第137話 経験値の迷宮
この大きな宝箱は当たりなのでは? そう思い、私は鑑定する。しかし、これも外れだと分かった。
「この宝箱を開けると、大量の魔物がおそってくるって。どうする? 開く?」
「急いでいるし、やめときましょうか。わざわざ大量の魔物と戦う意味もないですし」
「それもそうだね」
私達がイベントに遭遇したい気分の時なら、開いたかもしれないが、今はそういう気分ではない。
今はイベントを満喫し終わり、急いで移動している時だからである。
その後、しばらくはは宝箱に出会わなかった。しかし、宝箱のことは半分忘れかかった頃、再び宝箱の山へと出くわす。
忘れかかった頃に再びっていうやつである。
「すごい! 小さな宝箱がいっぱいだ!」
今度はミニサイズの宝箱がランダムに置かれたエリアへと到達したのだった。
「全部鑑定してみるよ。ちょっと待ってね」
私はミニサイズの宝箱を鑑定する。手前のから順番に見ていくが、今のところ罠の宝箱しかない。これは全部外れ? と思ったら、1つだけ当たりの宝箱を見つけた。
それは経験値の宝箱で、経験値がたくさん得られるらしい。開けると、経験値がたくさんゲット出来るってこと?
「あれは経験値の宝箱だって。開けると、経験値貰えるのかな?」
「開けた人だけってこと?」
「分かんない。いっせいのせーで皆で開ける?」
私は首を傾げながらも、経験値の宝箱へと手を伸ばす。すると、他のみんなも宝箱へと手を重ねる。
私達は頷きあって、同じタイミングで宝箱を開いた。
宝箱から、パフンという間抜けな音がして、中から経験値の迷宮のチケットが出てきた。枚数は1枚だけど、このチケットを使えば、チケットの使用者と、同行者5人までが経験値の迷宮に入ることが出来る。
4人なら問題はなしだ。
「これって経験値の森みたいなもの?」
首を傾げるルージュちゃんに茶々さんが首を振って否定する。
「いえ、経験値の森はエリアを移動しましたが、これは地下迷宮の中にある経験値の迷宮エリアに入れるチケットですから、少し違うんじゃないでしょうか」
チケットの裏にはご丁寧に、経験値の迷宮エリアの場所が書かれていた。場所を見ると、本当にすぐ近くで、目と鼻の先だった。
よく分からないところで、親切である。
「入ってみようよ。せっかくアナちゃんが見つけてくれたんだし。経験値貰えるんでしょ?」
「だねーー」
私達は迷わず、経験値の迷宮エリアへと足を踏み入れる。経験値をたくさんゲットしたい。
経験値の迷宮は、迷宮という名前のとおり、迷路のようにいくつもの道が入り組んでいた。地下迷宮より数倍複雑そうだ。
「迷路かあ。なんか楽しそう」
「子供の頃、公園かなんかで迷路で遊んだのが懐かしいですね。規模は段違いですけど」
ガチの迷路って感じで、面倒くさいという気持ちより、好奇心が勝っていた。
「これってゴールを目指すものなのかしら?」
「分かんないけど、多くの魔物を倒したら経験値ゲットじゃないの?」
経験値を持ってるのって魔物だし。魔物を倒しつつ進んで、ゴール地点にボス魔物がいるっていうのが無難じゃない?
「進めば分かるよ! 行こ!」
ルージュちゃんは経験値を余程ゲットしたいのか、早く早くと私達を急かす。鼻歌でも歌いながら、スキップでもし始めそうな雰囲気である。
「まあルージュちゃんの言う通りだよね」
私達は軽いノリで、経験値の迷宮をスタスタと進む。辺りには私達の足音だけが木霊していた。
「ねぇ、今更だけど、迷路とか進む時って、感覚で進む派? メモとか取る派?」
ある程度進んで、私は気付いた。これ、メモとか取らないとどの道を進んだか分からなくなるやつじゃね?と。
私は地下迷宮でも、ちょこちょこ通った道をメモったりしていた。売るためと、迷子にならないために。
ここではもっと本格的にそれをした方がいい気がする。地下迷宮より、ここの迷路は複雑だし。
もうこの時点で、私はどの道を進んできたか不安を覚えているよ。
感覚で進める迷路が得意な感覚派がいるなら、、感覚を信じてみるのもいいかもしれないけど……。
私の問いかけで、静寂が生まれた。ルージュちゃんは可愛らしく小首を傾げた後、「感覚派かなあ」と呟く。
マロンちゃんも感覚派らしいが、極度な方向音痴のこちらは当てにしていない。
「拙者は今からでもメモを取るべきだと思いますよ……」
常識人である茶々さんもそう言ってくれたので、私はメモを取り始める。
私が言い出しっぺだし、地図に弱いマロンちゃんや戦闘を歩く茶々さんにメモ係は任せられないし。
私はメモを取ることに全神経を注ぐことにした。
迷路を歩きながら、進んだ道をメモして、マッピングするという地味な作業である。中々魔物には出会わないね?
そんな時、茶々さんが声をあげた。
「あ、宝箱ですよ」
経験値の宝箱Lv200
倒すと大量の経験値が得られる。
「あ、それ魔物。倒すと経験値いっぱい貰えるって」
「なるほど! 【月下美人】」
茶々さんが刀を抜き、素早く切り裂く。刀が夜の色に輝き、敵を切り裂くタイミングで、色が消えるというかっこいいエフェクトであった。
経験値の宝箱は倒すだけで、大量の経験値を得られた。私のレベルは一気に240にまで上がった。
「経験値美味しすぎません?」
「この調子でガンガン宝箱を見つけよう!」
「見つけても鑑定するまで開けないでねーー」
ルージュちゃんは鼻息を荒くする。その様子に少し不安を覚えたので、一応釘を指しておく。
「分かってるよーー」
ルージュちゃんはにへらと笑う。
私達は宝箱を見つけて、鑑定して、倒し……、といったことを繰り返す。迷路をマッピングしながら歩いていたので、私は足元をちゃんと見れてなかった。
「アナちゃん! 段差気を付けて!」
「あ、危ない危ない。教えてくれてありがと」
よく分からないところに大きな段差があった。この段差いる? と思いつつも、顔を上げて、段差を降りる。
「いやいや。あ、宝箱!」
段差の下の宝箱も経験値持ちだったので、倒す。これまでで10体近くの経験値宝箱を見つけて倒していた。
その結果、私のレベルは251になっていた。ルージュちゃんが248、茶々さんが245、マロンちゃんが242と皆中々にレベルが上がっている。
「私達も立派な上級者プレイヤーなんじゃない?」
ルージュちゃんはレベルを見ながら、ぴょんぴょんと飛び跳ねていた。ルージュちゃんが飛び跳ねると耳が揺れて可愛いね。
「まあ上級者プレイヤーには入ってるんじゃないですか? 最前線プレイヤーとまでは行かないでしょうけど」
今の時期だと、覚醒スキルを覚えてたら上級者プレイヤーには入るんじゃないだろうか。
トーナメントの上級者の条件はもっと緩いレベル100からだけど、今だとレベル100以上なんて初期から始めてるプレイヤーなら、ゴロゴロいるし。
逆に最前線プレイヤーは300レベルを超えてるんじゃないだろうか。アラトとかもそんくらいだし。
「あ、また宝箱だよ! 今度は小さいね!」
「本当だ」
ルージュちゃんに言われて見ると、確かにその宝箱は小さかった。今までにないサイズだ。何か大きさに意味はあるのだろうか? 小さいと経験値があまり貰えないとか。
そんなことを考えていたものの、実際に倒してみると、さっきまでの宝箱と倒しやすさも経験値も同じだった。
ただサイズが小さいだけなのかな。同じサイズの宝箱だと飽きるだろうから、小さくした! みたいなノリだったりするのだろうか。
「特に何も変化ありませんでしたね! 次行きましょう、次」
私達はどんどん切り替えが早くなっていた。
更新遅れて申し訳ないです!しばらくリアルが忙しいので、週1~週2投稿の予定です。