーダーはゴールドスミス(金細工職人)のプレイヤーから装飾品を買い取って、店に並べているらしい。
プレイヤーが作った装飾品は興味ある。それにトレーダーショップにないものがあるから、掘り出し物を探しに行くのだ。いいのがあったらいいな。
豪華な雰囲気のプレイヤーショップに入る。店内は煌びやかな装飾がされおり、とても豪華だ。あまりにも豪華なので、圧倒される。場違い感がかなりあるね。
少し居心地の悪さを感じながらも店内にある装飾品を見る。指輪や髪飾りやイヤリングやネックレス等色々置かれていた。中には呪い系に使えそうな性能のもあった。
でも全体的に金額が高い。その分性能も良さそうだけど。靴と靴下で大金を使ってしまったので、またお金を貯めて来ようと思う。私は少しがっかりしながら店を出た。
「すごかったね、いかにも高級店って感じ。あんなの初めてでドキドキしちゃった」
「ね。店員さんのオーラもすごかったね……」
私達は高級店を見ただけで、げっそりと疲れた気分になっていた。
「次はどこ行く?」
「あそこの鍛冶屋見てもいいかな?」
「いいよ」
そう言えば、私は鍛冶屋をちゃんと見たことはないかも。何軒か巡ったことはあるけど、その時は魔杖化してもらうためだったしね。中の武器は見ないで帰ってしまったのだ。今度はじっくり中を見させて貰おうと思いながら店に入る。
私達が入ったのはドワーフのおじいさんがやっている。鍛冶屋巡りをする時、私が1軒目に行った店だ。
中に入ると、ルージュちゃんがいい爪を物色し始める。私もルージュちゃんの武器を探すのを手伝う。
「あ、これなんかどう? かっこよくない!」
私はデカくてかっこいいのを指さして、ルージュちゃんに知らせる。これで攻撃されたら痛そう。
「かっこいいけど、不便そう。収納出来るタイプの爪がいいの」
確かにこれは不便か。この爪付けて物を持とうとしたら、物が壊れそうだもんね……。
爪にはいくつか種類があって、ルージュちゃんが欲しいのはグローブに爪が着いているタイプらしい。そしてグローブに爪が着いているタイプの中でも、普段の生活に支障がなくて、戦闘の時に爪が飛び出すタイプのが欲しいらしい。
となると数はどうしても限られてくる。爪が飛び出すタイプはレア度がけっこう高いのが多い。
「これいいかも」
ルージュちゃんが指さしたのは青系の色のグローブ。爪が飛び出すタイプのやつだ。レア度はHRだ。お値段はなんと47万マル。HRの武器はこれくらいの値段ぽいけどね。
見た感じ性能も良さそうだし、トレーダーが使うのにも問題なさそう。
「似合ってるかな?」
さっそく試着するルージュちゃん。グローブ姿が様になっていた。
「似合ってるよ。いい感じじゃない?」
「これにしよっと」
ルージュちゃんはかなり気に入ったらしく、海のグローブを購入して、さっそく装備していた。
「まいどありーー」
私達は店を出ると、ふらふらと街を散策する。
「そうだ、ルージュちゃん明日アレラム村行ってみない?」
「そこってアナちゃんが洗脳を解いた村だよね」
「うん、是非来てくださいって言われて、まだ行ってなかったから」
始まりの街以外の街とか村に行ったことがないから興味もあるし。ふと思い出して行きたくなったんだよね。
「どんくらいの距離?」
「地図見た感じ、片道2時間くらいかな」
「なら行ってみよっかな。面白そう!」
現実にいた時じゃ2時間も歩くなんて考えられなかったけど、こっちに来てからは2時間なんて大したことないって感じになっている。
そんな感じでぶらぶらしたり、お茶したりしているといつの間にか夕方になっていた。こっちに来てから時間の経過が早い気がする。
「そうだ、今日の夕飯もまんぷく食堂でいい?」
「うん、あそこ美味しいしね」
ルージュちゃんの提案に私は頷いた。私達はすっかりまんぷく食堂に胃袋を掴まれていた。居心地もいいしね。
まんぷく食堂に行くと、いつものメンバーがいた。顔馴染みのプレイヤーも多いので、彼らとは挨拶するくらいの仲になっていた。
カウンターに座って、ここの料理人のヒナミちゃんと話に花を咲かせていると、ヒナミちゃんのお兄さんのリクさんが後ろから会話に割って入るように話しかけてきた。
「なあなあ2人とも、俺らのギルドに来ないか? 『もふもふ軍団』ってギルドを作ったんだ」
「ファンシーな名前のギルドだね」
ルージュちゃんは後ろを振り返って、興味津々と言った様子でリクさんの方を見た。
「俺が名付けたんだけどな、可愛い魔物とか好きなやつのギルドにしようと思って」
そう言えばリクさんはサモナーで、可愛い魔物に目がないんだっけ。スライムを目に入れても痛くないってくらいに可愛がっている。
「他にも可愛い魔物好きのやつらがいるぜ。紹介する」
リクさんが紹介する3人はたまにまんぷく食堂に食べに来てる人だ。何回か見たことはある。話したことはないけど。
「こっちはハヤト。ネクロマンサーで、アンデッド系の魔物を可愛いがってるんだ」
「ハヤトです」
眼鏡を掛けた青年はぺこりと頭を下げたので、私も会釈する。アンデッド系の魔物って可愛いの? とか思ったけど、口にはしなかった。
「俺はシュウヤ。竜人で職業はドラゴンライダー。俺のドラゴンはまだ小さいけど、可愛いんだ」
小さなドラゴンを抱いている少年はシュウヤと言うらしい。ドラゴンライダー! ドラゴンを育てるってロマンだよね。
ドラゴンライダーは初めは卵からドラゴンを育てる職業で、大器晩成型だと言われている。昨日やっと卵からドラゴンが生まれたらしい。まだミニサイズのドラゴンはめちゃくちゃ可愛い。
「かわいい! 触っていい?」
ルージュちゃんは触っていいか聞きながら、ドラゴンに手を伸ばしかけていた。え、いいな。私も触ってみたい!
「私も触りたい!」
「そっとならいいぞ」
ドラゴンの主人に許可を貰ったので、私とルージュちゃんはミニドラゴンに群がった。そっと頭を撫でると、気持ち良さそうな顔をした。なにこのミニドラゴン。めっちゃ可愛い。心が浄化されそうだ。
私達がミニドラゴンにメロメロになっていると、リクさんがもう1人の仲間を紹介する。
「こっちはサクヤだ」
「僕はサクヤといいます。僕の場合は魔物使いではなく、僕自身が獣に変身出来るんです。僕の選んだのはビースト(獣化者)なので」
この爽やかな好青年ももふもふ軍団の一員らしい。ビーストは確か獣に変身できる職業だよね。獣人限定の職業だっけ。
「僕はライオンに獣化出来ます。ここじゃ披露出来ませんけどね」
ライオンに変身か。それもかっこいいかも。にしてもすごいねもふもふ軍団。魔物使いだったり、自分が動物だったりする人達が集まってるんだね。
うーん、どうしようかな。メンバーは楽しそうだけど、私達は魔物使いでも、魔物でもないからね。ギルドについてはもう少し考えたいかも。
「もふもふ軍団も楽しそうだけど、少し考えさせて」
「私もギルドはまだ保留かなあ」
ルージュちゃんも私と同じ考えらしい。ギルドはじっくり考えたいしね。
「入る気になったらいつでも言ってくれよ。もふもふ使いじゃなくても、もふもふ好きなら大歓迎だ」
そう言って貰えたので、もふもふ軍団をギルドの有力候補として頭に記憶する。
余談だが、リクさん達4人は、よく4人パーティで行動してるらしく、4人でギルドを作って、知り合いを誘いながらどんどん人を増やしてるらしい。今は10人になったんだとか。
「ヒナミちゃんも、もふもふ軍団に?」
私の問いにヒナミちゃんははっきりと頷く。
「はい、お兄ちゃんに誘われたので。知ってる人のギルドのが色々と安心ですし」
「それは分かるかも」
知らない人と組むより知ってる人と組む方がいいもんね。
「そう言えば、ギルドの勧誘が盛んなんですよね。この食堂でもギルドの勧誘をしている人がいましたよ」
まんぷく食堂は多くのプレイヤーが集まる食堂だし、ギルド勧誘には絶好のスポットなのかもね。
「へぇ、面白いギルドとかあった?」
ルージュちゃんが身を乗り出して尋ねる。
「カルマ値0の人限定のギルドとか募集してましたよ。カルマ値0で調整ってすごいですよね」
「カルマ値0で固定って相当な変わり者集団だね」
「カルマ値ずっと0って難易度高くない?」
カルマ値はあんまり意識したことなかったけど、0で固定するってすごいね。かなりの労力を必要とするのでは。少しの行動でカルマ値は増減するし、0で固定するってすごい大変じゃない?
カルマ値0限定ギルドに少し興味を持った。0で固定とか面倒さそうだし、入りたいとは微塵も思わないけどね。
「他にも、プリースト限定のギルドなんかも勧誘してましたよ」
プリースト限定のギルドもあるんだ。エンチャンター限定のギルドなんかもあるのかな。
「個性的なギルドが色々あるね。面白そうなとこ探してみるのもありかも?」
「いいね、アナちゃんはどんなギルドがいい?」
私達はギルドの話で花を咲かせていた。色んなギルドの噂話を聞いたりしてね。まんぷく食堂のヒナミちゃんは色んな話を持っているから聞いてて楽しい。
私達は夜遅くまで、話し込んでいた。