第136話 宝箱は罠の香り
「アナちゃんの強化アップイベント終わったね!」
「確かに強化アップ出来たかも。それと情報収集も!」
私達は地下迷宮の森を抜け、地下迷宮を進んでいた。もう特に用事がないので、このまま地下迷宮を脱出する予定である。
「地下迷宮を脱出したら、アイテムの色々とかを換金したりして、武器とか防具を強化したいですね」
「防具の材料も色々ゲットしたものね」
私達は地下迷宮で欲しいと話していたスピードをあげたり、気配を消したりといった加工が出来る防具の材料を入手していた。他にも色々いいアイテムをゲットした。
これらを使って、防具を加工するか、新しく作ってもらうかする所存であった。
「トーナメント見てると、ドキドキしてきちゃうよね。全員参加トーナメントとか人数やばいよ!」
ルージュちゃんが胸に手を当てて、興奮したように捲し立てる。
トーナメントのページを見ると、参加者が前より増加した。ダントツで、全員参加トーナメントの人数が多い。
「ねーー。こんなに人数いたら、他のプレイヤーのスキルとか、戦闘スタイルとかも見れそうだね。自分が試合を頑張るのはもちろんだけど!」
何気に私は他のプレイヤーにも興味があった。私はそんなに顔が広くはないし、野良パーティとかも参加しないので、決まったメンバーとばかりクエストに行っていた。
だからどんな戦闘スタイルがあるかをあまり知らないのだ。この機に他のプレイヤーの勇姿を焼き付けたい。
野良パーティは最初に行ったパーティが沼すぎて参加する気がわかないんだよね。まあ茶々さんとかとの出会いもあったから全てが悪いとは言わないけどさ!
「他のプレイヤーかあ。私以外の生産職はどんな感じで戦ってるんだろ。あんまり戦う生産職を見たことがない」
ルージュちゃんは不安そうにそう零す。生産職もトーナメントに参加してる人が一定数いるんだよね。その一定数の参加者が参加賞狙いか、ガチで戦う気なのかは分からないが……。
鍛冶職人で武器を振り回してる人や、アイテム職人でアイテムで戦う人は見るけど、それ以外はよく分からない。
「鍛治職人やアイテム職人が勝つって普通は考えるよね。まさかのトレーダーで、番狂わせを演じなよ!」
私が鼻息を荒くしてそう言うと、ルージュちゃんはやる気になった。
「番狂わせってなんかかっこい!」
「え? そこ?」
私達はそれぞれの目的を達成したことや、地下迷宮に慣れきったということもあり、はしゃぎながら歩いていた。
「人の気配がしますよ」
茶々さんに言われて、私達が一斉に後ろを振り返ると、プレイヤーと思われる5人組がいた。
「きゃっきゃきゃっきゃ楽しそうだな。遠足かよ」
通りがかったプレイヤー5人組は呆れたような目でこちらを見る。そして、そのうちの1人に嫌味みたいなことを言われた。
このプレイヤー5人組はかっこうが派手で、如何にもイキったプレイヤーって感じだった。
「何なの、あんたら?」
ルージュちゃんが不機嫌そうに言い返す。
「いや、別に。楽しそうだと思ってよ」
プレイヤーのうち1人はきつい口調のルージュちゃんに少し怯んでいた。あ、こいつら大したことなさそうだな。
鑑定で見ると、実際に大したことはなかった。レベルは210前後で大したスキルも持っていない。
「行こうぜ!」
その5人組は大声で笑いながら、早足で私達を追い抜かしていった。
「何あれ? 感じ悪ーーい!」
ルージュちゃんは不機嫌さを隠そうとしない。まあ感じ悪いっていうのは完全同意だけどね。ちょっといらってきた。
「ただいきがりたかっただけではないでしょうか」
「そうよ。気にしなくていいわ」
いるんだよね。ああいうイキリたがりとかDQNは。まあただイキがるだけで、根性はないやつが多いのだが……。
「そんなことよりさ、見て! なんかここら辺からちょっとずつ上り坂になってるくない?」
私は暗い話題を変えるために、明るい声で話しかけた。なんか少しずつ上り坂になってるんだよね。
これはもうすぐ地上ってことなんじゃない??
「本当だ! 念願の地上だ!」
「地上はまだまだですよ……。気が早いです」
「えへへ」
不機嫌そうにしていたルージュちゃんの機嫌は一気に良くなったっぽい。
冒険は楽しいのが1番だよね。
私達は雑談を混じえながら、襲いかかる敵をばっさばっさと倒していく。地下迷宮に入って随分と経つし、ここでのかなり戦いには慣れきったなあ。
色んな魔物がいるけれど、地下迷宮の魔物の特徴は熟知した。私は次に魔物がどの攻撃を繰り出してくるかとかも、感覚で分かるようになっていた。
このまま何事もなく、魔物をひたすら蹂躙して、地下迷宮を脱出するのかと思ったが、また一悶着ありそうである。
私は目の前に広がる光景を見て、そう思う。
私達の目の前ではさっき私達にイキリ散らしていた5人組が青ざめた顔で、何かを凝視していた。
「何事ですか?」
茶々さんは気になったのか、5人組に尋ねる。しかし、反応はない。
私達は警戒しつつも、5人組に近付く。5人組が凝視する先に何かあるのかと思ったけど、あるのはただの宝箱だった。
一応私は鑑定してみる。
恐怖の宝箱
この宝箱を開くと、とてつもない恐怖に襲われる。
「あの宝箱を開くと、とてつもない恐怖に襲われるらしいよ」
「何ですか、それ」
「鑑定したら、そう書いてた。開かなければいい話だよ。行こ」
私達は恐怖に固まる5人組を後目に、追い抜かして先へ進む。
「あの宝箱を開いてみたかったわ。とてつもない恐怖ってどんな感覚なのかしら?」
コクリと首を傾げるマロンちゃん。可愛らしい顔でとんでもないことを言っていた。
私は恐怖の宝箱なんてごめんこうむりたい。とてつもない恐怖なんて味わいたくないね。
「あ、見てください! また宝箱がありますよ」
私達が何故かは分からないが、誰が恐怖に固まる顔が上手いか選手権を初めた頃、茶々さんがそう言って、斜め前を指さした。
「アナちゃん! 鑑定!」
「ほいほい」
私は鑑定を使ってみる。
毒の宝箱
この宝箱を開けると、フレアの毒ガスが充満する。
「毒の宝箱だよ。開けちゃダメ」
「何この罠シリーズ」
罠の宝箱はこれで2つ目だ。これは一体何なのだろうか……。ただのプレイヤーへの嫌がらせ?
私達は宝箱を通過しつつも、首を傾げあう。
「宝箱があるのに、開けられないなんて悲しいわ」
「それな! あの宝箱は何なんだろうねーー。って噂をしたら、また来たよ」
ルージュちゃんに言われて、ルージュちゃんの指の方向を見ると、3つ目の宝箱を発見した。
「本当だわ。アナ、鑑定お願い」
「これもどうせ罠なんじゃないの?」
ルージュちゃんがため息をつきながら、呆れたように両手を挙げて、お手上げといったポーズを取る。
「三度目の正直ってのがありますし、これはあたりかもしれませんよ!」
皆の期待を一心に背負い、私は鑑定を使う。……しかし、これも外れだった。外れどころか罠宝箱である。
「ダメだよ。これも罠だ」
「そうなんですか……」
茶々さんは目に見えて分かるほど、がっくしと肩を落としていた。
そのあとも私達が進んでいると、いつくもの罠宝箱と遭遇した。私の鑑定で全て回避したけどね。私の鑑定がなければ、どれかの罠には引っかかっていただろうな……。
私達は罠の宝箱にうんざりしかかっていた。そんな時、またしても宝箱が現れた。
「今度は趣向を変えてきましたね」
茶々さんは警戒レベルMAXの状態で、宝箱を睨みつけていた。
私達の前に今度は大きな宝箱がそびえ立っていたのだった。今まで見てきたものの数倍はある宝箱。これは少し期待してしまうけど……。