第132話 地下の森
「さっきより魔物が強くなっていますね。気を抜かずに行きましょう」
「だねーー」
私達は意思疎通を取りながら進む。その後は同じような葉っぱの魔物が出てきて、どの魔物も葉っぱを投げてくるのでやりやすかった。
葉っぱを藁人形にいれたら、秒で倒せるし。
圧倒的私達の無双ゲーで楽しい。少し香りを嗅ぎすぎたせいか頭がぼーっとするけど。気になるほどじゃない。
例えるなら、微熱出た時に少し頭がぼーっとするあの感覚である。
私、あの頭がぼーっとする感じ、嫌いじゃないんだよね。まあ今のこの頭の感覚は地下迷宮の中だし、何とかした方がいいと思うけど。
しばらくして、葉っぱの敵が出現しなくなると、頭がぼーっとする感覚も収まってきた。時間が経つと、治る系のやつで良かったよ。
《うん、気配が近付いてるね》
《気配って、光の精霊の?》
《そうだよ》
《また行くのが大変なところにいるのかなあ》
《さあどうだろう。地下迷宮自体が行くのが大変な場所だし、そんなに変なところにいるのかな。いや、でもオブリアのことだしなあ》
《ふーん》
どんなところにいるのかはアウスも分からなさそう。分かったのは、光の精霊の名前がオブリアということだけである。
前見たくめんどいところにいるのかなあ。少しだるさはあるが、どんな辺鄙なところにいるのか、面白そうという気持ちもある。
「アナちゃん! 見て見て! ここからが本格的な森って感じだよ!」
「本当だ」
ルージュちゃんに言われて見ると、目の前に土で出来た階段が続いており、その土の階段の周りには草木が咲き乱れている。
さらに階段の向こう側には、美しい自然が広がっていた。太陽がないのに、明るく、緑が輝いていた。
「景色がいいね! やっぱり地下より森だよ」
「ここは一応地下で、地下迷宮の中ですよ」
はしゃぐルージュちゃんに茶々さんは冷静に返した。
「それはそーなんだけど、やっぱり緑っていいよ」
私だけじゃなく、皆も暗い地下迷宮には疲れていたようだ。気持ちはすごく分かる。緑って素晴らしいよね。
あ、なんか私地球温暖化防止を志してる人みたいなこと思ってるね?
「あ、さっそく魔物の群れが来ましたよ」
「ならさくっと倒そう」
森の番犬Lv230
スキル 春の息吹 噛む 鋭い牙 我貫 木の力 森の守り
「牙を使ったスキル多いかな。後森の力を借りて体を守る森の守りスキルがある。それから春の力を溜める春の息吹スキルも持ってるよ」
私がスキル情報を伝えると、皆は頷いて、武器を構える。
「いけ、爆弾達![爆裂ウィンク]」
「[物点予測]【狙い撃ち】」
「【閻魔切り】」
「【破滅の旋律】【反転(呪)】[カース召喚ex]」
私達は一斉にスキルを放出する。これには慣れたものである。
「カースさん、分裂して、敵一体に対して一体ついて! 後私達4人にも回復ください」
カースさんは速やかに私の指示に従い、分裂してそれぞれの役割を果たしてくれた。
「『防御力デバフのプレゼント』【呪い】」
私が防御力デバフをかけると、皆が一気に大ダメージを与える。ほとんどが私のカースさんとルージュちゃんの爆弾で、死んでいった。
一気に経験値が入ってきて、私のレベルは232になった。この調子で、神聖アシュタリカ帝国に入る前に、レベルを250にしたいところである。
「そう言えば何ですけど、地下の森には、武器のレベル上げとか進化に使える素材がけっこうあるらしいんですよ。それも探しながら行きたいですね」
「桜子ちゃんが話してたね! なんか防具の進化に使うと、気配を消しやすくなる防具が出来るとか。後移動速度とか回避行動が上がる防具の材料も! 回避行動力はあげたい」
「拙者は両方欲しいですが、気配を消す方優先ですかね……」
「あ、トーナメントに向けて武器とか防具も強くしたいよね」
「トーナメントまであまり時間がないわね。装備を強化するなら、ここでの用は急ぎめで済ませましょ」
私達は地下迷宮で時間をかけて、進んでいるから、装備とかを強くして、練習してたら、ギリギリになるだろうな。まあぶっつけ本番ってのもありだよね!? いや、なしかなあ……?
よく考えたら、私のこのワンピースはSSRのままだし、これは強くしたいかも。後、靴下。他に腕輪とかチョーカーといった持ってない装備とかもあるから、そこら辺も欲しいな。
そんなことを考えながら、敵をなぎ倒して行く。慣れてくると群れでも瞬殺出来た。
私とルージュちゃんが大人数の敵との戦いが得意だからね。特に知能のない対魔物はやりやすい。
茶々さんはどちらかと言うと、1vs1で確実に倒すタイプだ。私達のパーティでは盾役みたいなのもしてくれてるけど。
マロンちゃんは不意打ちが得意なタイプだよね。魔物相手だと不意打ちを披露する機会は少ないけど。
私は不意打ちしてくるタイプとの戦いは苦手かもなあ。急に狙撃されたりしたら、躱す自信がない。
あ、でも狙撃されたら、藁人形に銃弾を使えば終わりか。
茶々さんみたいに素早い人も厄介かなあ。素早いと、カースちゃんに守ってもらえるかどうか。
私は、動きが遅くて大ダメージを与えてくるベルセルクとか、魔法系の職業やサモナーなんかは相性良さそうだけど。
私が対処すべきは、物を落とさないかつ、物を奪う隙をくれず、カースちゃんが捕まえられないような素早い動きをする人だな。
皆の戦いを見ながら、トーナメントのイメトレなんかをしちゃう。
「地下の森の魔物は割とワンパターンね」
「もう少し進んだら、違うタイプのが出てくると思いますよ」
「アナちゃん、光の精霊に貰った石はこっちを指してるんだよね?」
前に続く道を指差すルージュちゃんに私は頷く。
「うん、そうそう」
《もう少し歩くと思うよ。後もう少し下にいるかな。どこかから下ることになるだろうね》
《え、降りるの》
光の精霊は地下が好きなのかな。前もなんか下った記憶がある。
私はアウスの言葉を信じつつも、歩いていると、本当に道は下り坂になっていった。これくらいの緩やかさなら下るのも苦ではない。
《もっと下だから、階段とか梯子を降りることになると思うよ》
私の心を読んだかのように、アウスは言った。行きの下りは楽でも、帰りに登るのがしんどいんだよなあ。
「あ、風景が変わってきたよ。なんか神秘的な像があるよ」
アウスとの会話に夢中になっていて景色を見ていなかったが、ルージュちゃんにそう言われ、正面を見ると、いくつかのクリスタルのように輝く像がそびえ立っていた。
多分誰か人をモデルにしてるんだとは思う。美しい女性がモデルかな? 多分。
あの間を歩けってことだよね?
「これを作った人はすごい自己顕示欲が強いんだろうな」
「権力者とかって自己顕示欲強いっていうじゃん。偉い人が作ったんじゃない?」
「私なら、恥ずかしくて無理」
私なら恥ずかしくて、自分の顔のこんな像作れないよ。こんなのが作られたら、もう人前で歩けない。
《随分な言い方だね。この像は古代王国のとある女王様のものだよ》
アウスがどこか皮肉っぽく言った。
《古代王国の女王様! やっぱり偉そうな感じ?》
《さあ、どうなんだろう》
《ここって古代王国の跡地だったりする? なんか古代王国関連のもの多くない》
《昔のものというのは地中や海に沈むものだよ。地下迷宮には、そんな昔の遺物が存在しても可笑しくないだろうね》
《ふーん》
私達はそんなやり取りをしながら、女王の像の間を歩いていく。
私は歩いている時、少し嫌な感じがした。ぞっとするような、何かに見られているような……。
早くここから離れたい、そんな気持ちが湧いてくるほどには、不快感が現れていた。
私の足は気が付くと、早まっていた。